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お手本にしたい繁盛店

小資金で差別化につながるオリジナル商品を開発する方法

2010年6月17日更新

第11回 小資金で差別化につながるオリジナル商品を開発する方法

 小売業は「PBブーム」真っただ中である。大手スーパーは自ら商品企画を立て、メーカーに生産を発注し、競うように「プライベート・ブランド」を増やしている。その動きはPBの範囲に留まらず、ユニクロやGAPのような、さらに製造に踏み込んだSPA(製造小売業)が活況するに及んでいる。もはや、小売業は単にモノを売ればいいという時代ではなくなり、企画を立てるだけでなく、商品開発までを自社で手がける企業が好業績をあげている。とはいえ、一般の企業が自社単独で商品を開発しようとしても、機械設備、場所と開発環境を整えるための負担は大きい。

 そんな中、多額の研究投資や設備投資を行うことなく、従来にない新商品を開発し、業績を伸ばしている会社がある。大阪の老舗昆布店「舞昆のこうはら」である。2004年に発売した発酵塩昆布「舞昆(まいこん)」が、150万個を超えるヒット商品になった。舞昆のこうはらには、広々とした研究施設や大がかりな測定装置はない。それでも、ヒット商品を開発できたのには理由がある。

必要なのは泥沼から脱出するための新商品

「舞昆のこうはら」本社店

「舞昆のこうはら」本社店。直営店、7店舗を展開

 「舞昆」が発売される前まで、舞昆のこうはらでは塩昆布の「しいこん」という商品が主力だった。独自にあみだした直火仕込製法による塩昆布で、卓越した味が評価され、農林水産大臣賞や水産庁長官賞、大阪府知事賞を受賞した。

 ところが、「しいこん」の人気に目をつけた周辺の店から、見た目も名前も同じような塩昆布が発売されるようになる。しかも、他店は材料を安価なものを使用しているため価格が安い。せっかく、本家本元こうはらの「しいこん」を気に入ってもらっても、客は他店の類似品に流れてしまう。こうはらがビラをまけばまくほど、他店に客が集まり、当のこうはらは思うように利益が上がらなかった。

 社長の鴻原森蔵氏は悩んでいた。

「現状から抜け出すには、他店が真似できない、付加価値の高い商品が必要だ」

泥沼ともいえる現状を打破するには新しい商品しかない。とはいえ、商品の画期的なアイデアなどすぐに思い浮かぶはずがない。

 そんなある日、常連客の一人に店の近くで会った。長年、こうはらの塩昆布を愛用していた一家だったが、最近、店に姿を見せなくなっていた。

「ご主人はお元気ですか」

鴻原氏の問いに、婦人は悲しそうな顔で首を横に振る。理由を尋ねてみると、塩昆布があると夫がご飯をおかわりしてしまい、血糖値が上がってしまう。これがもとで、たくさんご飯を食べたい夫と、糖尿病を予防したい妻との間で、食事のたびにけんかが絶えなくなってしまったというのだ。こうはらの塩昆布を見て、夫人は楽しかった頃の食卓を思い出し、寂しそうな表情をみせた。

産学連携で得られる設備と「知」

 ご飯をおかわりしても、糖の吸収を遅らせる、あるいは燃焼させる塩昆布はできないか。鴻原氏の頭の中に、いろんなアイデアが駆け巡る。新たな原材料を加えてはどうだろうか。炊き方を変えてみようか。無数の考えが浮かんだあと、ふと、「発酵」に思いが及んだ。

 当時すでに、鴻原氏は昆布を発酵させるとうまみが増すことはつかんでいた。大豆を発酵させると「納豆」ができるように、昆布を発酵させたら、納豆のような体にいい「何か」ができるのではないか。ただし、これは推論にすぎない。研究で得たデータをもとにしてつくられた塩昆布ならば、他店は簡単に真似できない。高付加価値のある商品を生み出すには研究が必要だ。

株式会社 舞昆のこうはら 代表取締役社長 鴻原森蔵氏

株式会社 舞昆のこうはら
代表取締役社長 鴻原森蔵氏

 とはいえ、研究するには設備がなければできない。実験に必要なマウスの飼育設備やマウス専用血圧計など、どれもそろえるとなると一台数百万円もかかってしまう。中には、たった一回しか使わない装置もある。とても個人では用意できそうもなかった。そうこうしているとき、取引先の信用金庫の担当者が大阪府立大学の教授を紹介してくれることになった。大学と産学連携を組めば、大学が有する設備を利用できるうえ、専門家の「知」を得ることもできる。こうして、こうはらと大阪府立大学との産学連携が始まる。大阪府からは1000万円の研究費が下りることが決まった。

 研究を進めていくなか、教授のアドバイスにより昆布の発酵はあけびの花びらにある天然酵母を使うことが決まる。ただし、いくら体にいい成分が多く含まれたとしても、味が悪ければ商品にはならない。教授と鴻原氏らは何カ月もかけて、数値と味の両方が最もよくなる組み合わせを探し続けた。そして、できあがったのが「舞昆」である。

お金だけでは成功しない

 このような事例の場合、中小企業はお金がない、人もいない、だから産学連携を上手く利用することで、独自商品を開発する土壌を作る、という点に目がいきがちだ。しかし、今回の真の成功ポイントはそこではなく、産学連携にたどり着いた鴻上社長の商品開発に対する熱意である。

社長自ら、釜炊き

社長自ら、釜炊き。楽しそうな表情が印象的

「昔から、お客さんに新しいものをつくっては、食べさせるのが好きだった」

 鴻原氏は以前から、果物などの思いもよらないものを材料に加えて塩昆布をつくり、来店客に食べさせていた。食べたあとにお客が見せる、「美味しい!」と目を丸くする表情が何よりも好きだという。

 休日になると、買い物に出かけ珍しい食材を見つけては手に取る。24時間、いつでも食べ物のことばかり考えているのだ。塩昆布の隠し味にみかんの酸味を混ぜてみたらどうなるか。パイナップルはどうか。思いついたものは、片端から試作品に仕上げていく生活がずっと続いていた。

「派手に遊ぶよりも、食べ物のことをずっと考えていたい。そして、できあがったものをお客さんにお出しするのが何よりの楽しみ」(鴻原氏)

 世の中には、画期的なアイデアを生み出す人間がいる。そのような人から、画期的な商品が生まれ、これが企業の強みとなる。このようなアイデアは、持って生まれた才能だと思われがちだが、実は、「ずっと毎日思い続ける」という意外にもシンプルなことから誕生する。

 こうして見ると、今回の事例における成否を分けたポイントは、開発の資金がない、というところで諦めなかった鴻上社長の顧客を喜ばせたい、という熱意だということがわかる。その熱意が産学連携という「手段」を引き寄せ、商品開発を成功に導いたのである。

 商品開発というのは、人材、設備、過去の経験にもとづくナレッジといった組織能力が成否の分かれ目となるケースもあるが、今回の例のように「諦めない熱意」が分かれ目となることもある。

 その意味で「お金」の問題ではないのだ。

一、自社開発は競争優位の源泉。産学連携を賢く利用して効率よく開発する
一、開発を成功させるポイントは独自の他社に真似できない商品をつくること
一、「開発」を楽しみ、好きになり没頭することで、いいアイデアが生まれる
会社概要
会社名株式会社 舞昆のこうはら
代表者代表取締役 鴻原 森蔵
所在地大阪府大阪市東住吉区田辺4-12-1
電話番号06-6626-2345
事業内容 昆布加工品、健康食品等の製造・販売
 

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