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連載記事

お手本にしたい繁盛店

「杉山フルーツ」店内

2010年4月22日更新

第3回 普通の店を特別な店にした店主の選択 −杉山フルーツ−

「売れない理由は店の中にあります。すべては自己責任です」

 静岡県富士市にある「杉山フルーツ」の店主、杉山清さんはモノが売れないのは、不況のせいでも、政治のせいでも、ましてや商店街に活気がないせいでもない。店にお客様が欲しいものがないから売れないのだという。

 不況でも、立地条件が悪くても、繁盛する店はある。杉山さんが経営する「杉山フルーツ」がそうだ。場所は人通りの少ない商店街の一角。それでも、一個一万円程度の贈答品用高級メロンが年間約9,000個も売れている。

 今でこそ、杉山さんは繁盛店の店主だが、その商売は必ずしも順風満帆ではなかった。杉山さんが入店した1982年、杉山フルーツは地元の「くだもの屋さん」として、一般家庭で食する果物を中心に売っていた。商店街にはスーパーマーケットがあり、近辺はいつでも買い物客でにぎわっていた。商店街の店には、スーパーのついでに客が立ち寄り、誰が店番していても商品は売れた。特別な努力がなくても、商売が成り立っていたのである。  ところが、時代の移り変わりとともに、買い物客は郊外にオープンした大型店に流れ始め、次第に商店街は空洞化していった。そして、1994年、ついにスーパーが撤退し、商店街の店は一つずつ姿を消していった。

売れる道はどこかに必ずあるはずだ

店の外観

人通りの少ない商店街の中にある

 この状況下、杉山さんは意外にも冷静だった。そもそも、努力もしないで商品が売れる幸福な状態なんて、長く続くはずがないと思っていたのだ。スーパーマーケット撤退の知らせを受けると、来るべき時が来たと覚悟を新たにしたという。

 この時、杉山フルーツが生き残るための選択肢は「郊外に出て行くか」「商店街に残って商売を続けるか」のどちらかに一つ。

 郊外に出て行くことはラクではないが、買い物客の流れはそちらに向いており、それなりに店を維持できそうにも見える。しかし、杉山さんが選択したのは、今まで通り、地元の商店街に残ることだった。

 店の場所が人通りの多い都心にあるのならこの選びは納得できる。しかし、杉山フルーツがあるのはシャッター通りと呼ばれる商店街である。今までと同じ場所に残ったまま、新たな戦略を打ち出せなかったら、店はつぶれるだけだ。価格競争では、大型店にとてもかなわない。それでも、杉山さんは勝算があると踏んだのは、東海道沿線が工業地帯である点に着目したからだ。

「東海道沿線には、たくさんの工場、会社があります。富士市内だけでも工業団地が点在し、製紙やケミカル、自動車関連の工場が多数存在しています。ということは、会社の数だけ社長がおり、高級な車に乗っている人がたくさんいるということです。そのような方々が、贈答品のフルーツを買いに杉山フルーツに来店すると思っていました」(杉山さん)

 大型店にはできない「高級贈答品」に特化すれば生き残れるはずだ。ただし、単に高級贈答品を店に並べても、顧客がわざわざ杉山フルーツにまで足を運ぼうという気にはならない。

 そこで、まず、杉山さんはラッピングに工夫を凝らすことから始めた。贈答品は商品の見栄えが、もらい手の印象を大きく左右する。セロファンや薄手の紙を駆使して、顧客が驚くばかりの美しいラッピングを施した。

「最初から、ラッピングが上手な人はいません。学校に通って勉強したり、資格をとったりと、場数を増やして腕をあげていきました」

 経験と学習。杉山さんのラッピングは少しずつ顧客の心を捉えはじめ、杉山フルーツは確実にそのファンを増やしていった。
それと同時に、ファンを維持し、さらに増やすためにはラッピングだけでなく、商品の徹底した品質管理やキメの細かいサービス、心のこもった接客など、あらゆる手を尽くさなければならないということが見えてきた。これらの課題が明確になったことで、杉山さんのなかで、少しずつだが商売が成り立つイメージが作られていったのである。

チャンスを活かすだけでなく継続させるには

 地道に努力を続けた杉山さんに、さらなるチャンスが巡ってきた。杉山フルーツで製造販売している商品の一つ、「生ゼリー」のヒットである。完熟の生フルーツが透明なゼリーの中に浮かぶ、この宝石のようなゼリーを求め、全国から顧客が来店する。これがメディアの目にとまり、雑誌やテレビなどで紹介されるようにもなった。

 杉山フルーツの生ゼリーは全て一品ずつ手作りである。なべとコンロで、心を込めて丁寧にこしらえる。これが常に安定した高品質なゼリーを提供できる要因になっている。しかも、全て手作りなので、ゼリー用の機械設備を導入するといった新たな設備投資はゼロ、借入も不要だった。

 売上を伸ばすには、未開拓の需要を創り出さなければならない。その役割を担ったのが、「生ゼリー」である。価格は300円程度から高いもので1000円〜1500円程度。これならば、5000円のメロンに手が届かない層でも買える。しかも、生のイチゴやメロンがふんだんに使用されているので、ぜいたく感は十分味わえる。これまで杉山フルーツに来店していた顧客は富裕層のみだったが、生ゼリーが評判になったおかげで、若い年齢層や一般の人たちまで来店するようになった。今では、「生ゼリー」には、コンビニエンスストアのライセンス契約の話や、日本で最高位と称されるデパートの地下から出店のオファーが来るほどの盛況ぶりである。

存在し続けることが一番難しい

「杉山フルーツ」店主・杉山 清さん

「杉山フルーツ」店主・杉山 清さん

 生ゼリーを開発したのが2005年、遠方から買い求める人の数は衰えない。ただし、商売で売上をあげることと同じくらい難しいのは、高まった売上を維持することにある。ここで着目したいのは、杉山さんは商品がヒットしたにもかかわらず、ライセンスや店舗展開のオファーをことごとく断っている点だ。

「店は借金すればいくらでも増やすことができます。しかし、高く昇りつめた商品は必ずといっていいほど飽きられます。私は杉山フルーツの生ゼリーをブームで終わらせたくない」

 生ゼリーにこれほど人気が集まるのであれば、全国に店舗展開すれば売上を飛躍的に増やすことができるはずだ。ただし、これまでのヒット商品の中で、永遠にブームであり続けるものはまれで、ほとんどが人々に飽きられ忘れられていく。ブームが去った後に残るのは、つくりすぎた在庫と閑散とした店舗、そして多額の借入だ。従業員への給料の支払いもままならず、結局は共に働いたスタッフを切らなければならないことになる。このリスクを負ってまで、店を増やすことが正しいことなのか。

「私は一人でもお客様が杉山フルーツに触れていただき、喜んでもらうことを第一に考えています」
お客様は何を求めているのか探ります

お客様は何を求めているのか探ります

 この基準に照らし合わせると、店をたくさん出すことは、商品やサービスに目が行き届かなくなり、その品質を下げる危険性も出てくる。これは杉山さんにとって正しい選択ではない。決しておごらず、いつでも自分の身の丈をはかり、店の経営規模が大きくなりすぎないように注意する。顧客の満足度を落とさずに、規模を拡大する手段が見えない限り、今後も杉山さんは拡大戦略に舵を切ることはないだろう。

 杉山さんが扱っている商品はフルーツ、ぜいたく品である。杉山フルーツの贈答品を買う顧客のほとんどは裕福な人たちだ。人は権力や財力を手に入れると、おごり、身の丈を忘れてしまうものである。フルーツ店店主とは、華やいだ生活を手に入れた人たちの栄枯盛衰を目の当たりにする位置にいる。成功によるおごりが、結果としてその人の不幸の始まりであることを、杉山さんは仕事を通してたくさん見てきた。

 経営するうえで、戦略を立てて、実行していくことは重要だが、その前提には決しておごることなく、常に顧客と向き合う姿勢がなくてはならない。この部分をなくしてしまっては、どんなに優れた経営判断であっても顧客から支持される店であり続けることは難しい。杉山フルーツは、いつまでも顧客から愛される店であり続けるためのヒントを示している。

一、地の利を見つめなおし、戦略に反映する
一、品質を下げない低価格商品の開発によって、顧客層を広げる
一、売れてもおごらない、身の丈に合った経営を実践する
会社概要
会社名杉山フルーツ
代表者杉山 清
所在地静岡県富士市吉原2−4−3
電話番号0545-52-1458
事業内容 ギフト用果物販売
 

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