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連載記事

お手本にしたい繁盛店

ワイズロード

2010年4月30日更新

第4回 天才経営者のセンスをどう受け継ぐか −スポーツ自転車専門店ワイズロードの試み−

 ものが売れないこの時代、中小規模のお店でも、優れたコンセプトや時代にマッチした戦略によって、繁盛している店は確かに存在する。しかしその多くは、社長のわきあがるアイデアや時代を読む力に依存しており、その繁盛を何世代も継続する「仕組み」にしている企業は少ない。成功の理由を「社長のセンス」と片づけてしまうためだ。

店内

ワイズロード二子玉川店。玉川高島屋内に出店。近くには、多摩川サイクリングロードがある。

 スポーツ自転車専門店「Y's Road(ワイズロード)」を展開するワイ・インターナショナルの創業は明治31年。埼玉県志木市の一店舗からスタートした「地域の自転車屋さん」は、今では全国に25店舗(2010年4月現在)を展開する企業に成長した。後に詳しく述べるが、ワイズロードも、代表取締役の吉田靖夫氏のサービスへの徹底的なこだわりと、マーケティングにおける天才的なひらめきによって成長した企業だと言われている。ただし、この会社は自らの成長を「社長のセンス」のひとことで片づけず、持続可能な仕組みにつなげつつある。

 天才は頻繁に現れるものではない。しかし、社員一人ひとりが天才になることは不可能でも、やり方次第では組織全体で天才のセンスを受け継ぎ、優れた集団になれることをワイズロードの取り組みは示している。

周囲から反対されたスポーツ自転車店への特化

 そもそも、ワイズロードの成功要因はどこにあるのか。今や、スーパーや量販店でも自転車を置く時代であり、スポーツ自転車の店が繁盛するには仕掛けが必要だ。ワイズロードは単に商品を売るだけでなく、購入の前、後と、さまざまな場面で顧客が驚くような独自のサービスを提供することで、売上を向上させている。

 そもそも、ワイズロードの成功要因はどこにあるのか。今や、スーパーや量販店でも自転車を置く時代であり、スポーツ自転車の店が繁盛するには仕掛けが必要だ。ワイズロードは単に商品を売るだけでなく、購入の前、後と、さまざまな場面で顧客が驚くような独自のサービスを提供することで、売上を向上させている。

 社長の吉田氏はスポーツ自転車の存在すら世に知られていない昭和の中ごろに、「町の自転車屋さん」からスポーツ自転車に専門・特化することを決断した人物である。もちろん、当時は周囲から疑問の声も上がっていたが、ひるむことなく、さまざまな仕掛けを展開していく。スポーツ自転車の大会やトライアスロン練習会の開催、公式クラブチーム発足、プロライダーへのメカニックサポートなど、業界で初めての試みを果敢に続け、業界内でも独自の立ち位置と顧客層を確保している。

 このようにワイズロードの成功の影には、吉田氏の慧眼があったことは間違いない。現在でも、吉田氏は年齢60代とは思えないほど、精力的に新たな取り組みを打ち出している。しかし、人間である以上、体力は永遠のものではなく、やがて、衰えるときが来るのは避けられないことである。

天才にはなれなくても思想を受け継ぐことはできる

 そのなか、後継者と目されているのは、取締役副社長を務める伊藤孝彦氏である。これまで、側近として、吉田氏の経営を肌で感じてきた。間近で吉田氏の決断に触れているうちに、あることに気づく。それは、常に判断にブレがないことだ。どんなときも一点を見据え、結論を下している。

「なぜ、社長はブレないのか」

 吉田氏を観察すると、商売の目的が自店のファンを増やすことでも、市場を大きくすることでもない。もちろん、企業である以上利益を出さなければ存続できないが、吉田氏の場合、利益は目的ではなく、存続するための条件の一つにすぎない。では、吉田氏の根底にあるものは何か。伊藤氏はそれが「自転車の世界を通して、まわりの人たちに楽しみを伝えたいこと」だと気づく。企業の存在意義が明確になっていると、その先にある「すべきこと」が見えてくる。それを一つずつ実行していくことで結果を出す。これが吉田氏のやり方なのである。

 伊藤氏は吉田氏の経営を一つずつ学んでいき、自身のノートにまとめていった。すると、ある日、伊藤氏はノートを眺めながら、これを冊子化して全従業員に配布すれば、全社員の意思統一が図れるのではないかと思うようになる。

「好業績により、会社規模が急に大きくなってきました。いろんな考えを持った人が増えることは会社にとって良いことです。でも、会社には、ブレてはいけない部分があります。その部分を、しっかりととらえて進めていくためにも基準を目に見える形にすることが必要でした」(伊藤氏)

 そして、昨年、11月、ワイズロードの経営を一冊にまとめた「ワイズウェイ」が完成し、社員に配られた。

 その中には、商人道から店づくりまで、ワイズロードが蓄積したものが凝縮されている。具体的には、「自転車という文化を売る」「ビックリするような店づくり」「ワイズロードにしかできない現象を起こす」といったことがずっと続いており、店を観察すると、「ワイズウェイ」と一致していることがわかる。

100万円自転車

価格は115万円。英国製の最高峰といわれるフレームを二子玉川特別仕様車として完成させた。芸術品。

 何か新しい取り組みを開始しようとしたとき、「ワイズウェイ」に照らせば、それはワイズロードとしてすべきことかどうかがわかる。さらに、従業員の接客態度も変わってくる。たとえば、ワイズロードの店員は、自転車の楽しみ方について、顧客を型にはめようとしない。いろんな楽しみ方を認めて、他の顧客に伝えて行くことを貫いている。そうすることで結果としてスポーツ自転車の楽しみ方が広がっていくのである。

 店舗によっては、一台100万円を超える自転車が置くところもある。顧客の中には、せっかく高価な自転車を買っても、部屋に飾っておくだけで、乗ろうとしない人もいるという。その顧客に対して、自転車好きの店員が「自転車は乗らなければ意味がない」とは決して言わない。自転車に乗らないという楽しみ方があってもいいのだ。むしろ店員一人ひとりは顧客から、新しい自転車の楽しみ方を学ぶ姿勢でいる。

副社長

取締役副社長 伊藤孝彦氏

 社長の吉田氏は天才だといわれているが、天才とはそんなに頻繁に出現するものではない。しかし、たとえ、従業員全員は凡夫だったとしても、一人ひとりが学び、経営意識を高めていくことで、企業全体は天才的な組織になれることを示している。

 ワイズウェイには次のような一文がある。

「好調のときには悲観しろ、不況のときは楽観しろ」

 今、ワイズロードは好調だ。このようなときだからこそ、ワイズウェイが浸透することの意味がより濃くなってくる。

一、成功をセンスや偶然に片付けず、徹底的に分析する
一、社長の考えをまとめ、全員が見て理解できるようにする
一、利益を手段と考え、組織の存在意義を明確にする
会社概要
会社名株式会社 ワイ・インターナショナル
代表者吉田 靖夫
所在地埼玉県志木市本町4-4-26
電話番号048-471-1513(代表)
事業内容 スポーツサイクル・自転車部品・用品の国内販売、オリジナル商品の企画・製造・販売、オーダー車の製作、スポーツサイクルのメインテナンス・チューンナップ、スポーツサイクルに関するスクール・セミナーの開催、中古スポーツサイクルの買い取り・販売
 

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