知れば納得!すぐに使える! 小売・流通業の新常識

連載記事

お手本にしたい繁盛店

平翠軒

2010年4月13日更新

第2回 売ろうとしないことで「売り」に繋げる −倉敷 平翠軒−

 店を繁盛させるには、大手量販店にないコンセプトを提示することが大事だ。これは商売の鉄則ともいえることだが、実際に店を運営する段階になると、コンセプト通りに、店をつくったが顧客に全く受け入れてもらえない、あるいは、たくさんの人に売ることを意識するあまり、気がつくと当初のコンセプトと実際の店との間にブレが生じてしまうことが少なくない。

看板

平翠軒の看板。目立たないところにひっそりと出ている。

 平翠軒は倉敷にある食品の販売店だ。倉敷の観光の中心である「美観地区」の目抜き通りから一本北の道沿いにある。看板が一つ出ているだけで、知らずに歩いていると見過ごしてしまうほどの店だ。ところが、中に入ると、人の姿はほとんど絶えず、休日になるとあふれるほどの賑わいをみせている。

 人気の秘密は、1000点を超える豊富な商品のユニークさだ。100m2ほどのこぢんまりとした店内にはぎっしりと商品が並ぶ。幻のチーズといわれる「吉田牧場のラクレット」、卑弥呼の食卓にのぼったといわれている「日本最古の粒コショウ」、1年8カ月もの時間をかけて熟成させた「生ハム・ハモン・セラーノ」など、デパートや食材専門店でもなかなか手に入らない品をそろえている。この品を求めて、全国から食通が集まるのだ。中には、デパートのバイヤーなどの食のプロも訪れるという。

オリーブオイル

オリーブオイルコーナー。店内には商品がぎっしりと置かれている。

 世界中の食が集まる平翠軒だが、打ち立てるコンセプトは意外にもシンプル、「暮らしの中の不思議」である。食べ物の中には、「こんなものを誰がつくったのか」を考えるだけでも、不思議な気持ちにさせるものがたくさんあると店主の森田昭一郎氏は語る。たとえば、平翠軒で扱う食材に、「ふぐの卵巣の粕漬け」という逸品がある。ふぐの卵巣は猛毒で、そのまま食べたら間違いなく死ぬ。ところが、石川県のある製造元では、独自の製法で3年もの歳月をかけて毒を抜いて珍味に仕立て上げている。

「どのようにして毒を抜くのか」
「そもそも、なぜ、そこまでしてふぐの卵巣を食べようとするのか」

食材から不思議がわいてくる。これが平翠軒の打ち立てる「不思議」である。

 もちろん、このような商品は10人いたら、10人全員が買うものではない。

「平翠軒に置いてある商品を買う方は、せいぜい10人に1人か2人です。それでも、商売は成り立ちます」

 むしろ、世の中すべての人に売ろうとせず、希少性を大切にすることで、商品の不思議さに魅かれた顧客が集まってくる。割合は少なくても、平翠軒の顧客の多くはリピーターだ。しかも、そのリピーターが口コミによって、友人を店に引っ張ってくる。平翠軒の商売は、この「無理に売ろうと躍起にならず、現状を受け入れること」が実は売上を向上させる源になっている。

商品は売るより、集めることが大事

pop

商品には手づくりポップをつけて、商品の「物語」を味わってもらう。屈まなくても読めるように、ポップは貼りつけずに手で持てるようなプレートタイプにしている。

 平翠軒が大切にしていることの一つは「仕入れ」にある。コンセプトに合致した、ぶれない店づくりをするには、店に置く商品が可否を分ける。約20年前、開店した当初から商品には店主の一貫した心意気が込められている。

 開店当初の森田氏は、ひたすら全国を歩き回り商品を探していた。狙い目は土地ごとの市場で、京都、門司、金沢と各地を訪れるとまずは市場に足を運んだという。中でも、狙い目は半島だ。

「アクセスのいい場所は、情報が行き交い洗練されていく。その点、半島は突きあたりの地形になっているので、昔ながらの形がそのまま残っていることがよくあります」

紀伊半島など、訪れるまでに時間がかかるところにこそ、魅力のある食べ物があるという。開店当初は沖縄から北海道まで、ひたすら全国を歩き回って食材を集めたという。しかし、どんなに頑張っても、個人の力では、せいぜい150品目くらいしか集まらない。店を開いてから3年間、平翠軒は赤字が続いた。親族からは、店をたたんだほうがいいのではないかという声が出たほどだった。

照明

照明は食材がおいしく見える白熱灯に統一。人間の暗いところから明るい所へ向かう心理を利用して、店の奥は入り口よりも明るくしている。

 もう少し、商品点数を増やさなければならない。そこで、森田氏は友人や知人たちに片端から電話をかけた。食を専門に仕事をしている人を中心に、おいしいもののリストアップを依頼した。そして、めぼしいものがあると、紹介してもらい商品点数を増やしていく。京都の一見さんお断りという店でも、紹介を得ることでコンタクトが可能になる。商品点数が800種を超えた4年目に、単年で初の黒字を記した。今では、個人の輸入トレーダー、フードライター、カメラマンなど、幅広い情報網が構築されており、次々と新しい情報が入ってくる。時には、持ち込みもあり、食材の方から店に寄ってくることも増えるようになった。

「お客さんは止まっているものは目に入らない。動いているものしか目に留まらない」

新しい情報を入手し、新しい商品を店に置くことは、ラクなことではない。しかし、立ち止まったら、敏感な顧客はすぐさま停滞を感じ取ってしまう。どんなに、大変でも、常に呼吸を続ける店でなくてはならない。

独自ブランドの商品も展開

 今年の3月中旬、平翠軒では新しい商品がデビューした。「アジアンテイスト・スパイシー・ミートソース」といって、倉敷のイタリア料理店と共同で開発した商品だ。ある日、森田氏はそのイタリア料理店を訪ねた。オーナーが食材選びから味付けまで徹底したこだわりを持ち、一人で切り盛りしている店だ。

「変わったパスタはないか」

森田氏

平翠軒店主 森田昭一郎氏

森田氏のリクエストにこたえたのが、「アジアンテイスト・スパイシー・ミートソース」だった。メニューにはない、オーナーの賄料理だが、味は群を抜いて優れている。森田氏はオーナーに、平翠軒にこの商品を置かないかと持ちかけた。しかし、最初は返事もない。何度も通いつめて、3年目でやっと了解を得ることができた。イタリア料理店が作った素材をどのようにして売り出すか。ここが平翠軒の役割だ。パッケージやネーミング、商品のセールスポイントまで、商品として形作っていく。こうして、やっとできた商品が店に並ぶ。しかし、「アジアンテイスト・スパイシー・ミートソース」は発売の初日はあまり売れなかった。

「初速はむしろ悪いほうがいい」

 森田氏は落ち込むどころか、想定通りと自信を見せる。最初からどんどん売れるような商品は飽きられるのも早い。最初は抑え気味で、味の良さが少しずつ周囲に広がっていった商品のほうが長くよく売れることになるという。コンビニエンスストアなら、とっくに棚から下ろされている商品にこそ、たくさん売れるパワーがあるのだ。平翠軒は店のコンセプトに合った商品を、大切に育てていく店であり、ここにも、平翠軒の無理に売ろうとしない姿勢が表れている。

 この方針は「欠品」に対しても同様だ。 大手の小売店は、顧客の欲しいものを置こうと、できるだけ「欠品」を避けた商売を進める。平翠軒に置かれる商品はほとんどが手作り品で、一度にたくさんはつくれないものばかりだ。人気が出てきた商品は欠品が避けられない。大手小売店ならば、機会損失を避けて、欠品が出ないようにメーカーに生産体制の見直しを要請するだろう。しかし、平翠軒はむしろ、品物がない状態を積極的につくる。商品を手に入れるため、待ち望んだ顧客にとって、今、その商品がどのような状態で、どのくらい自分の家に近づいているのか知ることも顧客の楽しみの一つになっている。そして、待ち望んだ商品が届いたとき、顧客と平翠軒が喜びを分け合う。待つことのわくわく感までもが平翠軒では商品の一部にしている。

 商売はたくさんの人にたくさん売ることが基本ではある。しかし、あえて、基本を外して、「売ろうとする」ことから自身を解放してみる。すると、もっと先にしなければならないことが見えてくる。やることをしっかりすることで、結果がついてくることを平翠軒は物語っている。

一、売ることよりもコンセプトに合った品ぞろえを徹底する
一、世の人全員に売ろうとせず、10人に2人でいいからリピーターをふやす
一、短期的には売れなくても、長期的に売れる商品を育てる
会社概要
会社名おいしいものブティック平翠軒
代表者森田 昭一郎
所在地岡山県倉敷市本町8-8
電話番号086-427-1147
事業内容 全国のおいしい食品の販売、および一部製造。コンセプトは、「暮らしの中の不思議」
 

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