~中小企業経営者は、今の景気をどのように感じているのか~

第152回中小企業景況調査【平成30年4~6月期】

中小企業景況が示すグローバル市場との距離

2018年4-6月期の中小企業景況調査は、全産業の業況判断DI(前期比季節調整値)が▲14.0(前期差0.1ポイント減)とほぼ横ばいの推移を示した。一方で、全産業の売上額DI(前期比季節調整値)や資金繰りDI(前期比季節調整値)の水準がわずかながら改善した。こうした中、今期の調査では、グローバル市場の変化に強い影響を受けながらも、経営の安定化や事業の拡大に取り組むコメントが寄せられた。

1.輸出額DI(前年同期比)の長期推移から見える中小企業経営

今期の全産業の主要DI(前期比季節調整値)は、業況判断DIで▲14.0(前期差0.1ポイント減)、売上額DIで▲12.5(前期差0.7ポイント増)、資金繰りDIで▲11.3(前期差0.5ポイント増)となっている。

業況判断DI(前期比季節調整値)が横ばいで推移する中、売上額DIや資金繰りDIに若干の改善が示された今期、4期連続で上昇する輸出額DI(前年同期比・製造業)の推移に注目した。

業況判断DI(前期比季節調整値)

調査開始時点において高い水準(10.1)にあった輸出額DI(前年同期比・製造業増加-減少)は、以降、その時々の国際経済の動向の影響を受け、大きな上下を繰り返しなが2ら推移し続けてきた。しかし、過去最低を記録した2009年の1-3月期(▲39.1)を境にその上下運動のトレンドに変化が生じ、特にここ数年間は比較的高い水準で推移していることがわかる。

また、規模別でみると、調査開始から2000年代までは中規模企業のDI値の振れ幅が非常に大きく、小規模企業とはやや異なる推移にあったことが確認できる。これは、中規模企業はグローバル市場の変化による恩恵や弊害を小規模企業よりも大きく受けてきたことを意味している。しかし、2010年代に入ると、規模別のDI値の差が徐々に縮まってきており、小規模企業と中規模企業におけるグローバル市場の動向が与える影響が近似してきていることを示唆している。

2. グローバル市場の変化を注視する中小企業経営者たち

輸出額DI(前年同期比・製造業)の推移に基づくと、規模に関わらず、今、日本の中小企業の多くがグローバル市場に強い影響を受けながらも活動していることが示唆される。そこで、経営者より寄せられた多くのコメントからグローバル市場の変化と中小企業経営の接点の明らかにしていく。

【コメント】

  • 国内需要は減少しているが、海外向け、インバウンド向けの売上は上昇している。今後、ブランド力の強化を図り、売上の増加に結びつけていきたい。(食料品 秋田)
  • 2018年度は、中国向け輸出案件が増えるが、常に不透明感は持ち合わせている。(機械器具 茨城)
  • 輸出向けが多いので海外との価格競争力(為替、輸出コスト含)を向上させる事が急務である。労働生産性の向上。(金属製品 埼玉)
  • 廃棄物をとりまく環境が変化し、対応が難しくなっています。中国だのみから脱脚すべく努力しています。が、人材確保もままならない状況で、委託料の上昇、材料の上昇等、厳しさを増している。(対事業所サービス業 千葉)
  • 建設機械の中古市場が活況であり、中古機械が売れている。台数は少なく、仕入れは高くなり競争が厳しくなっている。新車は輸出が拡大し、国内にはまわらず納期は5ケ月待ちのものもあり、新車の供給がすぐ間に合わない。(対個人サービス業 新潟)
  • 新年度になり期待はしていなかったが、相変らず印刷物の引合いは低調である。ただし4月の韓国・5月の中国への輸出が決まり(機械等)安堵の思いである。(印刷 静岡)
  • 海外医療関連の引合いが活発になってきている。引き続き展示会を通じて自社技術をPRしていく。4~6月に2台の工作機械を新規購入した。(機械器具 岐阜)
  • 一般消費の低調と地方の市場が大幅に悪化しており業界内の倒産が出て来た。ライフスタイルの変化による需要変化と縮少が続くと思われる。一方輸出は若干増えて来たが国内の落ち込みをカバーする程ではない。(卸売業 岐阜)
  • 製品輸入が、97%を超える中、国内での生地の生産が、縮小しています。今後も、ロットが、細かく特殊な生地のみの生産に移行していく感じがしますので、中国を含めた輸出に力を入れていきたいです。(繊維工業 和歌山)
  • 輸出に関しては販路拡大するが、渡航費用などの経費も拡大。国内販路に関しては、既存のルート(大口顧客)3社のうち2社が止まる。新しい大開拓が急務。生産に関しては、今年に入り、正規社員4人の内3人が自己都合で退社。従業員不足で農産物生産が危うい状況。新たな人材確保が急務。(小売業 兵庫)
  • 自動車電装品事業は電動化が加速。要素技術の深化・開発強化で進めている。また既存事業も海外輸出が拡大。異なる両方の成長はいずれ帳尻が合うと予測し、事業の強弱を見極め、高付加価値と形を変えている最中だ。(輸送用機械器具 兵庫)
  • 農機具関係の注文では、北海道向けの田植え機や、アメリカ向けの芝刈り機など、広大な土地向けの農機具の部品を交換するものが多かった。(機械器具 岡山)
  • 中国の建設需要増大により、建機業界は需要に対し生産増加を強めているために、当社としても受注増加となっています。各社の見込みでは今年中は続くとの予想となっています。(金属製品 愛媛)
  • 前期後半より業況はかなり良い状態がつづいています。しかし、弊社の製造している大半は自動車用の部品であり輸出量もかなりの量を占めているのでそこでの波が少し不安材料でもある。(輸送用機械器具 福岡)
  • 園芸農業用刃物は、需要が安定しているが、伸びが期待出来ない。代りに包丁の需要は高止まりで海外からの引き合いに対応出来ない。産業用刃物は、中国リサイクル向け刃物が不調である。総合して不変とした。(金属製品 佐賀)

3.見通し:グローバル市場は、ますます身近な存在になっていく

業況判断DIはほぼ横ばいであったものの、その他主要DIは引き続き概ね緩やかな改善ムードの中にあった。一見変化のないこの状況の中、輸出額DI(前年同期比・製造業)の推移や今期寄せられたコメントを振り返った結果、規模・業種に関わらず中小企業経営とグローバル市場との距離がこのところ急速に縮まっていることが示唆された。

かつては企業規模の大小により取引の対象となる市場やその規模が決まっていたのかもしれない。しかし、今期寄せられたコメントでは、足元の中小企業の活動においてはこうした傾向はうかがえず、国内市場だけでなく、他国の市場動向を同時に詳細に把握しながら、より活動しやすい市場がどこにあるのかを常に懸命に探索している多くの中小企業経営者の姿が確認された。

目の前の経営課題が複雑多様化し、その対応に苦慮している今こそ、その視点を上げ、これまで遠くに感じていた市場を身近に引き寄せるべく様々な情報を探索し、その可能性を模索してみる機会なのかもしれない。

文責

ナレッジアソシエイト 平田博紀

関連記事