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お手本にしたい繁盛店

企業の寿命を延ばすには新陳代謝が必要−VMDを導入したバラエティショップ

2010年7月8日更新

第14回 企業の寿命を延ばすには新陳代謝が必要−VMDを導入したバラエティショップ

 店に、できるだけたくさんの商品を置けば、それだけお客様が欲しいと思うものが増える。だが、その分、店内はまとまりがなくなり、見た目の美しさが損なわれる。仕入れた商品を顧客の購買意欲を刺激するように並べ演出することは、店舗を運営する上で、きわめて重要だが、「商品の量」と「見せ方の質」という二律背反の中で、どこで線をひいたらいいか、マネジャーは頭を悩ませている。

 この課題を解決するため、数年前から、VMD(ビジュアル・マーチャン・ダイジング)を導入する店が増えている。VMDとは、商品の並べ方や演出を視覚に訴えて、効果を出そうとする販売手法だが、近年では、ユニクロやイトーヨーカ堂などが取り入れている。小売業のなかでも、雑貨店、バラエティショップは、商品点数が多すぎて買い物がしにくくなりがちである。その分、VMDの効果が高いといわれている。

 1971年にオープンしたshop in(ショップイン)は、化粧品や美容関連商品を中心にしたバラエティショップで、全国に41もの店舗を展開している。母体は(株)東京ドームで、2005年ころからVMDを導入し、およそ3年もの年月をかけて浸透させていった。

「VMDを取り入れる前までは、店舗は自身の売上をあげることを優先していました。当時、何を仕入れてどう顧客に見せるか、店ごとに決めていたため、店によっては、商品が溢れかえり、まるでジャングルのようになっているところもありました」

 VMD導入時、スーパーバイザーとして、担当店舗を指導・監督した久保田こずえ氏は当時を振り返る。

VMDは生き延びるために必要な物

 VMDの導入が検討されていたころのショップインは店舗に統一感が欠けていたものの、売上が極端に低いというわけではなかった。そんなある日、デベロッパーから、「ショップインは何の店だかわからない」といった指摘を受ける。たしかに、店ごとに置くものがバラバラで、キャラクターグッズに多くのスペースをとる店もあれば、店長の判断でユニークな商品を置く店もあった。

 本来、ショップインが扱う主力の商品は化粧品などの美容に関するもので、顧客は「美しさ」を求めに来店する場合が多い。したがって、「店ごとの不統一感」や「雑然さ」はコンセプトとして適さないことは明らかだった。そこで、さまざまな選択肢がある中、ショップインは全店共通に、店をきれいに見せて、買い物しやすい環境を提供するという方針を打ち出した。

店内

手前に季節もの商品、奥側に定番商品を置いている

 どんな企業にも新陳代謝は必要不可欠である。生物が新陳代謝を止めることは、そのまま死を意味するが、これは企業も同じである。ショップインにとって、VMD導入は、単に店をきれいに見せるというだけではない。「ショップインは何をやっている店だかわからない」という印象を拭い、「若い女性を対象に、コスメや美容雑貨を売るお店」へ脱皮する。VMDの導入は、ショップインにとって新陳代謝を図ることを意味した。つまり、生き延びていくための知恵だったのだ。

 とはいえ、だれも慣れ親しんだ仕事のやり方を変えたいとは思わない。まずは、従業員全員の理解が必要だ。そこで、研修を通して個々の従業員に意識の徹底を図った。研修が終わり、いよいよ本格的な導入が始まった。来店した人が商品を見やすく、手に取りやすくなるように、ルールにのっとり店を変えていった。

幅100cm

通路の幅は、お客様が対向で通れる幅を確保している。

 たとえば、商品のプロモーションのコーナーは定期的に模様替えし、常に店が新鮮な状態を保つようにする。通路の幅を定め、お客様が行き来できるようにスペースを確保する。そして、今までは、店のどのスペースも同じように商品がならべられていたが、店頭の顧客の目に留まるスペースはプロモーションエリア、その奥が定番コーナーなどと、店の前を通った顧客が足を止め、さらに、店の奥に進んでいく仕掛けが施された。

ルールを守ることが目的になってはいけない

 ショップインにとって改革ともいえるVMD導入だったが、やはりさまざまな困難が付きまとった。その一つが、スタッフの「思考停止」だ。とかくルールを決めると、何も考えずに、規則を守ることを優先してしまうことがある。あるとき、それを象徴するようなことが起こった。

 ショップインのVMDには、高さ制限150cmというルールがある。女性の視線の高さを配慮して算出された数字だ。くわえて、高さを決めることは店全体を見渡せるというメリットもある。ところが、ある店では、什器の上に置いた商品の背が高く、150cmをはみ出すという状態が生じてしまった。そこで、その店は、商品を斜めに倒すことで、高さ150cm以内に収め、ルールを守ることにした。しかし、実際に斜めにしてみると、見栄えが悪いという問題が生じる。

「現場で発生した問題は会議で持ちよって、修正をかけました。先の高さ制限は、スーパーバイザーの許可があれば+5cm伸ばすことができるようにとルールを変えました」(久保田氏)
久保田氏

ショップイン部 管理グループ
左:野村隆史氏 右:久保田こずえ氏

 反対に、現場が独自にルールを解釈してしまったことで生じる問題もあった。ある日、久保田氏は店を巡回していると、商品ポップが、横90cmの棚の中に4枚貼られていることに気づく。ルールは3枚である。店としてはポップの枚数を増やせば、顧客の目に留まる可能性が高くなり、それによって、たくさん商品が売れるのではないかと考える。そうした結果、ポップの枚数は増えてしまい、かえって読む気が起こらないものになってしまう。

 久保田氏としては、「ルールにのっとり、1枚はがしてください」と言い切れば解決することはわかっていた。ただし、ルールを盾にポップの枚数を3枚に強制しても、スーパーバイザーが帰ったあと、もとに戻されてしまう。

「なぜ、ここは4枚、ポップがあるのですか」

 久保田氏は店長に尋ねた。そこから、なぜ「3枚」を守ることが大切なのか、ルールの意味を徹底して話し合い、理解するように努めた。

 新しいルールはなかなか浸透しないものである。だが、現場と本部をつなぐ役割を設け、きめ細かな調整を続けることで徐々にルールが守られていく。スーパーバイザーは定期的に店舗を見て回り、VMDが徹底されているかチェックを続けた。

 世の中の変化が激しい今の時代、企業は大きな変革が必要なときがある。しかし、進めていく上で、本部と現場の間で考えの違いが生じることが少なくない。そのときに、現場と本部をつなぐ役割が重要になってくる。現場を見て、本部が考えたことと齟齬があったとき、きちんとその情報を本部にあげて対処する。これができる人材の有無が、企業に大切な新陳代謝の可否を左右する。そのきめ細かさが、企業がさらに次の半世紀、生き延びていく種となる。

一、企業は新陳代謝が必要。安定している時ほど意識する
一、ルールは重要だが、運用する側の納得感はさらに重要
一、改革は、現場と本部の橋渡し的な存在が必要
会社概要
会社名株式会社東京ドーム (shop in
代表者代表取締役社長 執行役員 久代 信次
所在地東京都文京区後楽1丁目3番61号
電話番号03-3811-2111(大代表)
 

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