省エネQ&A

実揚程の大きなポンプにインバータを取り付けても省エネ効果が少ないのはなぜ?

回答

深井戸ポンプなど流量が減っても実揚程(汲み上げる高さ)は変わらないため、インバータで周波数を下げ過ぎると必要な高さまで水が汲み上がらなくなってしまいます。回転数制御(インバータ)が有効なのは、実揚程が小さく、流量比で30%~80%程度までです。

ポンプや送風機をインバータにより回転数制御させた場合、理論上、流量は周波数に比例し、圧力(ポンプでは揚程)は周波数の2乗に比例し、消費電力は周波数の3乗に比例します。したがって、インバータで周波数を下げると、ポンプや送風機の圧力は2乗比例で小さくなります。密閉系の冷却水配管系統や送風機などであれば、ポンプや送風機の圧力は配管の摩擦損失が中心なので、周波数を絞って流量を減らせば、その2乗に比例して摩擦損失も減るので、インバータで周波数を下げて、省エネを図ることができます。

ところが、深井戸ポンプの場合、流量が減っても実揚程(汲み上げる高さ)は変わらないため、インバータで周波数を下げ過ぎると必要な高さまで水が汲み上がらなくなってしまいます。言い換えると、実揚程の大きなポンプでは実揚程を維持するための電力が必要な分、省エネ効果が少なくなります。

以上のことを、ポンプの性能曲線を使い定量的に説明します。

ポンプの仕事量は流量(Q)と揚程(H)に比例します。ポンプと電動機の複合効率をηとすると、必要な電力量(P)は以下のように表されます。

P=K×Q×H÷η(Kは定数)・・・(1)

ポンプの仕事量 ポンプの仕事量
(出典:新訂エネルギー管理技術 電気管理編)

ポンプ揚程曲線は、上図のとおり、流量がゼロ(締切圧)の時に最大の揚程(k1)を示す2次曲線で、また、管路抵抗曲線も流量がゼロの時に実揚程(ha)を示す2次曲線で、それぞれ近似します。そして、ポンプ揚程曲線と管路抵抗曲線の交点がポンプの定格運転点(P1)を示しています。

ここで、締切圧力が運転点の1.4倍(k1=1.4)、実揚程が定格揚程0.3倍(ha=0.3)とすると、揚程曲線と管路抵抗曲線は以下のように表されます。

揚程曲線・管路抵抗曲線 揚程曲線・管路抵抗曲線

ポンプの流量を設計点から半分(0.5pu)に絞るための制御方法として、吐出し弁制御とインバータによる回転数制御を比較します。

  1. 吐出し弁制御では、吐出し弁を絞ることで管路抵抗曲線をより急峻にさせ、動作点をP1からP2に変化させます。このときの揚程h2は(2)式からh2=1.4-0.4×(0.5)2=1.3となり、必要電力は(1)式から、P2=K×0.5×1.3÷η=0.65×(K÷η)と求められます。すなわち、定格運転点(P1)での必要電力がP1=K÷ηであることから、流量が半分のときは定格電力の65%で済むこととなります。
  2. インバータによる回転数制御では、揚程曲線自体を変化させ、動作点をP1からP3に変化させます。ここで、回転数制御では弁は常に全開で使用するため管路抵抗曲線は変わりません。したがって、(3)式から揚程は、h3=0.3+0.7×(0.5)2=0.475となり、必要電力は(1)式から、P2=K×0.5×0.475÷η=0.24×(K÷η)と求められます。すなわち、流量が半分のときは定格電力の24%で済むこととなります。つまり、吐出し弁制御に比べ、省エネ量(=吐出し弁制御での必要電力-回転数制御での必要電力)は0.41(=0.65-0.25)少なく、省エネ率としては63%(=(65-24)÷65)となります。

上記1. と2. の関係をもとに、締切圧が運転点の1.4倍(k1=1.4)のときの省エネ量と流量の関係を求めると下図のようになります。

バルブ制御に対する回転数制御の省エネ量 バルブ制御に対する回転数制御の省エネ量

上図から、次のことが分かります。

  • 省エネ量は実揚程が小さいほど大きくなる。
  • 流量比が約60%で最大の省エネ量となる。
    (流量比が小さすぎても、大きすぎても省エネ効果が少なくなる)

つまり、回転数制御(インバータ)が有効なのは、実揚程が小さく、流量比で30%~80%程度までと言えそうです。

回答者

技術士(衛生工学) 加治 均