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そこで差がつくニュースの読み方

2010年5月18日更新

第6回 2000億円のエコビジネスと売れ残りの商品をつなぐもの

 CO2削減に力を発揮する素材として、さまざまな領域で導入が検討されている炭素繊維。これを活用したビジネスがまた一つ始まった。炭素繊維というと一般には聞き慣れないが、実は、環境技術先進国の日本を象徴するような製品である。日本は古くからこの炭素繊維の研究開発に着手し、現在は世界シェアのうち約70%を占めている。その中でも最大手である東レが欧州航空機会社のエアバスに炭素繊維製の機体材料を納入することが決まった。

 納入期間は2011年から25年まで。累積受注額は2000億〜3000億にのぼるといわれている。さらには、飛行機だけでなく、この先、自動車の車体への利用も増えるとみられており、東レにとって、炭素繊維が大きなビジネスの柱になることは確実だ。

 炭素繊維とは文字通り、炭化した糸である。製造にあたっては、アクリル繊維などの原料を特殊な工程によって高温で炭化することによりできあがる。糸一本の太さはおよそ数ミクロンで、太さを一定に保ちながら長い糸を生成するところに高度な技術を要する。日本の強みである高精度な繊維加工技術が活かされている製品なのである。

 この製品が「エコ」という面で注目される理由は、その軽さにある。鉄と比べて強さは10倍あるが、比重はわずか4分の1。糸状のものを加工することで、飛行機の機体や自動車の車体になるのだが、鉄でつくられた車体よりも軽いため、燃費が格段に向上する。エネルギー効率を高めることが、CO2の削減につながるのである。

 世の中、エコブームの真っ盛りである。炭素繊維にみられるように、「環境に優しい」は製品が売れる大きな要素となっている。そんな中、このニュースは「時代の流れに乗れば、ビジネスを成功に導くことができる」という話のようにみえる。しかし、もう一歩踏み込んで、このニュースを読むと、どんなビジネスにも通用する成功のヒントを読みとることができる。

 実のところ、炭素繊維が「環境に優しい」商品として注目を集め始めたのは最近のことである。炭素繊維の歴史を振り返ると、1970年代には鮎竿やゴルフシャフトなどに利用されていた。その強さと軽さは、スポーツという、環境以外の分野ですでに重宝されていたのである。ただし、東レは炭素繊維という一つの技術を鮎竿やゴルフシャフトの素材だけに留めなかった。コツコツと開発を続け、飛行機や自動車にも応用できる技術を開発した。それがエコブームに乗って大きく花開いたのである。現在では、このほかにも、建築用の建材や風力発電の風車など、様々な分野への応用を続けている。

 ここで着目したいことは二つある。まず、一つの技術を一つの目的で商品化して終わりにするのではなく、第二、第三と応用できる場所を探し続けることの大切さだ。そして、もう一つは、技術や商品を「誰のどんな問題のために提供するのか」という視点を忘れないこと。この姿勢が次の需要に繋ぐアイデアの源となることだ。炭素繊維は「重量の軽い機体をつくりたい」と願う「特定の誰か」のお役に立つ製品であり、この役立ちたいという視点がなければ、飛行機の機体に応用することには結びつかなかったかもしれない。

 一つの分野で大きく成功しても、必ず限界はやってくるものである。次にどこにいくべきか。その道が正しいのかどうか、誰にもわからない。しかし、常に新しい道を探し続けることと、着眼点を「特定の誰か」のお役立ちに置くことを忘れずにいれば、次のアイデアが出てくる可能性は高まるのではないだろうか。

 普段、店で棚の前に立ち、もうこの商品はこれ以上の伸びは望めない。そんなあきらめのまなざしで眺めている商品はないだろうか。新しい視点で商品を見つめ直し、ひと工夫加えることで、その商品が新しく生まれ変わり、大きな需要を呼び込める可能性が生じる。それは、大がかりなことでなくてもいい。

 たとえ、ブランド品、高級品でなくとも、顧客は自分が「特定の誰か」であり、店側の顧客の役立ちたいという気持ちを感じることができれば満足するものである。そして、顧客の価値観が多様化している現代において、「特定の誰か」を意識することはむしろ大手企業よりも、キメの細かい動きができる中小企業の得意とするところだ。このニュースは、今こそ、中小規模の店が「強み」をどう生かすか、そのヒントを示しているともいえる。

 

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