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戦わずして勝つ−小商圏で勝負をかけたホームセンター、コメリ

2010年6月10日更新

第10回 戦わずして勝つ−小商圏で勝負をかけたホームセンター、コメリ

 ビジネスは戦いである。競争に勝った者が勢力を広げ、敗者は退場を余儀なくされる。そして、戦いにはいつの時代も、勝つための原則、法則が存在する。たとえば、外食、家電量販店などのチェーンストアの出店は、人の集まりやすい場所を狙うことが原則である。駅前や幹線道路沿いに出店することで来店顧客数を増やしていくわけだ。ただし、皆が原則に従えば、そこは自然と激戦区となる。それぞれが「安さ」「豊富な品数」「広い店舗」といった武器を用いて、店舗がひしめくなか、つぶし合いの死闘が繰り広げられる。

 その一方で、戦いに勝利する手段は、必ずしも相手を殲滅(せんめつ)させるだけではなく、ビジネスにおいては、むしろ、「競争に勝つには競争しないこと」という法則もある。このパラドックスともいえるビジネス法則を実践している企業がある。それは、新潟県発祥のホームセンターチェーン、株式会社コメリだ。

 コメリには、独自で開発した「ハード&グリーン」という業態がある。DIY用品(ハード)と園芸用品(グリーン)に特化した専門店である。一般的なホームセンターチェーンは人口3万人〜5万人以上の商圏を狙い出店する。これ以下の規模だと商売が成り立たないからだ。対するハード&グリーンは、出店する地域が人口わずか1万人程度の農村地域である。

 くわえて、店舗の面積は一般のホームセンターが1000坪超なのに対し、ハード&グリーンは300坪。専門店のため品数は限られ、扱う商品はノコギリや農機具といった一度買ったら長持ちする、きわめて回転率が悪いものばかりだ。

「ハード&グリーンの1号店を出店したのは1983年。当時、コンサルタントの先生から、猛反対されたと聞いています」(株式会社コメリ ゼネラルマネジャー 早川博氏)
ハード&グリーン外観

ハード&グリーン外観。主に農村地域にある

 コメリは周囲の反対を押し切ってハード&グリーンを出店した。誰が考えても儲かるはずがない。そういわれていたハード&グリーンだが、次々と店舗を増やし、いまや全国に800店を超えるほどにまで成長している。「なぜ、あれで儲かるのか」店舗数が増えていく中、同業者は不思議そうにコメリに視線を注いだ。

敵のいない地へ出店する

 ハード&グリーンは農村地域にあり、大きな来店数は見込めない。だが、見方を変えれば、この地は出店しても儲からないことを理由に、大手企業は進出しない、「競争のない世界」でもある。安売り合戦で疲弊することもないし、顧客の奪い合いで血を流すこともない。

 青い海でのびのびと泳ぐ魚のように、ハード&グリーンは競合の脅威にさらされることなく店舗数を増やしていった。新潟県内に1号店がオープンしたときには、すでに、次の店の立ち上げ準備が進んでおり、翌年には立て続けに2号店、3号店を開店していった。

 ハード&グリーンは来店客数が少ないため、売上を大幅に増やすことができない。利益をあげるにはコストを下げる必要がある。それには店を増やし、大量に仕入れ、仕入れ単価を下げなければならない。コメリはハード&グリーンを立ち上げるときから、チェーンストア化することを念頭に置いていた。

「会長の捧(ささげ)は、負け戦はしない人です」(早川氏)
株式会社コメリ 代表取締役会長 捧 賢一氏

株式会社コメリ
代表取締役会長 捧 賢一氏

 当時、社長として陣頭指揮を執る捧氏には勝算はあった。それは、チェーンストア化によってコストを下げることに加え、ハード&グリーンの弱点をすべて強みに変えていくこと。たとえば、「店の狭さ」も強みになる。農村部の住民の多くは50代を超える年配者である。大型店は車を降りてから店舗まで距離がある。さらに、欲しいものを買うため広い店内を歩きまわったあげく、レジは立ちっぱなしでずっと待たなければならない。ホース一本買うだけなのに、ヘトヘトになってしまうのである。その点、ハード&グリーンはこじんまりしているので、車で乗りつければ大して歩かずに数分で買い物が済ませられる。しかも、地域に密集して出店しているので、農家の自宅近所に店があって便利だ。

 高齢者である地域住民にとって、ハード&グリーンの高い利便性が受け入れられ、周辺の住民は必要な物があればハード&グリーンに足を運ぶようになった。こうして、コメリは点から線へ、そして面で出店地域を制覇した。そして、次の別の場所へと移り、同様に地域制覇していき、やがて、ジグソーパズルのピースを埋めるように、日本全国に店舗展開するようになった。

 とはいえ、ハード&グリーンが出店する地域は人口が少ないうえ、扱う商品の回転率が低い。そのため、一号店を立ち上げた後は、しばらく赤字が続いた。それでも、コメリはハード&グリーンの店舗数を増やし展開し続けた。さらに、コストダウンを進めるため、配送センターの効率化、オペーレーションの徹底した合理化などを進めた。理論上は、出店を重ね店数が増えれば、一店舗あたりのコスト、そして損益分岐点が下がる計算だ。しかし、そうした理論通りに、事業が黒字に転換することはなかった。

 新しい事業を立ち上げたものの、採算がとれないとき、その事業を損切りするか、続けるのか。経営トップは決断を迫られる。この判断は経営の中でも最も難しく、基準となる原則論は存在しない。ただ、たとえ赤字続きの事業でも、買い物を終えた顧客が笑みを浮かべているときは、その事業はいずれうまくいく可能性が高いという見方もある。

 ハード&グリーンで買い物を終えた顧客の表情は明るい。これまで、農村に住む高齢者は、買物をするのに遠方の大型店まで足を運び、重い足を引きずりながら買い物をしなければならなかった。年配者にとって、ハード&グリーンは近所にあり、買物の苦労を軽減できる、ありがたい存在なのである。ハード&グリーンは撤退どころか、さらに出店を続けた。

「1991年、全店舗数が100店を超えたとき、潮目が変わりました」(早川氏)
秘書室 ゼネラルマネジャー 早川 博氏

秘書室 ゼネラルマネジャー 早川 博氏

 ハード&グリーンの1号店から8年の歳月が流れ、コメリは100店を超えるチェーンストアに成長した。ようやく、ハード&グリーンにも損益分岐点を超える店舗が増え始める。その後は、店舗数増加に勢いを増し、1995年には200店舗を超え、毎年増収が続いている。

 ビジネスはスピード勝負である。その一方で、時が満ちるまで、忍耐強く待たなければならない側面もある。もともと、コメリはホームセンターを運営していたが、ハード&グリーンを立ち上げる頃の業界は、各地にホームセンターが増え、収穫が逓減し始めていた。仮に、コメリがハード&グリーンに見切りをつけ、ホームセンターのみに業態を絞っていたら、ホームセンターの激しい戦いの渦中に身を置くことになっていたはずだ。競争に負けるようなことがあれば、業績は尻つぼみになり、今のコメリのような発展は望めなかっただろう。

 コメリは、大手が目をつけない土地に目をつけ、あえて競争しない場所を選んだ。そこには、「競争に勝つには競争しないこと」という法則が働いている。ただし、その道は険しく、厳しいものであったが、コメリは耐えた。この「忍耐」がなによりも、勝利に必要なアイテムだと示している。

一、他社が入りにくい市場を探す
一、競合に対抗する前に、避ける方法も検討する
一、小さな市場の開拓には、答えを性急に求めない
会社概要
会社名株式会社コメリ
代表者代表取締役会長/捧 賢一
代表取締役社長/捧 雄一郎
所在地新潟県新潟市南区清水4501-1
電話番号025-371-4111(代)
事業内容 ホームセンターおよびハード&グリーンのチェーンストア経営
 

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