知れば納得!すぐに使える! 小売・流通業の新常識

連載記事

そこで差がつくニュースの読み方

2010年5月25日更新

第7回 閉そく感が漂う職場から画期的なアイデアを生みだす方法

 キヤノンは数年内に、アメリカに技術開発拠点を開設する方針を明らかにした。これまでキヤノンは、基礎技術の研究をはじめ、主な研究開発を日本国内で進めてきたが、研究拠点をアメリカに設けることで、新しい技術開発を促し、事業の多角展開につなげる意向だ。

 なぜ、アメリカなのか。狙いは「頭脳」、つまり人材である。研究開発が何らかの成果を生みだすためには、地道なトライ&エラーの先にブレークスルーを起こす必要がある。しかし、ブレークスルーはひとつの考え方や方法論に固執していてはなかなか生まれ得ない。日本国内の開発拠点では、同じような環境で育ったメンバーが、同じような手法で開発を進めがちだ。そこでは組織はタコツボ化し、今までの延長線上にある技術、製品しか世に出ていかない。

 今、日本の産業界ではさかんに「イノベーション」の必要性が叫ばれている。かつての日本は画期的で、全世界の人々から愛され、多くの利益をあげる商品を世に送り出すことができた。だが、近年では、日本発の商品で世界規模の大ヒットにつながったものを目にする機会は減った。キヤノンの取り組みは、こうした事態を打開するために、イノベーションを生み出す、多様性に富んだ組織を作ろうという意図だ。多様な人々が集まり、多様な意見や考え方をぶつけ合うことで、日本国内の閉ざされた環境では到底生まれない、これまでの常識を打ち破るようなものが生み出される可能性が高まるというわけだ。

 これを中小企業で取り組もうとしても、限られた経営資源の中で、海外に拠点を設立する、あるいは多様な人材を雇用するというのは、あまりにも負担が大きい。このニュースを読んで、「お金がある大きな会社だからできること」とうらやましく思う方もいるかもしれない。しかし、このエッセンスは資金や設備の話ではない。

 ともかく、異質の人材を取り入れたほうがいいことは確かだが、わざわざお金をかけて新たに募集をかける必要があるのか、というとそんなことはない。たとえば、アルバイトとして、すでに外国人を雇っている店なら、単に単純労働者として扱うのではなく、生活や文化について詳しく考えを聞く機会を設けるのも手だ。自分がかつて触れたことのない異なる考えと出会ったときは、なぜそうした考え方になるのか、思索するのもいいのではないだろうか。外国人を雇っていない店ならば、アルバイトの若者でもいい。年齢が10歳、離れた人と話すだけで、考え方の違いが意外と大きいことを知らされるだろう。

 同じ人間でありながら、物事への姿勢や感じ方が大きく違うことに驚く一方で、なかなか異質を受け入れることができずに悩むこともあるかもしれない。だが、そのカベを乗り越えることで、自分とは違う視点をヒントにして、新しい商売のアイデアを得ることができる可能性が高まるのである。

 ところで、こうした性別や国籍を超えた人材を集め、競争優位につなげようとする考え方は「ダイバーシティ」と呼ばれる。日本でダイバーシティというと、女性や国籍の異なる人、障害を抱えている人たちを何人雇用したかという、企業の社会的責任(CSR*)の文脈で扱われがちだが、本来は企業の成長戦略として取り組むべきものである。そしてその前提には設備や仕組み、制度ということ以上に、少数の意見を受容するという組織の姿勢が求められるのである。

 ダイバーシティは企業規模の大小にかかわらず適用することができ、先に示した効果以外にも組織や人間関係を活性化するものである。今、ビジネスを進める上で、「いいアイデアが浮かばない」「閉そく感漂う職場を何とかしたい」と考えている人は、自分とは違う考えをもつ人や、遠い存在だと思っている人の意見に耳を傾けてみてはどうだろうか。

* CSR: Corporate Social Responsibility / 企業の社会的責任

 

 小売・流通業の新常識 TOPへ