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お手本にしたい繁盛店

生きる差別化、死ぬ差別化−讃岐うどん専門チェーンを展開するトリドール

2010年7月29日更新

第16回 生きる差別化、死ぬ差別化−讃岐うどん専門チェーンを展開するトリドール

 競争に勝つためには差別化が不可欠である。多くのケースにおいて、差別化とローコスト化は表裏の関係となっており、他者との違いを多く出そうとすると、コストがかさみ利益を圧迫する。画期的な差別化のアイデアがあったとしても、そのコストが大きいがために、経営者として導入を断念することも少なくないだろう。とはいえ、コストを気にしすぎて、中途半端に差別化をすることほど、客のためにも店のためにもならないものはない。差別化、とひと言で言ってもそのさじ加減は難しい。

 今回取り上げる事例は、極めて独特の意思決定で、差別化を成功につなげたケースである。

釜揚げうどん・並

釜揚げうどん・並 打ちたてを280円で提供

 近年、讃岐うどんのチェーン店として勢力を広げている会社といえば、「丸亀製麺」を運営するトリドールが浮かぶ。昨年は、「丸亀製麺」を中心に128店舗の出店を達成し、現在では全国に447店舗を展開する外食チェーンに成長した。なんといっても本格的な讃岐うどん(釜揚げうどん・並)を280円という低価格で食せる点が消費者にはうれしい。しかも、単に安いだけでなく、製麺機を店内に持ち込み、店内で製麺する様を実演してみせる。演出効果によって、顧客は打ちたて、できたて感を目と舌と店内の雰囲気で味わうように仕掛けが施されている。

 丸亀製麺が店舗展開を開始したのは2000年。当時、セルフ形式の讃岐うどんチェーン店はあったが、店内に製麺機をもちこみ製麺の様子を実演してみせるタイプは前例がなかった。

「製麺機を持ち込むなんて効率が悪い。セントラルキッチンもない店が儲かるわけがない」
丸亀製麺店内

丸亀製麺店内の様子。天ぷらを揚げる様子まで全て見せる

 トリドール社長の粟田貴也氏へは、ネガティブな意見が多く寄せられた。それもそのはず、常識で考えたら、セントラルキッチンを設けて、大量生産したほうがコストは低く利益も大きくなるはずだ。製麺機をもちこむとなると、決して安くない設備投資がかかるし、場所もとる。製麺担当者の人件費もばかにならない。くわえて、人によって麺の品質にばらつきが出てくるため、場合によってはクレームにつながるリスクもあった。

「事業をやっている以上、利益を出すことは必要です。当社は年間120店ペースで出店しています。製麺機を置かなければ設備費、人件費の大幅削減ができ、瞬時に多額の利益が生まれるでしょう」

 しかし、粟田氏は製麺機を置くという方針を曲げなかった。差別化を図るなら、とことん、徹底した差別化でないと意味がない。店で麺をゆでる程度の中途半端な実演では、わざわざ店に足を運んでもらうだけの集客装置になるとは思えなかったという。製麺機に対するネガティブな意見は聞き流し、丸亀製麺は出店を続けた。そして、粟田氏の狙いは当たり、丸亀製麺はお客の姿が絶えない繁盛店になった。

差別化を活かすには

「ハンバーガー市場は約6000億円、牛丼は約2200億円、対するそばを含むうどん市場は約1兆円といわれています。その中で、うどんは1000店を超える規模のチェーン店が存在しません。うどんの市場には、さらに伸びる余地があると私は判断し、出店を加速させました」

 差別化にしろ、ローコスト化にしろ、その前提として、進出する市場自体は、新規参入者にとって、十分収益があげられるものでなくてはならない。たとえば、いまからハンバーガー市場に参入する企業は、マクドナルドに勝てる可能性はゼロではないが決して大きくはない。

 トリドールが選んだうどんチェーン店の市場には、マクドナルドのような圧倒的な大手がいなかった。ここで差別化を徹底すれば、十分勝ち残れる。粟田氏の判断が功を奏し、本格にこだわる顧客からの圧倒的な支持を得て、丸亀製麺は成長を続けた。

 ここで注目すべきは、差別化を進めるうえで、適切な市場、タイミングがあるという点だ。ともすれば、どう差別化するか、という点ばかりに目がいきがちだが、粟田氏の適切な意思決定のベースには、市場を冷静に見る目があったことがわかる。

 粟田氏はこのような経営者としての視点をどこで身につけたのだろうか。

「最初に店を出したのは20代半ば、商売のことなんて何も知りません。もちろん、どの産業を狙うべきか、差別化が重要といったことはまったく理解していませんでした」

 創業時代、トリドールは焼鳥屋を営んでいた。「一店舗目が一番厳しかった」と言うように、資金をはたいて店を出したものの、いつも客はまばら、このままだったらつぶれるかもしれないという危機感が常に付きまとっていた。そこで、粟田氏は集客のため、さまざまな施策を打ち出す。うまくいくものもあったが、失敗することも少なくなかった。そのなかで、少しずつ、商売で大切な集客や出店に関する勝負所を体で覚えていった。

「地道に人のやらないところに、チャンスがあると思います。したがって、いつも、私は常識と非常識のはざまを歩いています」

経営者が耳を傾けるもの

店舗外観

路面店の店舗外観。都心ではビルの中に入っていることも

 粟田氏は製麺機に対する苦言は聞き流したが、なにもかも独断で決定するタイプではない。耳を傾けるべきものに対しては、聞く姿勢を崩さない。

「外食産業は、新しい時代に移るための転機にいると私は感じています。いま、外食への需要は大きく下落しています。理由はいろいろあると思いますが、これは時代が警鐘を鳴らしているのではないでしょうか」

 20世紀の大量生産、大量消費の時代、外食チェーン店はセントラルキッチンを設け、冷凍技術を駆使して効率よく生産を続けた。大量出店により規模の経済を働かせることで大きな利益をあげる。このような戦略を打ち出す企業が外食産業にあふれた。

 顧客はこの通り一辺倒のやり方に飽きを感じてきている。時代の流れの中、粟田氏は顧客が少しずつ豊かな物へのあこがれを強めていることを感じ取っていた。同じセルフ形式の讃岐うどんでも、「豊かさがあるところ」に集客の要素があるに違いない。そのためには、たとえ利益を圧迫しても、製麺機が必要だと考えたのだ。粟田氏は常識の範囲でしかものを考えられない人の意見によって、経営判断を左右させることは少ない。しかし、時代が鳴らす警鐘には耳を傾ける。この姿勢があったから、真の差別化が生まれたといえる。

謙虚さというもう一つのベース

粟田氏

株式会社トリドール 代表取締役社長 粟田貴也氏

「丸亀製麺は成長期にありますが、いずれ踊り場がやってくるでしょう」

 現在、粟田氏は来るべき成長鈍化に備えて、次の業態を模索している最中だ。チャレンジ精神がなくなったとき、企業は成長を止める。そうならないためにも、常に大きな目標を掲げる。これが、企業の成長を持続させる一番の要因であることを粟田氏は知りぬいている。丸亀製麺が成長期にあるとしても、粟田氏は成功に甘んじて、あぐらをかくことはしない。

「私たちの店舗数は、高々500店舗に満たない程度です。世の中には、ハンバーガーや牛丼などで、1000店舗を超えるチェーンを展開している経営者がいます。私が偉そうに語っていたら、はたから見て滑稽でしょう」

 粟田氏の視線は常に上に向く。そうすることで、自分は絶対的な存在ではなく、世の中には自分よりももっと大きな人がいることを心に停め置くのである。成功者が成功者でいられる一番の要因は謙虚さにある。それには、いつも、自分よりも大きなものを見つめることで、自身の存在が「絶対」ではないことを確認している。これが、真の差別化の源になっている。

一、どう差別化するかの前に、差別化が大きな競争優位になる市場かどうかを見極める
一、集客のための差別化には非常識だと言われるくらいの突き抜けたものが必要
一、成功しても謙虚でいられるために、常に目標を高く持ち、自身が小さな存在であることを心しておくことが大事
会社概要
会社名株式会社トリドール
代表者代表取締役社長 粟田貴也
所在地兵庫県神戸市中央区小野柄通7丁目1-1 日本生命三宮駅前ビル11階
電話番号078-200-3430
事業内容 飲食店の経営
 

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