業種別開業ガイド
パーソナル・トレーニング
トレンド
(1)パーソナル・トレーニングの躍進
パーソナル・トレーニングは、簡単に言うとトレーナーと1対1で行う筋トレのこと。プロスポーツ選手をはじめ、ハリウッド女優やモデルといった多くのセレブが行っていることで話題となっている。我が国でも当初はスポーツ選手や芸能人といった限られたコミュニテイの中で行われてきたが、その効果の高さから徐々に評判が広まり、メディアでもたびたび取り上げられるようになった。
フィットネスクラブの市場規模は全体で約4,600億円(レジャー白書2018)であるが、ライザップのような完全個室でパーソナル・トレーニングを提供する専門性の高い小規模業態で多店舗展開するスポーツクラブが目覚ましい成長をみせ、市場に占める割合も徐々に増えているものとみられる。
(2)玉石混交な状況
パーソナル・トレーニング発展期にある我が国では、知名度こそ上がってきてはいるが、まだまだ技術レベル、キャリア、人柄などさまざまな要素において玉石混交な状況にある。
(3)個人でトレーナーをつけるメリット
パーソナル・トレーニングは最初から最後まで全て専用のプログラムとなっている。フィットネスジムなどとは異なり、個室で行うため人の目を気にせずトレーニングに没頭できる。また、個別にトレーニング内容を組んでもらえるため、確実に結果につながりやすいことが最大のメリットといえる。
(4)40~60代のミドルシニア層ユーザーが増加傾向
ミドルシニアは日本の人口の大半を占めるメイン層。この層からの支持が得られれば、パーソナル・トレーニングはさらにポピュラーなものへと進化し、業界全体のさらなる躍進が望める。

ビジネスの特徴
フィットネスクラブと同様に会員制を採っている場合が多い。経営を安定させるため一定数の会員が必要であり、会員の確保と増加が収益の確保に不可欠である。また、退会する会員も想定されるため、会員数維持のため満足の向上を図るとともに、新たな会員の確保に常に取り組むことが欠かせない。トレーナーが会員に対しマンツーマンで指導を行うため、トレーナー資格や知識、経験のほか、コミュニケーション能力が一般のフィットネスクラブよりもより重要視される。
開業タイプ
(1)小規模型
マンション1室で経営可能。
(2)フィットネスジムの付加サービス
成果コミット型のジムなど。

開業ステップ
(1)開業までのステップ
開業に向けてのステップは、主として以下のとおり。ここでは、個人で小規模のジムを開設することを前提とする。

(2)必要な手続き
フィットネスクラブの開業に際しては、主に以下に掲載する関連法規が存在し、それぞれの管轄する機関に届出が必要となる。
- 消防法(所轄の消防署)
- 建築基準法(各自治体)
- 都市計画法(各自治体)
- 公衆浴場法(保健所)
- 食品衛生法(保健所)
ただし、パーソナル・トレーニングを自室で行う場合は特定の規制はない。
(3)開業場所
年収1,000万円以上の世帯が多くいる地域を探すことが有効である。実際に1,000万円以上の世帯ではなくとも、比較的、高所得者層が多く、多くの会員の加入を見込めるからである。
ただし、デメリットも考量する必要がある。こうした地域では家賃相場が高く固定費の負担が重いためである。小規模で事業を始める際には、固定費の負担は軽くするのが賢明である。
例えば、東京23区でみると、世田谷区や杉並区、港区では世帯年収1,000万円以上の世帯が多く、地域内に占める比率も高く多くの会員加入が見込みやすいが、家賃の問題や大手パーソナルジムとの競合を考えたうえで、開業場所は検討する必要がある。
メニューづくり
利用者に対する個別のメニューを作成する必要がある。もっともトレーニングを進めていく中で必要なメニューを追加していけばよく、会員の年齢、時間帯、曜日に応じてスケジュールを組みやすい業態である。

必要なスキル
経営者や主要スタッフは、資格の保有は義務付けられていない。しかし、一般のフィットネスクラブとの差別化を図るためにも、会員一人一人の目的に合わせたトレーニング・メニューや食事の指導ができることが望ましい。例えば、会員が筋肉をつけたいのか、ダイエットをしたいのかなどによって、提供するトレーニング・メニューや食事は、全く異なったものになる。
開業資金と損益モデル
(1)開業資金
ワンルームマンションなどでの開業も可能であり、トレーニング機器も必要最小限のものでも十分であることから、小資本での開業が可能である。
【マンションの一室で開業する際の資金例】

(2)損益モデル
a.売上計画
売上は、月会費×会員数が基本となる。これ以外に、入会金や有料のプログラムなどの付加サービス収入が加わる。
ここでは、月会費のみで、イメージ例を示す。

b.損益イメージ
標準財務比率(※)を元に、法人形態の場合の損益のイメージ例を示す。

※標準財務比率はフィットネスクラブに分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。
c.収益化の視点
一般のフィットネスクラブと比べ、初期投資は抑えられ売上原価もかからないことから、実際の売上高粗利益率はさらに高い水準を見込むことも可能である。
ただし、労働集約型産業といわれるマンパワーの必要な業態であることに変わりはないことから、損益計画を立てる際は、家賃、水道光熱費など固定費を上回るために必要な会員を確保することが必要である。
ただし、一般のフィットネスクラブほどの集客力はないため、会員料を高く設定できるよう、付加価値を高めることが重要となる。
賃借料や水道光熱費などのほか特に支出はなく、収入は月会費などの現金が中心となることから、資金需要は基本的に発生しない。
※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)