~中小企業経営者は、今の景気をどのように感じているのか~

第157回中小企業景況調査【令和元年7~9月期】

2020年 1月 29日

中小製造業企業における設備投資の現状を考える

2019年7-9月期の中小企業景況調査では、全産業の業況判断DIが▲16.6(前期差1.1ポイント減)、製造業の業況判断DIが▲17.2(前期差2.2ポイント減)、非製造業の業況判断DIが▲16.4(前期差0.8ポイント減)と、非製造業に比べ、製造業における業況判断DIの減少が目立った。本調査では、製造業について、長らく長期資金借入難易度DIが緩和されているにもかかわらず生産設備の不足超が続いていることが確認されている。今期のレポートでは、中小製造業企業における設備投資動向とその背景について検討していく。

1.不足超が続く中小製造業企業の生産設備

本調査では、2013年10-12月期以降、約6年間、中小製造業企業の生産設備の不足超が続いていることが確認できる(図-1)。

図‐1 製造業の生産設備過不足DI(今期の水準)の推移(2010年7-9月期以降)

中小企業では製造業を中心に金融機関からの借入金を利用して設備投資を行うことが多い。借入金には、(1)企業の運転資金を補填することを目的とする短期資金(短期借入金)と、(2)設備投資向けの資金を意味する長期資金(長期借入金)がある。本調査の製造業企業の長期資金借入難易度DI(前期比季調値)を見ると、過去数年間、容易の方向へと推移しており、決して金融機関による貸出姿勢が消極的であったり、厳しい(借入が難しい)状況にはないことが確認できる(図-2)。

図‐2 製造業の長期資金借入難易度DI(前期比季調値)の推移(2010年7-9月期以降)
図‐3 製造業の資金繰りDI(前期比季調値)の推移(2010年7-9月期以降)

一方、調達にかかる様々なコストを強く意識している経営者においては、金融機関からの借り入れよりも内部留保の利用を先に考えることが想定されるため、社内の資金繰りの状況が設備投資実施の有無に影響している可能性が高い。しかし、本調査の製造業企業の資金繰りDI(前期比季調値)はマイナスの値ではあるものの、最近数年間は概ね改善のトレンドにあり、経営者が資金繰りを踏まえて設備投資に関する意思決定を行っているとは言えない(図-3)。では、一体どのような要因が中小製造業企業の設備投資を抑制しているのだろうか。

今期の調査では、経営者より以下のようなコメントが寄せられている。

【コメント】

  • 設備更新をしたいが、市況の動向が見えず決断ができない。米中の貿易摩擦も市況の低迷の要因になっており、長期化が懸念される。(金属製品 新潟)
  • 現在は順調に進んでいる状況ですが、世界情勢が安定せずいつ業況も変わるやもしれない。先行きがあやぶまれ、設備の増強をしたいが踏み切れない状況。(金属製品 富山)
  • 従業員の高齢化と設備の老朽化が進んでおり、早急に対応したいが設備に廻す程の利益が確保出来ていないのが現状。原材料は年々上がるので売価を上げていかなければならない。(窯業・土石製品 福岡)

また、『中小企業白書2018年版』(274-275頁)では、中小製造業企業において設備投資が抑制されている背景として、事業の先行きが見通せないことや後継者の不在、経営者の高齢化などが指摘されており、本調査においても共通するコメントが寄せられた。

さらに、設備投資の今後の動向について、本調査のコメントからは、

  • 米中関係の悪化により、昨年秋頃より設備投資などの停滞が始まり、FA関連製品の需要が停滞している不況下にある。貿易不均衡など国家間の関係が改善されない限り、不況を脱するまで時間がかかりそうだ。(金属製品 岐阜)
  • 今後の景況は米中貿易摩擦問題により、輸出・設備投資関係の市場が停滞気運にあることから悪化が見込まれる。(金属製品 新潟)

といったコメントが寄せられた。

2.見通し:設備投資動向の現状と先行き

設備投資動向を見る上で資金の問題が注目されがちであるが、本調査で今期寄せられたコメントでは、米中貿易摩擦による事業の先行きの不透明感によって、設備投資に消極的になっている経営者の姿が確認された。また、米中貿易摩擦の状況次第では、設備投資関係の市場の動きが停滞するかもしれないという見方も示されていた。

したがって、中小製造業企業においては、設備投資の重要性を認識しながらも、設備投資に消極的にならざるを得ない状況にあると指摘できる。

<参考文献>

文責

ナレッジアソシエイト 平田博紀

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