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中小企業の発展を目指し、連携した取り組みが重要【中同協・中小機構トップ対談】

2023年 4月 3日

中小企業同友会家全国協議会の広浜泰久会長(右)と中小機構・豊永厚志理事長
中小企業同友会家全国協議会の広浜泰久会長(右)と中小機構・豊永厚志理事長

国内の観光地は賑わいを取り戻し、大企業では大幅な賃上げが相次ぐなどコロナ禍で打撃を受けた日本経済に明るい兆しがみえてきた。その一方で、急激な円安の進行やエネルギー・原材料価格の高騰で中小企業を取り巻く環境は不透明感を増している。先行きが見えにくい中で、日本経済を下支えする中小企業はどう経営のかじ取りをとるべきなのか。中小企業経営者の全国組織、中小企業家同友会全国協議会(中同協)の広浜泰久会長と中小機構の豊永厚志理事長が対談し、ポスト・コロナ時代の中小企業経営を展望した。

中小企業家の名称に経営者の矜持感じる

——豊永理事長は経済産業省で中小企業政策を担当されていたころに広浜会長とお知り合いになったそうですね。

豊永 私が中小企業庁次長だった2010年、策定されたばかりの中小企業憲章(同年6月閣議決定)の冊子を手に中同協を訪れたのが最初の出会いでした。憲章を普及させることが私の仕事でしたから。

広浜 北海道で開催された中同協の定時総会(2011年7月開催)にも出席していただき、憲章を説明してもらいましたね。

豊永 その後、私は日本政策金融公庫(日本公庫)の中小企業事業本部長をつとめ、広浜さんは中同協の会長になられたので、必然的にいろいろな場所でご一緒することになりました。広浜さんの会社(株式会社ヒロハマ)と工場も見学しました。

広浜 一番印象に残っているのは、日本公庫の中小企業懇話会(日本公庫の各支店融資先で組織する会)の女性部の全国大会が大阪で開かれたときのこと。女性ばかり数百人が集まったなか、男性は私と豊永さんの2人だけで参加し、緊張して汗をかきながら挨拶したのを覚えています。

豊永 中同協については「中小企業」ではなく「中小企業家」という名称に会員の矜持を感じています。企業の代表という意識ではなく、ひとりの経営者として参加しているという気概も感じられます。

広浜 豊永さんと話していると、われわれ中小企業が大切にしている誇りや自助努力のことをよく理解していることがわかります。素晴らしい方が理事長のポストに就いていただいて非常によかったと思います。

価格高騰・人手不足が新たな問題に

——新型コロナウイルスの感染拡大は中小企業の経営に大きな影響を与えました。中同協としてどのような対応をとられたのでしょうか。

広浜 まず中同協としては早い段階で「1社もつぶさない」との強いメッセージを会員に向けて発信しました。ゼロゼロ融資など各種の支援策を紹介し、今後の営業キャッシュフローの見通しによっては業態・業種の転換も提案しました。私の会社では、期中にいったん多額の赤字となったが、雇用調整助成金を受給するなどして黒字に戻すことができました。また、コロナ禍で仕事がなくなったのをいい機会ととらえ、生産性向上に向けた取り組みを行ったのも大きかったです。会員の中にも同様にさまざまな取り組みを進めた企業がありました。禍を福に転じたわけですが、これも会員が各地域の同友会で勉強を続けていたからだと思います。

豊永 中小機構の中小企業景況調査では、景況感はリーマンショックの時よりも悪かった。今は回復過程にあり、特にDX(デジタルトランスフォーメーション)などに備えていた企業は早くに回復しました。ピンチをチャンスに変えられたケースも多かったのでは。一方で、米国の金利上昇による円安やロシアのウクライナ侵攻、原材料価格の高騰などが回復基調に水を差しています。またコロナ禍で中小企業がスリム化したため、今は逆に人手不足に悩んでいるようです。

広浜 今は2つの問題があります。ひとつは資材価格の高騰。それも半端ではない高騰です。その上昇分を取引価格に転嫁できるかが重大なポイントで、転嫁できたところとできないところとで二極化が進んでいます。もうひとつは人手不足。とくに大手企業が賃上げを進めていて、大手と中小の格差がさらに広がりつつあります。給料については最低賃金の問題もあります。(社会保険の扶養の範囲内となる)「130万円の壁」があり、パート従業員は時給を上げると労働時間を減らしてしまう。ただでさえ人手不足なのに、何のために給料を上げたのかわからなくなります。

豊永 中小企業庁の調査では、原材料費の上昇分は比較的転嫁しやすいが、人件費と光熱費は難しい。ただ最近は価格転嫁に対する大企業の意識も変わっているようです。

広浜 確かに業界のアンケートでも1年前には原材料価格分だけの値上げしかできなかったが、昨年7月ごろには昇給分などその他もろもろの分も値上げしようとする会社が増えてきました。中小企業も勇気をもって大企業と価格交渉すべきでしょう。

業界・地域の課題を自社の課題ととらえる

——厳しい経営環境を乗り切るためにDXや事業再構築などの変革が求められています。

広浜 業界や地域の課題を自社の課題に置き換えている会社は成功しています。私の会社でもこんなことがありました。缶の需要がピークから半減し、得意先の金型を作っていた人が廃業することとなった。大変困っているので、私どもで金型を作ることにし、同じように困っていた多くの会社に販売しました。このように困りごとを解決すると新しい市場が生まれてきます。

豊永 キーワードは「社会的課題」。社会が何を求めているのか。そこにチャンスがあります。コロナ禍で中小機構は事業再構築補助金を開始しましたが、もっと改革に踏み込んだ中小企業に絞って支援すべきでは、という声もありました。DXについても、米国では新事業や新規顧客獲得を目的にDXを進めているが、日本では業務効率化にシフトしている。コロナ禍で価値観などが変わっているなか、日本の中小企業も補助金やDXなどを活用し、社会的課題に対応した新商品・サービスを生みだしてほしい。DXについて中小企業の経営者からは「人材がいない」「DXを進めても良くなる保証がない」という声が必ず聞かれます。これはいわば食わず嫌い。思い切って若い人に任せてみれば、きっといい方法を考えてくれるでしょう。

EC活用し海外に販路求める事業者も

——急激な円安の進行は原材料価格の高騰の一因にもなり、大きな逆風になっていますが、輸出企業にとってはメリットもあります。会員企業の海外展開の動向はいかがですか。

広浜 以前から輸出に取り組んでいる会員企業は調子がいい。コロナ禍による変化に対応して工夫しているケースもあります。ある企業の営業マンが緊急事態宣言などで時間に余裕ができた際に中国語をマスターし、中国国内の取引先とのリモート会議で交渉がスピーディーになったそうです。また、ある自動車リサイクル業者は、海外のバイヤーが来日しなくなったため、オークションサイトを開設してビジネスを進めています。

豊永 かつて海外展開といえば事業所などを海外につくることがメーンだったが、今は円安なので輸出への関心が高い。そうした状況を受け、経済産業省、中小企業庁、ジェトロ、そして中小機構が一体となって、中小企業の輸出に向け一貫した支援を行う「新規輸出1万者支援プログラム」を昨年12月から始めています。輸出は、商社を通じて行うほか、電子商取引(EC)で海外に販売する手段もある。こんな事例があります。若い夫婦が東京から長崎県の五島列島に移り住み、奥さんが地元の食材で作ったレトルトカレーをECサイトで販売し、中国にも売り出しました。離島からでも海外の市場に販売できる。これがECの強みでしょう。

SDGsには3ついいことがある

——カーボーンニュートラル(脱炭素)やSDGs(持続可能な開発目標)も中小企業経営の避けられないテーマになってきました。会員企業の動向はどうですか。

広浜 SDGsは同友会の活動と親和性があり、ずいぶん前から項目に沿った運動をやっています。二酸化炭素(CO2)削減など環境経営に取り組む優秀な会員を毎年表彰し、2016年に「中小企業家エネルギー宣言」を発表しました。SDGsには環境ばかりでなく、貧困などいろいろなテーマがあります。特に中同協は人間尊重の経営を大切にしているので、8番目の目標「働きがいも経済成長も」は、われわれこそ先頭に立たなくてはいけないと取り組んでいます。

豊永 中小企業経営者は、どうしても環境への関心が高くなりますが、広浜さんが言われた「働き方」「地域」といった部分は中小企業が大切にしてきた分野です。もし、これが希薄化しているとしたら、SDGsは「地域で生きる」「従業員・お客様と共に生きる」ということを改めて考える良い機会になると思います。

広浜 「SDGsに取り組むと何かいいことがあるのか」とよく聞かれることがあります。先日、私の会社は「くるみんマーク」(子育てサポート企業)認定を取得したのですが、大学の先生によると、求人で学生が中小企業を選ぶとき、こうした認定を取得していると、学生が検索するそうです。検索の一つの切り口になっている。「くるみんマークを取得している製造業は少ないからアピールできる」と言われ、「なるほど」と思いました。

豊永 私は、SDGsには3ついいことがあると言っています。一つが人手不足の中でも選ばれる会社になる。もう一つは、従業員が「自分の会社は環境や地域、貧困対策のために良いことをしている」という自負や働きがいを持てる。3つ目は、取引先がSDGsで下請けやサプライチェーンを選んでいるということです。脱炭素では、大手企業がサプライチェーン全体に目を向けていますが、さらにSDGsに取り組んでいる企業は「信頼できる企業」とセレクションしています。

中小企業で働く人が誇りを持てる社会に

——中小企業憲章が出会いのきっかけだったというお話がありましたが、中小企業憲章をどう評価されていますか。

広浜 憲章を基礎に中小企業政策が展開されており、憲章の制定は大きな転換点になったと感じています。半面、主語が「われわれ国民が」とはなっていません。国民全体での合意形成のもとでの憲章にすべく、運動を展開しています。中小企業の社会的地位は客観的にみて高くありません。国民の7割は中小企業で働いている。その人たちが誇りを持てる社会にしていきたい。もちろん、中小企業家として自身がもっと誇りを持てるよう研鑽しないといけない。そんな運動もしています。

豊永 中同協の会員は、高い意識を持たれている。この意識を多くの中小企業に広め、共有し、達成すると、中小企業やそこで働く人たちのイメージが変わってくる。会員以外の事業者にいかに広め、ステークホルダーに伝えていくか。その一つの出口が憲章だったと思います。中小企業振興条例なども「中小企業の役割は何か」ということを意識させる道具として提供されている。そこは、さすが中小企業家同友会だと思ってみています。

広浜 条例についても、われわれも制定の運動を展開してかなり増えてきました。ですが、作っただけでは意味がありません。憲章や条例をどのように活用していくか。そのステージに入っていかなくてはなりません。

中小企業数の減少にストップをかけたい

——中小企業の地位向上に向けて今後、どういった取り組みを進めていかれますか。

広浜 中同協がまとめた将来展望(10年ビジョン)の第一に掲げたのが「一人ひとりのすばらしさを発揮できる企業づくり」です。そんな企業が増えれば増えるほど、そういう社会になります。生活保護受給者などの就業困難者を採用している中小企業は多いのですが、経営者がうまくコミュニケーションを取りながら、すばらしさを引き出している。そんな会社が増えれば増えるほどいい社会になります。また、地域に根差している会社も多い。それぞれの地域を活性化する先頭に立っていこうと申し合わせています。

豊永 機構の中小企業へのアプローチには、ハンズオン支援や補助金交付など直接的な方法と、各地域の支援機関のとりまとめをする間接的なサポートがあります。また、支援機関の人材を育成して支援能力を高めています。いろいろな要請に対して直接・間接的に支援する取り組みは時流にかなっていると思っています。

その中でぜひ実現したいのが、中小企業の減少を止めることです。「日本は中小企業が多すぎる」という指摘もありますが、人口1万人あたりでみると、OECD諸国の中では下から4番目くらい。私の計算では年間7万社も減っている。この流れを食い止めないと日本は元気にならない。勢いを持った中小企業が現れ、日本に波及効果を与えるようにしたい。既存の中小企業でも十分できる力はあります。そのサポートをする。そのためには、中同協と一緒に中小企業の活力を高め、経営者の矜持を高めていくことが大事だと考えています。

広浜 われわれもよい会社を作るための活動・運動をする中で、いろいろ議論をしています。可能性は無限大にあります。しかし、可能性に気づいていない経営者も多い。もっと勉強しないといけない。勉強が足りないと、自社の課題が明確になりません。それでは支援があってもアプローチできず、宝の持ち腐れになってしまう。中同協もこれから中小機構との接触面積を広げていく必要があると感じています。

プロフィール

広浜泰久(ひろはま・やすひさ) 
1951年東京都生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業。缶メーカーを経て父・重治氏が創業した広浜製作所(現ヒロハマ、東京都墨田区)に入社。1991年に社長就任。業務用缶のキャップメーカーとして業界2位だった同社を在任中にトップに。2008年から会長。中小企業家同友会には1990年に入会し、中小企業家同友会全国協議会(中同協)幹事長を経て2017年7月、会長に就任。

豊永厚志(とよなが・あつし) 
1956年鹿児島県生まれ。東京大学法学部卒業。1981年通商産業省(現経済産業省)入省。中小企業庁次長、大臣官房商務流通審議官、日本政策金融公庫専務・中小企業事業本部長などを経て2015年に中小企業庁長官就任。翌年に退官し、みずほ銀行顧問を経て2019年4月、中小機構理事長に就任。