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お手本にしたい繁盛店

「枕工房」ロフテー

2010年5月6日更新

第5回 顧客の声を集めても顧客志向の売り場は実現しない −「枕工房」ロフテーの売り方−

 顧客ニーズを把握する。基本でありながら、これほど実行が難しいものはない。商品を売るうえで、お客様中心の発想が大切なのは誰でもがわかっていることだ。だが、実際は売りたい気持ちが先行し、気づかぬうちに、目の前の顧客に「これ、いいですよ」を連発してしまうことが売り場の現実である。

「当社の商品がお客様に受け入れられたのは、私たちが売るためのセールストークを否定したからです。ここに成功の要因があります」

 寝具の開発・販売会社「ロフテー」の杉田篤司氏(MD事業部長)はこのように語る。百貨店や寝具の専門店では、販売員が顧客に対して商品の機能やデザインの説明に終始することが当たり前だが、杉田氏はこのような売る側の理屈を前提とした、ある意味強引なセールスの手法に対して、違和感を抱き、何かが違うのではないかと感じていた。

 杉田氏が所属するロフテー株式会社はシーツやふとん、枕などの寝具を扱う会社だ。現在、主力商品は「快眠枕」で、自社で商品を企画・開発し、販売している。いまでこそ、快眠、安眠をうたった枕は世に多数出ているが、かつての枕は寝具の付属品的な役割でしかなかった。ロフテーは新たな試みを重ね、わき役だった枕を快眠の主要商品に引き上げることに貢献した会社で、その陰には、営業のプロである杉田氏の大きな働きがあった。

ロフテー 杉田氏・矢部氏

ロフテー株式会社
左:MD事業部長 杉田篤司氏
右:睡眠改善インストラクター 矢部亜由美氏

 商品を売るには、お客様中心の発想が大切だとはいえ、難しいのは顧客のニーズをつかむことにある。枕を売る店に来店する客が必ずしも枕を求めているわけではない。では、顧客は何を求めているのか。

 ロフテーが今の販売スタイルを確立していった過程には、お客様のニーズを把握するための試行錯誤があった。では、どうやってお客様のニーズを把握できたのか。そして、なぜ売るためのセールストークを捨てる勇気を持てたのか。ロフテーの枕事業を観察すると、答えが明らかになる。

バブル崩壊後、立ち上げた快眠事業

 1980年代、バブル経済のころ、ロフテーの主力製品は贈答用のシーツだった。浮かれた時代のなか、これといった特別のことをしなくても十分売上はあがった。当時、多くの人が睡眠時間を削って仕事や遊びに没頭するなか、「睡眠」について深く考える人は極めてまれだった。

 ロフテーではお客様の対話を通して、世間には眠りに関する悩みを抱えている人が少なくないことに気づいていた。実際に、経営陣の中にも、不眠症で悩む人がいた。

ロフテー 商品のたな

縦方向にサイズ違い、横方向に素材の違いで並べている

いつか「心地よい眠り」がビジネスになるはずだ。そういう意識はあったものの、そこではまだ具体的な商品開発や事業展開に動くことはなかった。ロフテーはまず睡眠学会に参加し、睡眠についての研究を始めたのである。

 やがて、バブル経済が崩壊し、経済環境は急激に冷えこんだ。他方、これまでクローズアップされることのなかった睡眠が少しずつ注目を集めるようになった。ロフテーの予想は的中した。しかし、まだ、具体的な商品を発売するでもなく、快眠が事業として成り立つめどは立っていなかった。そんなとき、ロフテーにあるビジネスが持ち上がった。

 新宿にある大手デパートに枕専門店を出店するという話だ。そこで、当時としては、珍しい、コンサルティングを受けながら自分に合った枕を選べる方式の店にしようというアイデアが出てくる。これが、今後のロフテーの主力となる、枕に特化した「枕工房」の1号店である。1996年のことだった。

 枕を選ぶといえば、そばからや綿などの素材を顧客の好みで選ぶだけだった当時、自分の体に合った枕の高さを選ぶ方法は確立されていなかった。ロフテーでは、測定器を用いて顧客の首のカーブの深さを測定し、洋服を選ぶように、一人ひとりの体型に合った枕の高さを提案できるようにした。また、店では、お客様に実際に枕を試してもらい調整を図りながら、納得のいく商品を提供する方式を採った。

ロフテー 測定

首のカーブの深さを測定する装置。首の後ろに器具をあてると値が表示される

 店のコンセプトが決まり、立ち上げの準備は着々と進められていく。しかし、全てが順調ということではなかった。中には、この新しい試みに対して、批判的な意見を言う人もいた。まず価格だ。通常の枕なら、ホームセンターやスーパーで、3千円程度で買える。ところが、ロフテーが提供する枕は8千円もする高価なものだった。

「バブル経済が崩壊し、経済が冷え込んでいるときに、こんな高いものが売れるはずがない」

 このような声が飛んでいた。そのほか、同じデザインの枕をサイズ違いで並べるのはスペースのムダで、どれか一つだけ並べればいいのではないかといった意見もあった。

 反対意見は残ったまま、店のオープンの日が来た。開店してみると、意外にもロフテーが提供する「快眠枕」へは予想以上の反響があった。開店2ヵ月、賑わいを嗅ぎつけたTV局の取材が入り、ますます待ちの行列は長くなり、二時間待ちは当たり前という状況が続いた。店の立ち上げに尽力した杉田氏は、企画担当であるにもかかわらず、店に立って販売を担うことになるほどだ。テレビで紹介されてからというもの、休日もなく、朝の8時から夜の10時まで働き詰めの日が続いたという。

ロフテー 試着

お客様には実際にお試ししてもらって、最も適したものを提供する

 すっかり、ブームになった「快眠枕」だが、1、2年もすると、ブームは落ち着いてくる。同時に、「安眠枕」と銘打たれた粗悪品が安価で出回り、ロフテーの拓いたマーケットを侵していった。しかし、快眠枕の販売を通して得た経験は、ロフテーを安易な価格競争から遠ざける。

「粗悪品に対抗して、安価なものを売りだすよりも、コンサルティングの質をあげてお客様により多くの満足をしていただくことが大切だ」(杉田氏)

 ロフテーはこのように考え、ピローフィッター(R)という、枕の販売、接客業務などの知識と高いコンサルティング技術を取得している「枕のプロ」の社内認定制度を設け、教習制度を整備して、接客の質をあげていく仕組みを構築した。そうして一度は量に揺らぎかけたマーケットも、この戦略によって質への回帰を果たす。ロフテーは大きくシェアを伸ばしていくのと同時に、顧客の声をダイレクトに聞きながら、販売につながる「ニーズ」に変換する仕組みを手に入れたのである。

顧客ニーズという真実に気づく瞬間

 お客様は店に来て「枕をください」と言うが、本当に欲しいものは枕ではない。杉田氏は店でのコンサルティングを通して、このように感じるようになる。

「お客様が求めているものは、快適な睡眠なんです」(杉田氏)

 サイズがぴったりの枕を買うことでぐっすり眠りたい。
 肩の負担を軽減させて肩コリをやわらげたい。
 新しい素材の枕で夜中に目覚めないようになったらうれしい。
 顧客には、生活の中で何か困ったことが発生し、解消したいという想いがあって来店する。つまり、枕売り場に来る顧客の求めるものは枕そのものではなく、たとえば、快適な睡眠だったりするのだ。だから、枕を売ることを先行させていたのでは、お客様に真の満足は提供できない。

「お客様に枕を試していただくと、『これならぐっすり眠れるね』とか、『肩こりが治りそうだね』といった声を頂戴します。この自然に出てくるお客様の言葉で、お客様が欲しいものは単なる枕ではないということに気づきました」

 顧客の様子を観察する目が杉田氏に気づきを与えた。マーケティングの有名な言葉に「1/4インチのドリルを購入した人々が必要としているのは、直径1/4インチの穴である。化粧品を買った人が本当に求めているのは、希望――自分を磨く努力をすれば人生の根深い悩みが解決するかもしれない」というものがある。

 顧客ニーズの陰には、何らかの「解決すべき問題」が潜んでいるものだ。そこに気づいて、セールスすれば、無理に押し売りするよりも、ずっと顧客の満足度は高くなる。

 ロフテーは購入を迷っているお客様に、無理に買わせるようなセールストークはしない。「今日はお買い求めならないでください。今夜、寝てみて、枕のどこに不満があるのか、納得してからお買い求めください」と伝える。

 ともすると、そのまま顧客は家に帰ったきり、戻ってこないのではないか。このような心配があって、なかなかこのような言葉は言えない。しかし、杉田氏は一度帰った顧客が再び店に来て購入していくことを何度も経験したのである。そしてその経験は「売らない」という真の顧客志向を実現する勇気につながっている。

一、売る側の「いい」が顧客にとっての「いい」とは一致しないことを認識する
一、顧客の注文に惑わされずに、顧客の真の問題を抽出する
一、セールストークは顧客の必要としているものを導き出す手段と考える
会社概要
会社名ロフテー株式会社
代表者代表取締役社長 安川 太郎
所在地東京都中央区日本橋富沢町11-12 サンライズビル8F
電話番号03-3663-7111
事業内容 寝装・二次製品
 

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