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お手本にしたい繁盛店

突き進むための情熱と、突き進み続けるための戦略

2010年7月1日更新

第13回 突き進むための情熱と、突き進み続けるための戦略

 企業の競争力を強化するには戦略は不可欠であり、経営者には戦略を立てて、実行していく能力が必要だといわれている。ただし、戦略を立てれば全てが上手くいくということではない。戦略以前になくてはならない、より大切なものがある。

 ダイヤモンドダイニングという会社がある。首都圏のターミナル駅周辺に、居酒屋やバーなど、100店舗に及ぶ飲食店を展開する新興企業で、お店ごとに業態が異なる「個店主義(マルチコンセプト戦略)」を掲げている。一見すると、事業の成功要因は、他にはないこのユニークな戦略にあるように思えるが、目を凝らしてみると、この成功の裏には、何を差し置いても、企業が持ち合わせるべき2つの必要不可欠なものが示されている。

ヴァンパイア棺の間

ヴァンパイア・カフェ、棺の間。オープンから10年目。

 そのなくてはならないものとは何か。一つめは、1店舗目オープン後の松村氏の行動を観察するとよくわかる。2001年、松村氏は銀座の真ん中に「VAMPIRE CAFÉ(ヴァンパイア・カフェ)」というドラキュラ城をモチーフにした店を開く。血をイメージした真っ赤な廊下、ドラキュラ伯爵が眠る棺のオブジェなどがあり、怖いもの見たさに顧客が集まり店は繁盛した。

 1店舗目がヒットすると、店のオーナーは2店舗目の出店を意識する。この頃、すでに飲食産業では、チェーン店による店舗展開が主流となっていた。ところが、ダイヤモンドダイニングが立ち上げた2店舗目はヴァンパイア・カフェとはまったく別の業態だった。場所は六本木、店内には高級感あふれる椅子とテーブルが置かれ、シックなカーテンと照明が落ち着いた雰囲気を演出していた。

 傍にいた同業者たちは、標準化した店をチェーン展開したほうが、コスト面での競争力が高まるのに、なぜ、松村氏は苦労して別の業態で店をオープンさせるのか。不思議そうに見ていた。

「一番大きな理由は、店をつくるのが楽しくて仕方なかった。それだけです。次にどんな店をつくろうかと考えだすと、次々とアイデアがわいてきて、眠れなくなってしまうほど、店をつくるのが好きでした」

 松村氏を占めていたものは、「どうしてもつくりたい」「今すぐつくりたい」という強い思いだった。一流のクリエイターがあり合わせの材料だけで、独創性のあるオブジェクトを創造するように、松村氏は限られた資金、人材の中で、自身のアイデアを「店」という形で実現していった。

成熟企業が忘れた人を突き動かす高い志が有効

 企業の経営者は、論理的に物事を考え、もっとも合理的な選択をしなければならない。その一方で、経営者の多くは、「理論の範疇を超えたもの」が重要なことにも気づいている。理屈でいえば、「つくりたいものをつくる」は効率が悪い。それを承知のうえで、松村氏はあえて「横展開」を選択しなかった。しかも、この先、会社がどのようになっていくか、細かな設計図などもつくらない。とにかく、走り、つくりたい店をつくり続けた。松村氏の根底にあるのは、理論の範疇を超えた強い思いである。

 これがユニークな店を開店させる原動力になる。成熟した企業では、自社の経営資源を分析し、そこから何ができるか戦略を組み立てていく。松村氏のやり方は大手企業の真逆を行く。お金も人材もまだ十分蓄えられていない新たに事業を始めるときは、むしろ、人を突き動かす強い思いが有効だ。

 ただし、「思い」だけでは商売は成り立たない。この部分に気づく目が松村氏には備わっており、実際に、ダイヤモンドダイニングには時代の流れに合った店をつくり続ける能力がみてとれる。松村氏が精度の高い意思決定ができるのは、バックボーンに、脳内に構築された、驚くほど密度の高いデータベースがあるからだ。

このデータベースはどのようにして蓄積されるのか。

とにかく松村氏はこまめに何でも「見る」。たとえば、「面白い店がある」という情報が入れば飛んでいくし、ビール会社や食材会社から急成長している店を教えてもらったら、社長自らが店を訪れる。しかも、一回だけでなく、しばらく間をあけて再び観察し、オープンしたてよりも客数が増えているか、減っているか、その理由は何かを分析して、自らの頭脳にデータベースを構築していく。この「豊かな店舗情報」のデータベースは、正確な経営判断を素早く下すための貴重な道具になっている。つまり、理論の範疇を超えた「強い思い」は、このようなデータベースが下支えしているのである。

気がつくと、店は8店舗にまで増えていた

竹取

2005年にオープンした4店舗複合施設の一つ、「竹取百物語」の店内。厨房を共有するなどでコストダウン。

 このころから、会社の方針として「個店主義」が固まり始める。二つの不可欠なものの一つ目が強い思いだとすると、二つ目は高い目標だ。

「100店舗、それぞれ業態の違う店をつくろう!」

 松村氏は、一見、非現実的にも見える目標を掲げた。ここでも、単に突っ走るだけではない。店を増やすには利益を大きくしなければならない。だが、店ごとに業態が異なると、通常のチェーン店よりもコストがかかる。そこで、ダイヤモンドダイニングはいくつかの工夫を試みた。食材の7、8割を共通化して仕入れる、同じ敷地内に複数店舗を開店させることで店舗の混み具合に合わせて従業員を融通する、厨房を共有するなど、当時としては斬新な方法によってコストダウンを実現させた。

 戦略以前に必要なものとは、「高い目標」である。横展開せずに、異なったコンセプトの店を100店舗出店するという目標は、社長にも、社員にも新しいものを求める力を与える。松村氏は店を立ち上げるにあたり、コンセプト決めの部分は納得いくまで従業員と密にコミュニケーションをとる。だが、そこから先の具体的な店づくりの部分は、売上、利益などの指標を示すだけで、あとは従業員に任せる。したがって、任された店のスタッフは、自身で工夫して、オリジナルメニューなどを考え出す。それが一人ひとりのやる気に繋がり、店は高い目標に向かって突き進むのである。

松村氏

株式会社ダイヤモンドダイニング 代表取締役社長 松村 厚久氏

 「経営センスは後天的なもの」といわれているのは、たとえばこのような高い目標は誰でも掲げようと思えばできるからだろう。その一方で、「経営は凡人にはできない」といわれているのは、掲げた目標に向かって、走り続けることはだれにでもできることではないからだといえる。しかも、売上をあげ、コストを削減し、従業員のモチベーションを高めなければならないなど、さまざまな制約条件のもとで、高い志に向かい続けるのである。経営にはゴールはない。ゴールのない道を走り続けるほど苦しいことはない。

 ダイヤモンドダイニングはもうすぐ100店舗という目標を達成する。

「飲食産業は、小が大を喰う世界です。今日うまくいっても明日はわかりません。そのためにも、次の目標は業界のリーディングカンパニーになることを目指しています」

 すでに、松村氏は100店舗達成の次の目標を掲げている。常に満足することなく、次の大きな目標を掲げ、そこに向かって走る。いつまでも、歩みを止めることなく、ダイヤモンドダイニングは走り続けていく。

一、強い意思と、実現するための自己を客観化する目が必要
一、実現不可能に思えるくらいの高い目標が、ひた走るスタミナ源になる
一、情報収集が先を予測する力を培う。情報は目で見てインプットする
会社概要
会社名株式会社ダイヤモンドダイニング
代表者代表取締役社長 松村 厚久
所在地東京都港区東新橋一丁目1番21号 今朝ビル4階
電話番号03-5537-5650(代表)
事業内容 飲食店の経営
飲食店の企画・運営
飲食店の経営コンサルティング
 

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