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そこで差がつくニュースの読み方

2010年5月6日更新

第4回 損を取ってまで店が守るべきもの

 アップルの製品がインターネットで買えないという現象が起きている。ヨドバシカメラのネット販売サイトで、携帯音楽プレーヤーのiPod(アイポッド)やパソコンのiMac(アイマック)などを購入しようとすると、「店舗でのお受け取りとなります」と表示される。アップルの商品が欲しい人は店舗で引き渡してもらうしかなく、来店できない顧客はアップルの商品を購入することができないということだ。

 ヨドバシの販売サイトに掲載された「アップル製品のお取り扱いについて」によると、「アップル社の意向によりヨドバシ・ドット・コムを含む通信販売が行えなくなりました」という。つまり、これはヨドバシカメラが自ら決定したことではなく、アップルから商品の取り扱いが「禁止」されて、やむなく販売を停止したことがうかがえる。

 この現象はヨドバシカメラだけでなく、ビックカメラやコジマ、ヤマダ電機などでも同様だ。大手家電量販店のインターネット通信販売サイトは、一様にアップル製品の取り扱いを停止している。ただし、リアル店舗のないアマゾンだけは例外で、従来と変わらず、アップルの製品をネット上のアマゾンのサイトで販売している。

 顧客からすると、商品を購入できる店の選択肢が減ることは望ましいことではない。他方のアップルにとっても、今回の行為は場合によっては独占禁止法に抵触する恐れがありデメリットは少なくない。実際、過去に、アップルは2度、独占禁止法違反の疑いで、公正取引委員会の立ち入り検査を受けており、今回も、同様に立ち入り検査が入る可能性はある。アップルはこれらのデメリットを認識しながらも、なぜ、ネット販売を嫌がるのだろうか。

 実際の商品を手にとることのできないネットショップでは、価格の安さが購入の決め手と言われる。「価格.com(カカクコム)」のように、ネットショップごとの販売価格を調べて、もっとも安く買えるお店を紹介するサービスがあるくらいだ。ネットショップでは、大幅な値引き販売はよくあることで珍しくない。

 実は、この「安売り」をアップルが嫌い、ネット通販を禁止したのだといわれている。アップルは自社店舗のアップルストアを運営しているが、ネットで値崩れすることで、アップルストアが打撃を受けることを避けようとしていることが一つ。そして、それよりも、一番の理由は値崩れによるブランドイメージの低下を防ごうとしていることがあるようだ。

「ヒット商品のせいで、アップルはいい気になっているのではないか」
 このニュースを読んで、大手メーカーの傲慢に不快感を覚えた人もいるだろう。ただ、このニュースを単に「大組織の傲慢」で片付け、自社には「ブランド」なんて関係ない、などと片付けてしまうのはもったいない。

 たとえ、全国区の有名店ではなくとも、地域では、自分の会社や店はよく知られた存在であるはずだ。ある意味、「のれん」ともいわれるものはどの店にも存在するものだ。このアップルのニュースは「のれん」を守ることの大切さを改めて感じさせるものだといえる。

 今の時代、画期的な商品やサービスはなかなか生まれてこない。たとえ、儲かるビジネスが生まれても、次々に競合が参入して、競争は瞬く間に激化してしまう。類似商品、サービスがひしめき、差別化はなかなか進まず、顧客はどれを買っても、どのサービスを受けてもあまり変わりがない状態になってしまう。実際に、まわりを見渡せば、生鮮食料品や生活雑貨、衣類、飲食店と似たような店が並んでいる。

 それでも、人によっては、ホウレンソウやレタスは近所のあの八百屋、贈答用の海苔はデパート横の老舗、柏餅は隣駅近くにある和菓子店などと、ひいきの店があるものだ。たとえ、似たような店が乱立しても、しっかりとした「のれん」はお客様を引き寄せる要因なのである。

 店を存続させるには売上が必要だ。販路はより大きく、より広く、と考えがちである。したがって、パートナーを選ぶとき、ついつい目線は取扱高の大きさに向いてしまう。たとえば、大手スーパーから、自社オリジナルの柏餅に取り扱いの話がきたらどうするか。価格は大幅に値下げされるものの、取扱高は倍増するし、自店は有名店になれるかもしれない。しかし、その提携は店にとってよいことなのか。提携は店を飛躍させるチャンスになるかもしれないが、次のような側面もある。

 今の店に買いに来ている顧客の多くは、手づくりで丁寧に作ってくれる今の柏餅が気に入って買うのである。その店でしか買えないという希少性も魅力だ。それを大量に安くさばく方式にしてしまったら、本来、その店の「のれん」が有していた価値が変わってしまい、「新しいのれん」に魅力を感じられない今の顧客は離れていくだろう。やがて、スーパーとの契約が終わったとき、店には何も残っていない状態が生じる。その「何も」のなかには価格の決定権すら含まれるのである。

 「のれん」の向こうには、のれんが守ってきた品質、そして、店の価値がある。同じような店、同じような商品が並んでしまう現代。「のれん」による信頼は、何よりも大切なものなのである。アップルのように、自社のブランドイメージのためなら、販売店に「禁止令」を出すこともいとわない。このような心持ちには、傲慢さを感じずにはいられないのだが、そこまでしてもアップルがアップルであるためには、自社のブランドイメージを守っていかなければならないのである。アップルのニュースはのれんを守るためには、目先の利益にまどわされてはいけないことを示す。むしろ、たとえデメリットがあろうとも、守るべきものは「のれん」だと、アップルのニュースは物語っている。

 

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