中小企業とDX
全員DXで生産性を向上 “社員が楽になる”を実感して自走へ【株式会社後藤組(山形県米沢市)】
2026年 2月 9日
建設業界は中小企業の中でも人手不足が最も深刻な業種だ。長時間労働や休日が少ないなどの厳しい労働環境、賃金の低さなどが要因と言われている。山形県米沢市の建設業、後藤組は新卒採用を毎年実施し、賃上げも着実に行うなど、建設業界の課題を乗り越え成長している。なぜ同社にはそれができるのか。「全員DX」を掲げ、徹底したデータドリブン経営を実践し、生産性を高めているからだ。ただ、DXへの取り組みは、決して平たんな道のりではなかった。社長の強い思いを社員が受け止め、実践に移すまでの“戦いの歴史”は、DXに踏み出す多くの中小企業にとって示唆を与えてくれるものだ。同社は一連の取り組みが評価され、経済産業省の中堅・中小企業のDX優良事例を集めた「DXセレクション2025」で、最上位のグランプリに輝いた。
24歳で亡き父の跡を継ぐ

後藤組は1926年に現社長後藤茂之氏の祖父が創業した。当初は道路や橋整備などの公共事業を中心に事業を行っていた。茂之氏が日本の大学を卒業後、米国の大学に留学していた時、父親である社長が病に倒れ亡くなった。会社の経営幹部が茂之氏を訪れ「後を継いでほしい。あなたでないとだめだ」と言われた。茂之氏は「とてもじゃないが無理です」と固辞したが、最終的に大学を中退して、1992年に同社に入社した。24歳の時だった。
入社したものの、会社のことは右も左もわからない。当時の日本経済は、バブル崩壊で長期停滞に入ったところ。公共事業にも厳しい目が向けられ「コンクリートから人へ」や「脱ダム宣言」といった言葉が流行語になり、公共事業への予算投入は大幅に減額されていた。同社の業績も右肩下がりが続いた。「今のままでは先行きが危うい。何とか新しいことに取り組まないと」。社長として焦りながら、さまざまな試行錯誤を繰り返した。公共事業に加え、民間建築事業を受注し、業容を拡大させようと自ら奔走した。社内体制についても、人事評価制度など新しい制度の導入を考えた。ただ、こうした新しい取り組みは社員から反発を招いた。
ある時、組織をフラット化しようと考えたところ、一人の幹部社員が反対した。社内で営業のトップと目されていた社員だったが、「それなら私は退職します」と辞表を持ってきた。後藤社長は「わかりました」と辞表を受け取った。「その社員はきっと、『私を辞めさせることになるぐらいなら新制度は撤回されるだろう』と思っていたのだと思う。だから、私が辞表を受け取った時にはびっくりした顔をしていた」と振り返る。周囲の社員からも辞めさせないでくれと懇願されたが、制度導入を撤回することはなかった。「責任を取るのは社長である私だ」と腹をくくっていたのだ。結局その社員はそのまま退職していった。他の社員には「うちの社長はやると言ったら必ずやる人だ」という印象が植え付けられた。
若手人材定着へDX経営に着手するも苦難の連続

同社は、道路や河川整備など公共事業が中心の土木事業主体から、民間建築が中心の建築事業、リフォームを手掛ける住生活事業、建設用仮設資材のリース・レンタルを手掛ける資材リース事業と、業容を拡大させていった。事業の拡大に不可欠なのが人材だ。しかし、建設業界は残業や休日出勤が当たり前という風潮が根強く残り、技能伝承も先輩のやり方を見て学ぶという徒弟的な習慣が続いていた。せっかく採用した若手人材は、長時間労働や徒弟的な仕事を嫌って定着してくれないという課題を抱えていた。そこで後藤社長は社員に「デジタルを活用して仕事のやり方を変革するDXに取り組む」と宣言した。取り組みがスタートした2019年は、DXという言葉が一部で使われるようになってきたころ。社員にとっては「また社長が何か言い出した」と思う唐突なものだった。
後藤社長はまずDXの担当者として、当時営業部署にいた笹原 尚貴氏を指名した。新しいことにチャレンジできる素養があると判断したからだ。笹原氏は「私はデジタルのこと何もわからないのですが」と戸惑ったが、DX専任となった。後藤社長はまず、現在のアナログ情報による仕事のやり方から脱却して、DXを使って二重入力をなくし業務を簡素化することを指示した。社長の方針を受け、笹原氏はDXへの取り組みに着手した。
笹原氏は独学でプログラミング言語を学び、さらに当時普及し始めていた専門的なスキルや知識がなくても業務用のアプリが作成できるkintone(キントーン)のノーコードアプリの作成に取り組んだ。しかし、現場のためによかれと思い作ったアプリを見せても、誰も使ってくれない。現場の社員は、既存のやり取りで慣れており、わざわざアプリを使う必要性を感じていなかったのだ。「それならもっといいアプリを作っていこう」。笹原氏は一人苦闘する日々だったが、現場との距離は拡がるばかりだった。
力技で「全員DX」に移行

ある日、後藤社長は笹原氏を呼んでこう告げた。「君は自分でアプリをつくるのは止めなさい。君の仕事は社員が自分の業務で使えるアプリを自分たちで作れるようにすることだよ」。笹原氏はそれから、社内で勉強会を開催し、社員にアプリ作成を学んでもらうことにした。勉強会は後藤社長の発案で、ルールを設けた。勉強会の最後にその日学んだことについての理解度テストを行い、テストでビリになると、次回の勉強会はその人が教師役になる、というものだった。だれもビリにはなりたくないし、もしなってしまったら教師役として今まで以上に理解しなければ教えられない。そこから参加する人の意識が変わった。また後藤社長は「どんなものでもいいから、毎月1つ以上のアプリを全員が作りなさい」と厳命した。若手はなんとか取り組んでいたものの、多くの社員は「ただでさえ仕事が忙しいのに、なんでこんなことをやらないといけないのか」といった不満を持つ者もいた。「今月は仕事が忙しくて作れませんでした」と言い出す社員もいた。後藤社長は3か月間社員の行動を見たうえで、こう宣言した。「アプリを作成しなかった社員は、今後の賞与に影響します」。力業ともいえるやり方だった。ただ、社員はそこで思い出した。「うちの社長はやると言ったらやる人だ」ということを。
こうして全部門が毎月アプリの作成に取り組むことになった。最初は稚拙なものもあった。しかし、後藤社長が「どうせ作るなら、自分の仕事が楽になるものを作ったらいいじゃない」というと、社員も自分の仕事の中でやれることを考えるようになった。そして、最初のアプリに慣れさせるために、日報アプリを使うようにした。すると「これは便利」と受け止められた。現場に出ていた社員は、それまでは日報作成のために本社に戻っていたが、アプリの活用で会社に戻る必要がなく、早く帰宅できるようになった。また、営業担当者は日報と営業会議の資料を連動させることで、会議の資料作成時間を大幅に削減できるようになった。こうして自分の仕事が楽になることが実感できると、次々と社員がアプリ作成に意欲を持って取り組むようになった。
会社もそれに連動し、DXのスキルによる資格制度を創設し、アソシエイトやスペシャリストといった肩書を与え、賞与に反映させた。また、社内で「データドリブン大会」を開催し、優秀な取り組みには賞金を授与するといったことも行っている。
社員によるDX自走化

全員参加のDXが実現すると、業務内容もデジタル化が加速した。作成したアプリの数は3000を超えた。入社3年の女性の現場監督は、生コンの輸送状況を管理するアプリを作成した。生コンは生コン工場で製造され、ミキサー車に載せて2時間以内に建設現場に運ばなければ、硬化して使い物にならなくなる。そのため、何時に工場を出て、何時に到着するか時間の把握が重要で、現場監督にとっては大きな負担になる業務だった。アプリの導入でその作業を軽減させることができた。これこそ、現場の担当者でなければ作れないアプリと言えるものだった。
また、アプリの利用を協力企業にも広めている。建設現場は現場ごとに作業者の登録を紙で行っていたが、これをQRコードで読み取るようにした。当初は「スマートフォンを持っていない作業者もいるし、対応できないのでは」といった懸念の声も上がったが、導入すると、協力企業から作業負担の軽減になると喜ばれた。
同社は一連の取り組みで社内のDX化を加速させ、結果として労働時間の短縮に成功した。また、現場の品質チェックシートのデジタル管理により、業務品質の向上にも結び付けた。そして、DX導入最大の目的としていた若手人材の定着についても、新卒で入社した社員の3年後定着率が83.3%に改善した。
後藤社長は「DXも最初は社員から歓迎されたわけではない。賞与に反映させるといった“脅し”のようなことを言ってまで実施させたのは、社長の私が腹をくくってやると決めていたから。物事はゼロから1にするのが一番難しい。それをやるのが社長の仕事。動き出せばあとは社員が自走してくれる」と、自らの役割を説明する。
100周年に「DX2.0」で飛躍

同社の2025年5月期の売上高は78億120万円、経常利益7億6800万円。売上高経常利益率は10%強で、社員一人当たりの売上高5200万円という数値は、どちらも中小企業平均はもちろんのこと大企業平均をも上回るものだ。今期はさらに増収増益を見込んでいる。全員DXの推進で、現場からの改善提案が経営に迅速に反映されるようになった成果が業績にも表れている。
同社は2026年に創業100周年を迎える。今後は「DX2.0」として、DXを次のフェーズに進めていく。生成AIを活用して現場の仕事と情報をデジタルで連携させ、進捗を管理するなど、飛躍的に生産性を向上させることを目指していく。また、同社が蓄積したDXのノウハウを社外に販売するため、専門部署も設けた。建設業関連の企業だけでなく、さまざまな業種の企業から引き合いが寄せられているという。
DXの取り組みを始めてから、同社には多くの企業が見学に訪れるという。そして「どうやってここまでできたのか」と問われるという。後藤社長は「社長のやるという覚悟。そして、DXが社員にとって自分の仕事が楽になるという実感を持たせることにつきる」と断言する。ゼロから1にするのが社長、そのあとは社員が自走して加速するというDXへの向き合い方は、多くの中小企業に参考になるものだ。
企業データ
- 企業名
- 株式会社後藤組
- Webサイト
- 設立
- 1926年(大正15年)
- 資本金
- 9,685万円
- 従業員数
- 150名
- 代表者
- 後藤茂之 氏
- 所在地
- 山形県米沢市丸の内二丁目2番27号
- Tel
- 0238-23-3210
- 事業内容
- 土木、建築、住生活(新築住宅、不動産の売買仲介、リフォーム)、資材リース