ビジネスQ&A

今、狙い目のインバウンドビジネスや市場参入のポイントなどについて教えてください

2023年 4月 28日

コロナ禍もある程度落ち着き、円安で日本に訪れやすくなっている今、改めてインバウンド関連のビジネスも視野に入れたいです。今狙い目のインバウンドビジネスや、市場参入のポイントなどについて教えてください

回答

2022年10月に日本への入国の際の水際対策が大幅に緩和されて以降、訪日観光客は毎月増加傾向にあります。今の訪日観光客が求めているのは、観光客向けにアレンジされた「Touristic」な体験ではなく、より「Authentic(=本物)」な日本を体験すること。つまり、観光客向けの商品やサービスなどを持たない企業にとっても、ビジネスチャンスは広がっているといえそうです。

回復傾向にあるインバウンド市場。欧米市場と高所得者層がターゲットに

訪日外国人旅行者数の推移

「令和4年版観光白書」によれば、2011年以降訪日旅行者は右肩上がりを続け、2019年には過去最多となる約3188万人に及びました。それが、コロナ禍に見舞われた翌20年には412万人、さらに21年には25万人にまで激減。当然、その訪日旅行者による消費額も、19年の4兆8135億円が翌20年には7446億円、21年には1208億円にまで落ち込みました。

このようにコロナ禍に入ってから大きく落ち込んだインバウンドビジネスですが、昨年10月に日本への入国条件が大幅に緩和されて以降、月を追うごとに訪日旅行者数は増加しています。今後も各国でのコロナ対策が緩和されていくにつれ、しだいにコロナ前の水準にまで回復することが期待できるでしょう。上記のような大きな需要があったビジネスですから、これから日本にやってくる外国人観光客の傾向やニーズに寄り添うことができれば、インバウンド領域でのビジネスの飛躍も夢ではないかもしれません。

では今の訪日観光客の傾向について考えていきましょう。実はコロナ以前より、訪日観光は団体旅行から個人旅行へとニーズが傾いていました。同様に2015年頃に話題となった「爆買い」ブームもアジア市場の成熟によりある程度落ち着き、消費の主体は「モノ」から「コト」へとシフト。こうした傾向は、コロナ禍を経た今とこれからはさらに加速すると考えられます。

なぜなら、世界の旅行市場は今、アジアよりも欧米や豪州の方から先に動き出しており、また、どの地域でも格安パッケージを利用する中間所得層より、旅慣れた高額所得層の方の需要回復が先行しています。日本政府もこうした状況を鑑み、旅行者数の底上げよりも、大きな消費額が狙える欧米市場や富裕層市場に注力していくようです。旅慣れた旅行者であるほど、団体旅行よりもパーソナライズされた個人旅行、爆買いよりも対価に見合う特有の体験などを求める傾向は強くなります。

観光客向けにアレンジされた体験よりも、今のリアルな日本の体験を

より具体的にいえば、観光客向けにアレンジされた「Touristic」な体験ではなく、今の日本のリアルに近い「Authentic(本物)」な体験が求められます。例えば、飲食においては、観光客向けのレストランや全国チェーン店よりも、地元の人で賑わっているような地域ならではの店の方が好まれます。また、日本では何を食べてもおいしいという認知が広がっているため、寿司などの和食だけでなく、ハンバーガーショップやステーキ店、イタリアン、中華などの日本料理以外の食事を提供する飲食店も、インバウンド需要を取り込んでいくことは可能です。

文化体験などにおいては、着物の試着といった全国どこにでもありそうな体験よりも、その地域ならではのより独自性の高い体験が求められます。さらに、伝統文化だけでなく、自然や現代アート、現代建築なども人気です。実際、青森の奥入瀬渓流は訪日観光客の口コミサイトで高く評価されていますし、瀬戸内海の直島のような現代アートスポットも訪日観光客の間で話題となっています。

ただ、観光客向けにアレンジされたものが好まれないからといって、何もしなければターゲットにリーチできません。今の訪日観光客のニーズを満たす企画と、その層へ向けたPR活動は必要になります。その際、日本人の思い込みで検討するのは禁物。訪日観光客の口コミやSNSなどは念入りにチェックし、ターゲットの傾向とニーズの把握に努めましょう。

そのターゲットをより具体化しておくことも大切です。都道府県別の延べ宿泊者数や近隣の国際空港に就航する航空路線などはあらかじめチェックし、近隣に訪日観光客の人気スポットがあれば、その客層を調べて外国人観光客の傾向をつかみましょう。その上で、PRはいきなり海外向けに発信するのではなく、近隣にやってきた訪日観光客にリーチする方法から考えた方が良いでしょう。

いずれにせよ、ほとんどの訪日観光客の情報源はインターネットですから、公式サイトの多言語化や、訪日観光客が利用するGoogleマップなどの地図アプリの活用は欠かせません。宿泊施設や飲食店であれば、予約サイト、旅行情報サイトへの掲載も必須となるでしょう。なお、そのようなサイトにおいて、自店の情報をきちんと入力しないと検索結果に正しく反映されません。そのせいで訪日観光客との接点を逃しているケースも散見されます。広告を出すことよりも、まずは現状の掲載情報をわかりやすく整理する。魅力を伝えるだけでなく、アクセス情報や支払方法、営業時間、定休日などの来店に必要な情報を漏れなく掲載することが大切です。

口コミやSNSでの評価、さらに外部環境の変化や環境対応への意識も

さらに今の時代、各サイトでの口コミ評価やSNSの影響力は非常に大きいです。これらの投稿で高い評価を得るには、現場における適切な対応が欠かせません。店舗内の掲示情報の多言語化だけでなく、利用や購買における最低限の言語対応は必要となってきます。ただ近年では、翻訳アプリを駆使してコミュニケーションを成立させるシーンも多くなってきたようです。こうしたことにも増して口コミで高く評価されているのは、対応が「friendly」であること。笑顔や表情、態度などからも歓迎する気持ちやおもてなしの心は伝わります。言葉が通じないからといって、コミュニケーションを躊躇したり、表情が固くなってしまうことがないように注意しましょう。

また、インバウンドビジネスは「海外との取引」という特性上、さまざまな外部環境の影響を受けやすいことも頭に入れておく必要があります。例えば冒頭で説明したとおり、新型コロナウイルスの影響は非常に大きなものでした。これほど長期間にわたって大きな影響が出ることはまれですが、これまでにも自然災害やテロ、紛争、リーマンショックなど、さまざまな外部環境の影響を受けてきたのがインバウンドビジネスです。今後も「大幅な需要減」という危機への備えとして、ビジネスモデルの工夫による「内部留保の確保」や「経費の最小化」、また、訪日観光客だけでなく日本人旅行者にもリーチできるような「リスクの分散」なども検討しておくと良いでしょう。

もう一点、日本で対応の遅れが指摘されているのが、使い捨てプラスチックの削減などをはじめとする環境への配慮です。SDGsやサステナビリティに対する意識は、高所得者であるほど高い傾向があるため、今とこれからの訪日観光客に対しては特に注意が必要です。ペットボトルの飲料や商品の包装、テイクアウト用のプラスチックスプーンなど、おもてなしの一環として提供しているサービスが、環境への配慮不足とみなされてイメージダウンとなってしまうケースもあるので意識を高く持っておきましょう。

日本の国内では、少子高齢化や人口減が深刻な状況にありますが、世界に目を向ければ今後も経済成長や人口増が見込まれています。旅行市場においても2030年にかけて海外旅行者数の増加が予想されていますので、この成長が期待できる市場を自社のビジネスの発展に役立てていただければと思います。

回答者

中小企業診断士 井上 朋子