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そこで差がつくニュースの読み方

2010年6月1日更新

第8回 企業間の競争を自社の利益につなげる方法

 自動販売機運営会社のアシードホールディングスは、複数の飲料メーカーの商品を自由に組み合わせて販売できる「フルライン」自販機の設置を大幅に増やす。現在設置されている自販機は、メーカーそれぞれの専用のもので、消費者はそのメーカーのなかで商品を選ばざるを得ない。しかし、「フルライン」自販機では、消費者はさまざまなメーカーの売れ筋の飲料を選べるようになり、大きく利便性が高まる。

 このニュースを、顧客の視点に立った商品・サービスは強いとか、顧客への価値提供の大切さ、といった曖昧な概念だけを感じ取って終わらせるのはもったいない。実は、このニュースには別のヒントが含まれている。

 清涼飲料水の産業は企業間の競争が激しく、商品の生き残りは大変厳しい世界である。新しい商品が次々と生み出されるものの、ヒットにつながるのは「センミツ」(千に三つ)といわれている。その中、飲料メーカーは新商品を市場投入し、大がかりな広告を打ち、消費者の購買意欲を刺激している。他方、消費者はメーカーが繰り広げる激しい競争のおかげで、バラエティに富んだ飲料を味わうことができる。

 このように、商品開発競争が激しい分野では、消費者はより良い商品を手にできるというメリットを得る。しかし、そのメリットが及ぶのは消費者だけではない。アシードホールディングスのような自販機を取り扱う業者にも大きなメリットがもたらされている。メーカーが激しい競争を繰り広げ、ヒット商品を生み出すたびに、清涼飲料水の売上が増えるのだ。

 ただし、これまでのメーカーごとに種類が分かれているタイプの自販機の場合、ヒットを出したメーカーの自販機の売上は上がるが、そうでないメーカーのものは、今まで通りである。ヒット商品が出たとしても、そうでないメーカーの自販機が相当量設置されていれば、全体としての機会損失は大きく、ヒット商品の商品力を全体の売上に波及させることはできない。

 そこで、冒頭に紹介した「フルライン」自販機である。これならば、厳しい商品開発競争に勝ち抜いてきた「スター選手」ばかりを並べることが可能となり、ヒット商品の力をそのまま全体の売上増に反映できる。また、「フルライン」自販機を設置したオフィスにとっても、清涼飲料水の売上が伸びれば、その分、受け取る手数料が増えるというメリットにもつながる。

 自社の売上を大きくしようとすると、つい、自分の力で何とかしようと思いがちだ。しかし、賢いのは自分が頑張るだけでなく、他社の競争を自社の売上向上に結びつけてしまうことである。「フルライン」自販機にとって、サントリー、キリン、伊藤園、どのメーカーの商品が勝とうとかまわない。それぞれの清涼飲料水メーカーが激しい競争を繰り広げ、よりたくさん売れて魅力的な商品を提供することがアシードホールディングスのメリットにつながる。この競争を利用する仕組みを作ることが、実は大切なのである。

 世の中を見渡すと、他社間の競争を自社のメリットにつなげている商品は少なくない。たとえば、電子マネーがそうだ。最近では、nanaco(ナナコ)とWAON(ワオン)、あるいはEdy(エディ)とSuicaなど、それぞれの間で激しい競争が繰り広げられている。結果、もともとのカードの利便性にくわえ、利用者にとって魅力的なサービスが付加されるようになる。それに伴い、利用者数は急速に増えていった。

 電子マネーに関する事業で、nanaco(ナナコ)とWAON(ワオン)、どちらの発行枚数が勝ろうとも、関係なく利益を得ているメーカーがいる。それは、これらカードに用いられている技術、FeliCa(フェリカ)を開発したソニーである。Suicaなどの交通カードやショッピングカードのデータの読み書きなど、一連の処理は、FeliCa(フェリカ)のICチップなどをカードに搭載させることで実現している。SuicaもnanacoもWAONも、発行されるたびに、FeliCaも利用される。どのカードが勝とうとも、FeliCaの売上があがるようになっている。非常に賢いシステムである。

 企業が売上を増やそうとすれば、営業部員を増員したり、マーケティングコストを投下したりする。ただし、これだとかかる費用はすべてその企業のリスクとなる。しかし、先の自販機や電子マネーのように、他社の競争を自社の利益に結び付ける仕組みを構築すれば、このリスクは極小化できる。

 これは、自販機や電子マネーだけでなく、通常のビジネスにもあてはまる。棚の割当てや、キャンペーンの企画など、競争が激しい、あるいはこれから激しくなる、と予想される分野を意識すれば、その相乗効果が得られることは間違いない。とはいえ、実際に、店にどうやって反映させたらいいか、迷うところもあるのではないだろうか。そのようなときは、まずは巷にあふれる広告・宣伝に目をやってみるのも一つだろう。どの産業のどの商品が激しい競争を繰り広げているかがわかる。おのずと、「乗るとおいしい」分野が見えてくるに違いない。

 

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