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お手本にしたい繁盛店

新しい価値は辺境から生まれる−タミヤプラモデルファクトリーの店づくり

2010年6月24日更新

第12回 新しい価値は辺境から生まれる−タミヤプラモデルファクトリーの店づくり

 抱えている事情や立場の異なる人とのコミュニケーションは難しい。意見が合わない、価値観が違うということはもちろん、場合によっては常識や言語すら共通のものが存在しないこともある。

 ビジネスの現場でも、こうした「異文化コミュニケーション」には、時間やコストを要する。同じ会社であっても、営業と開発、本社と支店など、「なぜこんな当たり前のことがわからないのか」とお互いが頭を抱える状況は、誰しも一度は経験することだろう。

 異なる意見を受け入れることの重要性はわかっていても、実際にやるのは難しい。こうしたジレンマを乗り越え、異質なものを取り込んだことで、繁盛に結びつけた店がある。横浜市のタミヤプラモデルファクトリーだ。

 タミヤプラモデルファクトリーは、名前の通りタミヤのプラモデルを置く模型店である。ユニークなのは単にプラモデルを売るだけではない点だ。店の半分がアトリエ(工房)で、顧客はプラモデルを組み立てたり、塗装したりと、格安料金で製作の場を得ることができる。このサービスはプラモデル業界では常識を覆す新しい試みだったが、プラモデルを作りたいが場所がないという中高年に受け、2008年3月に開店後、雑誌などで話題になったことも手伝い、休日になると一日の売上は、アトリエ利用料とプラモデルの販売を合わせて40〜50万円になる日もあるという。

 この業界初のユニークな店を発案したのは、さぞかしプラモデル好きの人だろうと思う方もいるかもしれないが、実はそうではない。いつの時代も、大きな変化は辺境から訪れる。タミヤプラモデルファクトリーを発案したのは川崎に本社がある、今関商会という会社だ。本業は出光ガソリンスタンドの運営で、そのかたわら、別事業としてバッティングセンターなどを展開している。この通り、プラモデルとは程遠い分野で事業を営んでおり、発案した社長も、プラモデルをほとんど触ったことがない、野球好きの屋外派である。

 そんな今関商会が着目したのは「お父さん世代」の悲哀だった。今の40代以上の男性層には、幼少のころ、プラモデルに熱中した経験がある人が少なくない。大人になった今、子どもと一緒にプラモデルをつくろうと思っても、部屋が汚れる、塗料の臭いが気になるといった理由で、奥さんに遠慮しながら作業しなければならない。そんなお父さんたちが思いっきり自由にプラモデルづくりを楽しめるスペースがあったらいいのではないか。ここからタミヤプラモデルファクトリーのアイデアが芽生えた。

効率性の議論では生まれないもの

工房

アトリエ(工房)。パーテーションなしの机もあり、ファン同士の交流を楽しむことも可能

 今関商会はこのアイデアを業界のトップ、世界有数の模型メーカーのタミヤに持ち込んだ。「おもしろい!」タミヤは企画に賛同し、プロジェクトチームを立ち上げることにした。メンバーは、今関商会とタミヤのほか、プロプラモデラーの長谷川伸二氏、アミューズメント立ち上げに実績のあるゲームメーカーのセガ、そして、内装の専門業者といった顔ぶれである。プラモデルのプロの集団と、プラモデル産業の外に長くいた異質の人種の混合部隊となった。

 どの分野でも、店舗をつくるときに重要なのは、単位面積当たりの売上高をいかに高くするかということがある。メーカーにとっても、店にとっても、狭いスペースで、効率よくたくさんの商品が売れることが望ましい。ところが、タミヤプラモデルファクトリーは、店の半分ものスペースを売り場ではない、製作スペース(工房)が占めており、当然のことながら店舗としての売上効率は悪くなる。

 発案者の思いは稼ぐことよりも、ユニークさの追求と「お父さんたち」が幸せになる空間を提供してあげたいということに注がれた。お父さんたちの問題解決が、「アトリエ使用」というサービスを利用する顧客を創り、最終的には売上につながる。このほうが、店舗に可能な限り商品を並べることよりも、多くの価値を提供できるのではないかという思いが直感としてあった。この確信は最後までぶれることがなく、結果として業界の常識を覆すようなお店が実現したのである。

 同質の人間が集まる組織だけでこれを進めていたら、面白い企画であっても、過去の成功体験や業界の常識を覆すことができず、断念していたかもしれない。むしろ、タミヤプラモデルファクトリーのアイデアは、今関商会というプラモデル産業外の会社だからこそ推進できたといえる。

異質の「知」を融合し常識を壊す

長谷川氏

タミヤプラモデルファクトリー トレッサ横浜店 マスター 長谷川伸二氏

 何か新しいものを創出するとき、つくり手の知識やスキルの高さができあがりの質を左右する。それは店も同じだ。とくに、プラモデルはコアなファンが多い。タミヤプラモデルファクトリーでは、プロモデラーの長谷川氏をマスターとして常駐してもらい、製作知識・技術のアドバイスをする体制を整え、ハイレベルなお客様にも対応できるようにしている。また、アトリエの壁に展示されたプラモデルの新旧のボックスアートは、ファンにはたまらないアイテムでもある。これはタミヤからの提供で実現した。

 確かに、こうしてファンの心をつかむ仕掛けができたのは、タミヤという業界ナンバー1企業と、プラモデルを作ることを生業としているプラモデラーなど、プラモデルの世界の中でもトップクラスの人がプロジェクトメンバーにいたからである。

 ただし、プラモデルに精通した人だけが集まっていても「何か」が足りない。画期的でまったく目新しい価値を創造していくには、異質の者同士の「知」が融合することが必要だ。タミヤプラモデルファクトリーが成功したもう一つの要因は、プロジェクトメンバーに一味違う「異質」のメンバーが加わっていたからだといえる。

女性の取り込みで客層を広げる

 タミヤプラモデルファクトリーの出店先が「トレッサ横浜」という、トヨタのグループ会社が運営するショッピングモールということもあり、ミーティングのときから、今関商会では、店の対象はコアな男性ファンだけでなく、女性への配慮も必要だと意見を出していた。そこで、男性プラモデルファンだけでなく、平日の昼間を中心に、若い女性をターゲットにネイルアート教室などを企画した。ネイルアートはプラモデルと塗料やエアブラシなどの道具など、共通する部分が多いという視点からだ。これをきっかけにして、女性スタッフがレディース企画を随時企画・提案し、好評を博している。これもプラモデル業界の人たちだけでは思いつかなかったアプローチであり、こうした部分にも、混合部隊のメリットが表れているのである。

 プロジェクトを進めるうえでは、同質のものが集まったほうが、お互い暗黙に理解している共通部分が多く、効率よく話が進む。その点、異質の人間がいると、予想外のところで意見がぶつかり合うし、自身が所属する業界の常識や、自分の背景にあるビジネスへの思想を説明しなければならないこともでてくるため、とかく、理解に時間がかかりがちだ。

 とはいえ、同質は物事を一方向に深めることはできるが、幅の広さは出てこない。これでは多様化した価値観を前に、新しい価値を生み出すことは難しくなる。そこで、異質の人材の必要性が高まるのである。

 新しいものをつくるとき優先すべきは効率ではない。遠回りになるが、異質の者同士が意見をぶつけ合い、互いの「知」を融合させることで、常識の破壊が生まれ、画期的なものが形として誕生する。

一、画期的なものをつくり出すには、異質の者同士の「知」を融合させる
一、新しい試みであっても、それまでに培った専門性の高い知識、スキルをないがしろにしてはいけない
一、互いの意見をぶつけ合うことから新しいものが生まれる
会社概要
会社名株式会社今関商会
タミヤプラモデルファクトリー
代表者今関 康裕
所在地神奈川県川崎市川崎区宮本町8−16
 

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