知れば納得!すぐに使える! 小売・流通業の新常識

連載記事

お手本にしたい繁盛店

着物リサイクルショップ「たんす屋」

2010年5月27日更新

第8回 衰退期の生き残り戦略 −着物リサイクルショップ「たんす屋」の誕生−

 どんな成長産業にも、やがて衰退の時期を迎えるときが来る。市場が縮小していくなか、手をこまねいていて待っているだけでは、やがて倒産の憂き目に遭うことになる。ならば、衰退の兆しがみえたならば、いち早く「効果的な撤退」を考えることが正しいのか、というとそうでもない。なぜなら、衰退産業にいながらも収益を伸ばし続ける企業もあるからだ。そうした企業の戦略に着目すると、産業の衰退期であっても、それに適した戦略があることがわかる。

 近年、着物業界は市場の縮小に歯止めがかからない。かつては2兆円もの市場規模を誇っていたが、着物離れが進み、1999年には7000億円、そして今ではわずか3000億円の市場になってしまった。

買い取った着物。かつては社長自ら買い付けもした

買い取った着物。かつては社長自ら買い付けもした

 そのなか、ここ10年間、毎年売上高を伸ばしている企業がある。着物のリサイクルショップ「たんす屋」を運営する、東京山喜株式会社だ。もともとは東京友禅を扱う呉服問屋であったが、衰退の一途をたどる市場環境のなかで、1999年、新たな事業として業界初、着物のリサイクルショップ「たんす屋」1号店を開店した。予想を上回る反響があり、以降、売上を伸ばし続け、現在では全国に110店舗を展開している。

 たんす屋の成功要因は、新品を売るのが当たり前とされていた着物産業で、新たに古着の流通市場を構築したところにある。もちろん、ある日突然、古着の着物を扱おうと決めたわけではない。そこに至るまでには試行錯誤、そして進むか退くか、局面ごとの厳しい決断があった。

守りに入ったらそこで終わり

 1998.年から2000年にかけて、着物産業に大きな変化が訪れた。バブル経済の崩壊から立ち直るきっかけを見つけられない業界は、ついに、京都、名古屋、東京と大手呉服問屋が次々と倒産する事態が起こったのだ。

 当時、東京山喜の3代目として、代表取締役社長を務めていた中村健一氏は、このまま呉服問屋を継続していたのでは、安定した収益を見込めない。やがて自分たちもつぶれる日がくるに違いないと感じていた。

 もはや、新しいことに挑戦するリスクよりも、今の場所に留まるリスクのほうが大きいことは明らかだ。しかし、中村氏も従業員もみな、何十年も着物一筋で生きてきた人たちだ。今までと全く違うことを始めようとしても、それは不可能に近い。新しいことを始めるにも、今までの事業に関連する「陸続き」のものではなくてはならない。何に活路を求めていったらいいのか。中村氏は日夜、模索し考えた。

打席に立たなければボールはあたらない

 見た目には、需要はなくなったようにみえても、もともと存在していたエネルギーは形を変えてどこかに潜在しているはずだ。中村氏はその眠っているものを掘り起こして、顧客が欲しいと思うものを顕在化させることが自身の仕事だと自覚するようになる。そして、生じたアイデアはできるだけ実現し挑戦した。

「思いついたものを実行するかどうかで勝負が決まります。思いついても打席に立たない、バットを振らない。これでは、ボールは当たりません」

 新たな市場を求め、中国の工場では、シルクのアパレル業もこなした。絹のセーターやシルクパジャマ、OEMとして、レナウンやイブサンローランなどから着物以外の注文を受けて納めた。ときには、セブン-イレブンに絹のトランクスを納めたこともある。また、ジュエリーを企画し、製造したこともあった。着物と隣接した分野に出口はないのか。必死の思いで探した。

 出だしは順調でも、時間が経つにつれ問題が生じてくる。アパレル向けの事業では、為替のリスクなど、利益を圧迫する要因が発生した。ジュエリーは、一度、二度は、目先が変わったものとして、お客様は珍しがって買ってくれる。ただ、中村氏らが企画したものが、本職でジュエリーを営んでいる人たちよりもいいものを安く提供できるかというと無理があった。

 中村氏は頻繁に打席に立ち、一生懸命にバットを振った。もちろん、簡単にヒットは出ない。それでも、ひたすらバットを振り続けた。

 様々な試みの結果、中村氏はある結論にたどり着く。

「新しい商品を扱うよりも、我々は得意分野である着物に特化すべきだ」

 そこで、中村氏はもう一度着物を取り巻く市場(顧客)に目を向けてみた。なぜ、女性は着物を着なくなったのだろう。このシンプル答えから、新たな事業のアイデアが見いだせるかもしれない。中村氏はアンケートをとった。

「着物は好きですか」「直近の一年間で着物を着ていますか」

 結果は、アンケートに答えた女性の9割は「着物が好き、できれば着たい」と答えていた。にもかかわらず、同じく9割がここ一年間で「着物を買ってもいないし、着てもいない」という。なぜ、買わないのか。第一の理由は価格だ。「着物ってお高いんでしょ?」 このような答えが中村氏に伝わる。

 顧客が考える価値と実際の価格が大幅に離れている。この事実を中村氏は「チャンス」だと捉えた。着物が売れないという事実はあるが、その裏には、着物が好きで、着物を着たいと思っている人がたくさん存在する。ただ、価格が高い、着るのが大変、手入れも面倒というイメージがあるから、買いたいものリストから外されているにすぎない。ならば、価格などの課題をクリアすれば売上が伸びるのではないか。

 着物市場は縮小しているが、着物が好きだという人がいる限り、そこに需要は存在している。問題はそれが潜在していることだ。そこで、需要を掘り起こすような着物を提供できれば、間違いなく自分たちの生きる道はできるはずだ。そして、新たな模索が始まった。

 まず中村氏は中国にある生産工場を強化し、大量に安価な着物を生産する体制を構築した。そこでは、たしかに安くて、品質のいいものが作れるようになった。しかし、中国の工場から日本の販売拠点に行き渡らせるうえで、間を介する業者に利益が吸いとられてしまう。結局、消費者に着物が渡る頃には、さほど価格は安くならないという事態となった。これでは、わざわざ中国に行って、生産する意味はない。

モノからコトへ、ビジネスを大きな視点で捉える

値付けが終わった商品の保管場所にて

値付けが終わった商品の保管場所にて

 ある日、中村氏は古本チェーン店のブックオフの前を通り過ぎた。店内に目をやると、顧客でにぎわっている。「これだ!」 ブックオフの着物版ならば、「着物は高い」という価格の壁をクリアすることができる。さっそく家に帰って実行のプランを練った。このとき、着物業界では古着の事業を本格的に展開した人は誰もいなかった。

「もちろん、抵抗勢力はありました。働く人は、きのうと同じ仕事を今日もしたいという願望があるものです。新品の着物を何十年も扱ってきた営業担当者に、明日から古着の買い取りに行けと言っても、なかなか納得してもらえません」

 また、社内だけでなく、社外からも批判が相次いだ。これまで卸していた小売店は一様に反対の意を示した。それでも、中村氏は臆することなく、着物リサイクルショップ「たんす屋」の開店に向けて進んでいった。

 そして、1999年、一号店がオープンした。初日から大盛況だった。店は約15坪と狭い。にもかかわらず、オープン後の一か月間、予想を上回る600万円の売上を誇った。ここでも、中村氏は攻めの手を緩めない。その後、3か月の間に3店舗まで店舗を増やす。さらには、フランチャイズ化を進め、開店後10年経った今でも、売上は毎年右肩上がりで伸びている。

「時代はある意味、残酷なものです。時流からずれた者は容赦なく淘汰されます」

 中村氏はたんす屋の成功に慢心せず、次の10年に向けて、新たな戦略を立てている。

「たんす屋がうまくいっているからといって、我々は物販事業者という思い込みのまま安穏とビジネスを続けていたら、その時点で負けです。我々は先を見越し、今後はサービス業に転換します」

 たんす屋は店舗数、売上ともに、右肩上がりで伸びている。でも、これだけではいずれ限界が来る。さらに、成長するには、今から、着物をトータルに扱うサービス業者としての事業を立ち上げておく必要がある。

「たんす屋」を運営する東京山喜 代表取締役社長 中村健一氏

「たんす屋」を運営する東京山喜 代表取締役社長 中村健一氏

 その一つが、「着物の預かり業」だ。月々100円で着物を預かるというサービスを6月から開始する。わずか100円という安価な預かり賃で儲かるのか、と疑問に思えるが、日本全国に眠っている着物は約4億点。そのうちの1%のものがたんす屋の預かりサービスを利用すれば、月々何億というお金が収益としてあがるというのが中村氏の目論見だ。

「このアイデアがお客様に受け入れられるかは、実際にやってみないとわかりません。ユニクロの柳井社長でさえ、『一勝九敗』と言っています。我々は、もっと打率が低くていいんです」

 中村氏は、アイデア100個の内、2〜3個がモノになればそれでも商売は成り立つと考える。アイデアは次々と生まれてくるのだが、大切なのは、たとえ一度失敗しても、懲りずに続けられるかどうか。ここに大きな差が出るのである。

一、衰退産業だからとあきらめずに、地下に眠る真の需要を見つめ直す
一、新たな事業は陸続きの得意分野で勝負する
一、失敗に懲りずにトライする愚直さが成功を導く
会社概要
会社名東京山喜株式会社
代表者代表取締役社長 中村健一
所在地東京都墨田区石原4丁目37番4号
電話番号03-3623-5291
事業内容 繊維製品販売、その他服装飾品の販売、古物の売買
 

 小売・流通業の新常識 TOPへ