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そこで差がつくニュースの読み方

2010年7月13日更新

第14回 小商圏だから優位に立てる人材育成の土壌

 「ボール・ソムリエ」「インティメイト・アドバイザー」「オムツフィッター」。聞きなれない言葉だが、これらは企業独自の資格制度の名前である。最近、生活関連企業が自社内に独自資格や認定制度を設け、従業員に取得させる動きが増えている。

 消費低迷の中、これまでの売り方では顧客の購買意欲を刺激できない状況が続いている。そこで、来店客に商品の機能や魅力をこれまで以上、十分に伝えられる有資格者を店に配置し売上につなげていくことが狙いだ。

 「ボール・ソムリエ」を制定したのは、ゴルフ大手のSRIスポーツだ。ゴルフボールの見た目はどれも同じ球形をしており、商品ごとの差がわかりづらい。ボール・ソムリエはボールの種類と違いを説明したうえで、顧客のゴルフのレベルにもっとも適しているボールをすすめることが役割だ。

 他方の「インティメイト・アドバイザー」というのは、下着メーカー大手トリンプ・インターナショナル・ジャパンによる資格制度だ。下着が傷みにくい保存方法や、顧客の体型を計測し、もっとも適した下着をすすめるなど、下着に関する技術を有する人を育成するために設けられた。こちらも、下着という見た目だけでは差がわかりにくく、選び方によってユーザーが得るメリットが大きく変わる商品だからこそ出現した資格だといえる。

 そして、「オムツフィッター」というのは、排泄総合研究所が運営している排泄用具の情報館むつき庵が設けたもので、大人用おむつをはじめとする排泄関連の商品や、その他アドバイスができる人に対する認定資格である。調剤薬局クオールでは、社内の認定制度である「クオール(QOL)認定薬剤師」のほかに、このオムツフッィターも社内の認定制度に取り入れるなど、人材育成に力を入れている。

 だが、本格的な人材育成となると、セミナー出席、講師を呼んで公演を開くなどの教育研修システムを構築しなければならず、それには当然お金もかかる。経費節減を推進している企業にとって、このような贅沢な人材育成のニュースは関係のないことのようにみえる。ただし、ここで視点を変えてみると、このニュースは小さな企業ならではの大手にない強みを気づかせてくれるものでもある。

 このニュースの裏に示された事実とは、「小商圏であることが企業の強みになること」である。規模の小さな企業の場合、小商圏であることから、普段の活動から、自然と顧客のことを知ることが強みとしてある。たとえば、ゴルフ用品を扱う場合、地域に密着している商店ならば、「顧客のほとんどは高級クラブよりも安価で扱いやすいものを求めに来店する」といった情報が、特別なリサーチをかけなくても日々の活動の中で自然とつかむことができる。したがって、このような店で働く店員はゴルフ用品知識をまんべんなく得る必要はなく、安価な商品群に焦点をあて、深い知識を得ればことが足りるのである。

 大手企業が時間をかけて教育するのは、ゴルフ用品ならば、幅広いプレーヤー層に対する商品知識が必要だからだ。その点、狭い商圏の中で顧客が限られている場合、膨大な知識は不要で、店の顧客に合わせた知識を自然と選択することができる。必要な分野に集中して、効率よく知識を得られるため、大手企業よりも、コストを抑え、しかも早く、店員の知識を高いレベルに引き上げることができる。

 このニュースは、地域の商店は顧客にもっとも適した提案が、大手企業にできないスピードでできることを示している。したがって、今一度、店員は来店する顧客の顔を一人ずつ思い浮かべ、どのような提案ができるか検討してみるといいのではないだろうか。わざわざ、お金をかけて新しい教育制度を導入しなくとも、売上アップに貢献するような、提案が小さな店はできる可能性を秘めている。

 これは、大手にはまねできない、人材育成に関する強みだ。いま、深い知識を武器に顧客にあった提案ができる人材が必要とされている。これは、地域の商店は低コストでスピードのある人材育成を活かして店の売上アップのチャンスにつなげるときが来ていることを示しているのである。

 

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