ビジネスQ&A

Z世代の社員の扱いに戸惑っています。世代間ギャップの効果的な埋め方を教えてください。

2025年 11月 19日

いわゆるZ世代にあたる社員が入社してきました。仕事への向き合い方はもちろん、行動や言動がこれまでの若手と違うため、接し方に悩んでいます。彼らと円滑にコミュニケーションを取る方法を教えてください。

回答

世代間ギャップは、時に、チームの生産性低下やハラスメントへの懸念から対話不足を招くことがあります。このギャップを埋めるためには、「価値観の違いの理解」と「適切なコミュニケーション」が不可欠です。具体的なアプローチ法として、互いを尊重しながらも率直に意見を伝え合う「アサーティブコミュニケーション」をご紹介します。この手法を実践することで、Z世代の力を最大限に引き出し、組織全体の成長につなげることができます。

1.Z世代の特徴を理解する

1990年代後半から2010年頃に生まれたZ世代は、生まれたときからインターネットやスマートフォンが当たり前にある「デジタルネイティブ」です。彼らの特徴は多岐にわたりますが、特にビジネス上のコミュニケーションで重要となるポイントをいくつか挙げてみましょう。

(1)多様性を尊重する

自分と異なる考え方や価値観を自然に受け入れる傾向が強く、個人の個性やライフスタイルを尊重します。

(2)SNSでの自己表現とこまめなフィードバックを好む

SNSを通して、自分の意見や感情をオープンに発信することに慣れています。評価や反応を可視化する文化の中で育ったため、自身の意見がチームや組織にどのような影響を与えるかに関心が高く、こまめなフィードバックを好みます。

(3)ワークライフバランスを重視する

「仕事のためにプライベートを犠牲にする」という考え方は、主流ではありません。仕事はあくまで人生の一部であり、趣味や家族との時間を大切にします。

(4)効率性とタイパ(タイムパフォーマンス)を重視する

無駄な時間や非効率な作業を嫌う傾向があります。目的意識が高く、ゴールが明確であればスピーディーに学び、成果を出そうとします。

彼らのこうした特徴は、上の世代からは「わがまま」や「指示待ち」と捉えられがちですが、彼らが育ってきた社会や文化を反映した自然な結果です。この背景を理解することが、円滑な関係構築の第一歩となります。

2.Z世代との関係を深める鍵:アサーティブコミュニケーション

アサーティブコミュニケーションは、相手の意見を尊重しつつ、自分の意見や要望を誠実に伝えるためのコミュニケーション手法です。アサーティブは「積極的な、活動的な」などと訳され、アサーティブコミュニケーションには、単に「YES」と言うだけでなく、相手を攻撃することなく「NO」と伝えることも含まれます。

この手法の最大の利点は、相手を非難せずに、事実と自分の気持ちを伝える点にあります。そのため「ハラスメントになるのでは……」と、コミュニケーションをためらう人にも有効であり、ハラスメントの抑止効果も期待できます。ちなみに、アサーティブコミュニケーションと対極にあるのが、「自分の意見ばかりを主張するアグレッシブな態度」や「相手に意見を合わせ、自分の意見を言わない非主張的(パッシブ)な態度」です。

Z世代は、あいまいな表現や遠回しな言い方を嫌い、明確で正直なコミュニケーションを好む傾向にあります。自分の意見や期待を率直に伝えるアサーティブな姿勢は、彼らの価値観と合致しており、信頼関係を築く上で特に重要です。さらに、互いの意見を尊重し、建設的な対話が行われる環境は、誰もが安心して発言できる心理的安全性をもたらします。これにより、Z世代の社員は臆することなく自身の考えを伝えやすくなり、結果としてエンゲージメントやパフォーマンスの向上につながります。

アサーティブな伝え方を実践するための代表的なフレームワークにDESC(デスク)法があります。DESC法は、相手に伝えたいことを「客観的な状況」「主観的な気持ち」「提案」「代案」の4つに分解・整理し、順番に会話を展開することで、相手を思いやりながら自分の意見を伝えることができるとされています。

DESC(デスク)法の図

3.今日からできる! アサーティブコミュニケーション実践法

DESC法は、アサーティブな対話を組み立てるための強力なフレームワークです。さらに効果を高めるために、具体的な言葉の使い方や心構えといった、より実践的なポイントを3つご紹介します。

(1)「I(アイ)メッセージ」で伝える

「~~べきだ」「あなたは~~」という表現は、相手を非難しているように聞こえ、反発を生む可能性があります。そうではなく「私は~~と感じています」「私は~~だと考えています」という、私を主語にした「Iメッセージ」で伝えてみましょう。

【NG例】「どうして報連相ができないんだ! もっとちゃんと報告してくれ」
【OK例】「報告がないと、私は次に何をすべきか分からず、不安に感じてしまいます。今後のために、こまめに報告してもらえると助かります」

(2)相手の意見を「傾聴」する

まずは、相手の意見や考えを最後まで丁寧に聞く姿勢を見せることが重要です。途中で口を挟まず、相槌を打ちながら「なるほど、そういった考えもあるのですね」のように、相手の意見をいったん受け止めることから始めましょう。相手は「自分の話を真剣に聞いてくれている」と感じ、心を開いてくれるようになります。

(3)なぜ? を掘り下げて「価値観」を理解する

表面的な行動や言動の裏には、その人なりの価値観や考え方が隠れています。「なぜそう思うの?」「何がきっかけでそう考えるようになったの?」と、相手の意見の背景にある理由を尋ねてみましょう。この質問によって、Z世代の「多様性」や「タイパ重視」といった価値観を深く理解することができます。また、相手も「自分の価値観を理解しようとしてくれている」と感じ、信頼関係がより深まります。

世代間ギャップは、異なる価値観を持つ人々が共に働く上で必ず生じるものです。しかし、それは「溝」ではなく「互いの個性を知り、高め合うための機会」と捉えることができます。今回取り上げたアサーティブコミュニケーションは、Z世代に限らず、どんな人との関係にも有効なコミュニケーションスキルです。まずはひとつ、Iメッセージからでも試してみてください。

回答者

中小企業診断士 林 美香