省エネQ&A

蒸気加熱における熱伝達の改善方法は?

2020年 4月 21日

回答

蒸気を加熱に使用する際には、蒸気の熱を被加熱物に効率よく伝える必要があります。その熱の伝達には熱交換器等の内部での蒸気の凝縮のしかたが大きな影響を与えています。
熱伝達にすぐれた滴状凝縮をさせる方法が省エネ大賞を受賞しましたのでその内容について説明します。

1.蒸気の凝縮

蒸気加熱の際の熱伝達と凝縮の関係および凝縮の種類は次のようになっています。

まず、蒸気で被加熱物を加熱するときは、蒸気の持つ熱エネルギーが被加熱物に伝わり、その分、蒸気の熱エネルギーレベルが下がります。その現象としては、蒸気が凝縮し、気体から液体の水(熱水)に変化します。
実際の設備においては次のようになります。
蒸気を利用して加熱を行うには、直接蒸気を吹き込む場合は別として、通常、熱交換器や簡易なジャケットを使用します。その熱交換器等の内部で、蒸気と被加熱物とを隔てる金属等の壁の蒸気側で蒸気が冷却され凝縮し水になります。

この凝縮の形態が熱の伝達に大きく影響します。その形態は、凝縮する面の状態により、図1のように2種類あります。
(1)膜状凝縮
凝縮面がぬれやすい場合に生じる凝縮で、蒸気は連続した膜を形成して凝縮します。多くの場合に生じる凝縮はこの形態です。この水膜はわずかな厚みでも熱伝達率を大幅に低下させます。
(2)滴状凝縮
凝縮面がぬれにくい場合に生じる凝縮で、蒸気は半球状あるいは球状の液滴を形成して凝縮します。この液滴は、引き続く凝縮と隣接する液滴との合体により次第に成長し、ある大きさになると重力などの外力の作用で凝縮面を滑り始め落下します。液滴が通過した後の凝縮面は裸となり、熱伝達が良くなり、再び小さな液滴ができます。

図1 膜状凝縮と滴状凝縮 1)
図1 膜状凝縮と滴状凝縮 1)

滴状凝縮の最大の特長は熱伝達率が膜状凝縮の数倍から十数倍2) ときわめて高いことです(注1)。しかし、滴状凝縮を凝縮面上で長時間維持する表面処理法が開発されていなかったのです。

(注1)常圧下の静止水蒸気が垂直面上に凝縮する場合、面の上端から
1~10cmでの熱伝達率は250kW/(m2・K)  1)

2.滴状凝縮のための新方法

2020年1月に、(一財)省エネルギーセンターが主催する2019年度省エネ大賞(注2)の受賞者が発表されました。その中で 「ドロップワイズテクノロジーによる熱伝達率の向上」(栗田工業(株))というテーマが資源エネルギー庁長官賞を受賞しました。

(注2) 「省エネ大賞」は、省エネルギー意識、活動および取組みの浸透、省エネルギー製品等の普及促進に寄与することを目的として、平成23年より経済産業省の後援を受けて、(一財)省エネルギーセンターが主催しているもの。本件が受賞した「製品・ビジネスモデル部門」と「省エネ事例部門」から成る。

「ドロップワイズ」とは液滴のことです。図2のように、熱交換器直前の蒸気ラインに撥水機能を有する薬品を連続添加することにより(注3)熱交換器のチューブ等を撥水被膜で覆います。その結果、図3のように凝縮が液滴の形態になります。図4は熱交換器中での液滴の状態を示しています。大きく成長した液滴は落下し、ドレンとなります。

(注3) 既存の水処理との相互作用がなく、JISに準拠した水処理が可能 

図2 撥水性の向上 3)
図2 撥水性の向上 3)
図3 撥水性の向上による液滴化 3)  図4 熱交換器中での液滴 4)
図3 撥水性の向上による液滴化 3)                          図4 熱交換器中での液滴 4)

3.効果の確認

本方式をシェルアンドチューブ式熱交換器(例:図4)に適用した結果、図5では総括伝熱係数が30%向上したことが示されています。3)
この方法が多く採用されているのは製紙工場です。製紙工場では湿紙の水分を取り除くために、ドライヤーに湿紙を接触させる工程があります。このドライヤーは金属製の円筒に蒸気を吹き込むものです。本方法を採用したドライヤー工程で蒸気原単位が5~10%低減しています3)。(図6)

撥水機能を有する薬品は、対象となる熱交換器直前の蒸気ラインに連続添加するだけで効果を発現するため、生産設備を稼働させたまま適用できます。
また、成功報酬を基本としたパッケージ契約により本技術を提供する方式をとっており、これまで国内外で70台以上の適用実績があるとのことです。3)

図5 検証結果 3)
図5 検証結果 3)
図6 蒸気原単位 3)
図6 蒸気原単位 3)

4.おわりに

蒸気を使用した加熱設備に関わる省エネの方法として、設備の入れ替えなど高額な投資を必要としない方法は数多くはありません。その点から本件に着目し、紹介しました。参考になれば幸いです。

1) (財)省エネルギーセンター編.新訂エネルギー管理技術 熱管理編.(財)省エネルギーセンター発行、2003年
2) 吉田 駿.伝熱学の基礎.理工学社、1999
3) (一財)省エネルギーセンター編.2019年度省エネ大賞 製品・ビジネスモデル部門受賞概要集.(一財)省エネルギーセンター発行、2020年
4) 栗田工業(株) youtube https://www.youtube.com/watch?v=nWumD907nsE

回答者

エネルギー管理士 本橋 孝久