知れば納得!すぐに使える! 小売・流通業の新常識

連載記事

お手本にしたい繁盛店

でんかのヤマグチ

2010年5月13日更新

第6回 損して得取れ −でんかのヤマグチがはじいたソロバン−

 経営の世界では、「新しい」がいいことだとされ、もてはやされる傾向にある。だが、本当にそうなのか。新しいビジネスチャンスが見つかると、そこには大勢が押し寄せ、利益を得ようとする。そして、いつしか、かつてのビジネスやそこでの手法は捨て去られていく。だが、古くなって見向きもされなくなった手法の中に、今の時代だからこそ価値あるものが眠っている。いま、私たちは、日本本来の「良さ」をもう一度見つめ直すときが来ている。それは、新たな活路を見出す有効な手段になる。

 東京都町田市に、「でんかのヤマグチ」という家電製品の店がある。町田といえば、ヤマダ電機、ヨドバシカメラなどの家電量販店がのきを連ね、個人経営の電気店にとっては、厳しい立地条件である。しかも、でんかのヤマグチは駅からバスで15分もの距離。さらに、店舗の床面積は大手量販店よりも狭く、品ぞろえはパナソニック製の冷蔵庫やテレビといったモノが中心。価格は商品によるが、量販店よりもおおむね2〜4割程度高く設定している。何ひとつ、繁盛しそうな条件は見当たらない。だが、この店、従業員は約40名も抱え、月に約1億円を売上げる繁盛店なのだ。スペックや外観ではとても繁盛しているように見えないこの店が、なぜここまで売上を上げられるのか。

「お客様から冷蔵庫の調子が悪い、蛍光灯をつけかえてくれというお声がかかったら、飛んでいくのは当たり前。そのほか、当店には、『裏サービス』といって、本業とは別の究極のサービスを提供しています」
看板

店の前面に掲げた大きな看板

 商品に付加価値をつけた販売は他店にもある。ただし、でんかのヤマグチのサービスは「お客様が想像つかないようなサービス」を提供しているところが特徴だ。顧客には高齢者が多く、たとえば、
「家具を動かしたい」
「庭の木の枝が伸びたから切ってほしい」
「足をけがしてしまったので、買い物に行けないから、牛乳と卵を買ってきてほしい」
 こんな依頼が毎日入ってくる。たとえ、家電製品に関係なくとも、よほどのことではない限り、ヤマグチは引き受けてしまう。顧客の中に、DVDの予約ができないで困っている人に対して、担当者は週に一度、その人のお宅にうかがい、一週間分の韓流ドラマを全て予約することを毎週続けている。これら裏サービスは、直接、商品を購入するわけではないので全て無料である。ときには、一泊家を空けるけれど、物騒だから家に泊まって留守番してほしいといった依頼も来るという。

効率は悪いほうがいい

「短時間にたくさんの顧客に対応したほうが儲かると考えられていますが、私はむしろ効率は悪いほうがいいと思っています」(店主 山口 勉氏)

 でんかのヤマグチの顧客の多くは年配者である。一軒の訪問で、顧客相手に20〜30分、話し込む担当者もいるという。逆に、作業中や会話の最中に時計に目をやるようなことを徹底して嫌う。山口氏はこのような非効率なことを従業員にどんどんすすめるのである。

 とはいえ、いくらお客様だとはいえ家電とまったく関係のない卵の買い物まで頼まれると、「それは私の仕事ではない、自分で買えばいいのに」と主張したくなるものだ。しかし、でんかのヤマグチはそうは考えない。

「面倒臭いなんてとんでもない。卵を買ってくるように頼まれたら、私たちはチャンスをいただいたと思い、飛んでいきます。誰かに何かを与えていると、いつか、当人でなくとも、必ず誰かが返してくれるものです。もちろん、見返りを期待していては、究極のサービスにはならないので、真心込めてサービスすることを第一に置いています」

 顧客は人生経験が長い人が多い。ちょっとした表情の変化や少しの仕草にも、従業員の忙しさや煩わしいと思う感情を汲み取ってしまい、次から、頼む回数が減ってしまうことがあるという。逆に、気持ちのよい作業を提供していると、その分、次に家電製品を買うときは、ヤマグチが提示した通りの好条件で買ってもらえるという。

 それを裏付けるかのように、裏サービスの利用件数と、家電の販売高は比例関係にある。つまり、裏サービスの利用がある顧客でないと、本業の家電製品は買わない。裏サービスはお金をとれないから、この作業だけをみると赤字である。目先だけを考えれば損でも、家電が売れて店全体で黒字になればいい。山口氏はこのように考える。つまり目先で「損」して後から来る「得」をとっているのである。

 でんかのヤマグチの売上は、この裏サービスによる店舗外の販売が占める割合が大きい。量販店のように顧客が店舗に来るのではなく、従業員自らが顧客のもとにいって売上をあげる仕組みを構築している。だから、一店舗しかないのに、毎月1億円稼ぐのである。

「私たちの商売のやり方は、実は昔ながらの方法なんです。昔の商売は、お客様に店に来ていただくより、お宅にうかがうことが中心でした。昭和の中ごろまでは、町には電気屋さん、酒屋さん、お米屋さんなどがいて、お客様と密に接していました。いまのヤマグチのやり方は、その頃のサービスに磨きをかけただけです」(山口氏)

 量販店に行けば、なんでも手に入る便利な時代になったが、その一方で、昔ながらの「困った」をお互いに助け合う暖かな心が失われていった。ヤマグチは昔ながらの「裏サービス」という手法を維持することで、今の時代に欠けているものを提供している。量販店では得られないこの価値を求め、顧客は量販店よりも高いお金を払ってまでも、ヤマグチで買い物をするのである。一見、ヤマグチの商売は効率が悪く「損な」やり方のように見えるが、実はそのあとで多くの得をとっているのである。

昔ながらの手法の身につけ方

 山口氏が創業したのは1965年。東京オリンピックの翌年だった。それまで、勤めていた大手電機メーカーを退職し、独立して電気店を開業しようとしていた。しかし、当時はお金も土地もない。あるのは、ライトバン一台だけだった。必要な道具を車に乗せ、一軒ずつ家を訪ねて、家電の修理をしてまわったのが始まりだった。

 その後、店舗を持ち、少しずつ従業員が増えていった。事業が軌道に乗ったと思った矢先に、バブルが崩壊。さらに、今から14年前の1996年、地域に家電量販店が次々と開店した。親子3人で営業している店ならば、修理中心の店に切り替えれば何とかなる。しかし、当時、ヤマグチには従業員が40名もいた。月々の給料の支払いだけでも相当な金額になる。安売りで戦っても、量販店にかなうはずがない。売上が落ち続ければ、いずれは倒産になるだろう。

観賞用いす

テレビの前には観賞用の椅子。映画館で利用している座り心地のよいものを取り寄せた

 そこで、山口氏が打った手は、なんと粗利益を毎年1パーセントずつ上げていく方法だった。しかし、単に価格を高くしただけではお客様は離れていく。そこで、生き残りをかけて、価格に見合うよう、サービスに磨きをかけることに注力したのだ。

 究極のサービスが顧客に受け入れられ、何とか店は営業を続けられるめどが立った。そこで、山口氏が打った次の一手は、ナショナル(現パナソニック)の専門店になることだ。それまでは、パナソニック以外にも、日立やシャープ、三洋電機など、多数のメーカーを扱っていた。

 多数のメーカーを扱う理由は、仕入れ値だった。パナソニック以外のメーカーの中には、安く仕入れられるところがあり、安い商品を求める顧客には、安く仕入れて、安く売れる他メーカーを勧めたほうが都合がよかったのである。

山口氏

でんかのヤマグチ(株式会社ヤマグチ)
代表取締役 山口 勉氏

 しかし、山口氏は仕入れ値の高いパナソニックの製品に絞ることを決断した。競合環境を考えれば、安く売る戦略に妥当性がないことが一点。もう一点は、パナソニックの売上上位店に対する手厚いインセンティブである。つまり、たくさん売る店は、高いマージン、販売員の派遣、豊富な情報などの恩恵にあずかれるのだ。このような理由から、パナソニック製品に絞って、全国で1位をとることを目指した。

 ヤマグチでは他のメーカーの扱いをやめることで、売上の全てがパナソニック製品になり、念願の全国1位を獲得した。現在、店には、週に何日かパナソニックの販売会社の人が応援に来る。情報が入るというメリットもあるが、ヤマグチはこの販売応援により、人件費の節約というメリットも受けている。

 ここでも、目先の利益だけを考えていたら、利益幅の大きい他社製品の扱いをやめることはできなかっただろう。パナソニックで1位をとるには数年かかった。それでも、1位をとった方が有利だということをヤマグチ氏は見越して、目先の損をとったのである。まさにここでも「損して得取れ」である。

 近年、効率を重視するあまり、目先の利益を追うことを優先するようになった。しかし、でんかのヤマグチを観察すると、このような時代だからこそ、損して得取れが有効だということがわかる。

一、付加価値サービスで差別化を図るには中途半端ではダメ。
一、損して得取れ。目先の得ばかりとっていては継続的な利益は得られない。
一、忘れ去られたやり方にも顧客が求める価値が潜んでいる。
会社概要
会社名株式会社ヤマグチ(でんかのヤマグチ)
代表者代表取締役 山口 勉
所在地東京都町田市木曽東4-19-18
電話番号042-793-2278
事業内容 ・家庭用電化製品
・OA、HA機器
・空調設備機器
・住宅設備機器
・オール電化(エコキュート)
・住まいのリフォーム
上記製品機器の販売、設計、施工
 

 小売・流通業の新常識 TOPへ