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連載記事

お手本にしたい繁盛店

サトーカメラ

2010年4月6日更新

第1回 モノが売れない時代に何を売るか −サトーカメラの選択−

 21世紀になり、デジタルカメラの普及とともに、町のカメラ店はかつてない窮地に立たされた。現像、プリントの売上やフィルム、カメラの販売数が急激に落ちこんだためだ。追い打ちをかけるように、大手家電量販店が安さを武器に全国展開を繰り広げ、これにおされる形で店をたたむカメラ店が相次いだ。そのなかで、創業時は1店舗しかなかった店を今では18店舗、年商25億円にまで成長させたカメラ店がある。店内はいつも顧客と威勢のいい店員の声で活気づいている。

 そのカメラ店とは、栃木県内にチェーン展開するサトーカメラだ。本店はJR宇都宮駅から車で数分のところ。このエリアは、ヤマダ電機、ヨドバシカメラ、ケーズデンキ、コジマと量販店がひしめき合っている激戦区だ。品ぞろえは断然量販店のほうが安く、豊富なはずなのだが、サトーカメラはなぜか、いつも賑わいをみせている。

大手量販店と比べる3つの違い

 大手量販店と同じ土俵で戦っても、勝てるはずがない。まったく違う発想が必要だ。サトーカメラの特徴は大手量販店の逆をいく商法にある。それには、大きく三つのポイントが挙げられる。

一つめのポイントは、「エリアを絞る」ことである。大手量販店はまるで戦国武将が領土を広げるかのように、全国に店舗展開し、会社の規模を大きくしていく。大量に仕入れ、顧客ターゲットに合わせた商品を安くそろえるから、少ない店員で、効率よく、たくさんの売上をあげられる。対するサトーカメラは全18店舗、全てが栃木県内にあり、県外には一つも店は存在しない。

 サトーカメラ代表取締役専務 佐藤勝人氏は「大手量販店が顧客に提供しているものは便利さで、これは間違いだ」と言い切る。

「商人というものは、お客様がその商品と出会うことで、新しい生活を得て、心潤わしてもらうことが仕事です」

 それには、地域に密着した店でなければならない。すると、他の地域に目を移している場合ではないことに気付くのだという。よりきめ細かなマーケティングをするためには、エリアを広げるより、目の届く地元に店舗展開したほうがいい。これがサトーカメラの出した方針だ。

 サトーカメラの二階にはちょっとしたホールがある。そこでは、時折、顧客が主体となった写真展示会が開かれる。会場には、サトーカメラのスタッフが主催者や来訪者と一緒に、展示作品の前に立ち、感想を述べあう姿が見られる。会話を通して、この展示会は単なる集客のための機会ではなく、顧客との絆を深めるきっかけとなっている。

 何よりもサトーカメラが大切にしたいのは、顧客の思い出を残すこと。それには、店員一人ひとりがきめ細かい接客ができなくてはならない。店には、それを実現できるよう、十分な店員数を配置している。

 とはいえ、経営幹部が方針を定めても、個々の店員まで浸透しなければ意味がない。サトーカメラでは、店員が店の方針を理解し、接客に反映できるよう、週に一度勉強会を開催している。せっかく従業員を教育しても、月日が経つに従いブレが生じることもあるからだ。さらにその対象はパート店員や経営幹部にも及んでおり、こちらに対しても別途定期的な勉強会が開かれている。

 2つ目のポイントは「商品を絞る」である。

 商品点数が多すぎると店員は商品知識を完璧に頭に入れることが難しくなってくる。先ほどのような勉強会をいくら開いたところで、どうしても一つひとつの商品に対する知識は浅くならざるを得ない。量販店はテレビ、パソコン、白物家電まで品ぞろえが豊富である。しかし商品知識は浅い。対するサトーカメラの商品はカメラのみ。しかしながら商品への知識や思い入れは深い。これもきめ細かな接客をするためにたどり着いた結論である。

天井

店内を楽しい雰囲気にしてくれる

 店内にはいつでもフレンドリーな雰囲気が漂っている。それは、店員の態度だけでなく、天井のレールからつるされたポップや絵にも表れている。これらは模型の電車みたいに動いて店内を巡回。遊び心を演出している。こうした設えも、きめの細かい接客姿勢があってこそ、効果を発揮するのである。

顧客ターゲットを絞らないのはなぜか

プリントする写真を選ぶ顧客と店員

プリントする写真を選ぶ顧客と店員

 最後に、3つめのポイントである。それは「顧客ターゲットを絞らない」こと。商品ごとに、メーカーが意図した購入層、ターゲットがそれぞれ明確に決まっている。ところが、サトーカメラの顧客は小学生から高齢者まで、性別に関係なく層が厚い。それはなぜか。ここにはしっかりとした理由がある。

「お客様はなぜカメラ店に足を運ぶと思いますか」

 佐藤氏はこのように私たちに問いかける。カメラが欲しいから。この答えに、佐藤氏は即座に首を振る。お客様が本当に欲しいものはカメラではない。お客様は「思い出を残したい」のだ。だから写真を撮り、道具であるカメラを買いに来店するのである。

「我々が売っているものはカメラではない。写真を通して、お客様の思い出を残すという、量販店では手に入らないものを提供しています」

 サトーカメラが取り扱っているものは、形のない「思い出」だと佐藤氏は言う。栃木県の人口は約200万人。そのうち、カメラの購入層はおよそ14万人しかいない。しかし、カメラを買わない186万人でも、家族や大切な人との思い出は残したいと願っているはずだ。このように考えると、栃木県200万人のほぼ全てが顧客ターゲットになる。

人は何のために経営するのか

 このことに佐藤氏が気付いたのは、一人の女性客がきっかけだった。今から20年ほど前、店に30代前半のある男性が母親とともに来店した。子どもが生まれるから、カメラを買いに来たのだという。そのとき、佐藤氏はカメラを買った男性だけでなく、一緒に来店した母親とも話した。

 すると、その母親は夫に先立たれ今は一人暮らしで、1週間に一度、息子が初孫の顔を撮って送ってくれるのを今から楽しみにしているのだという。ただ、息子は仕事が忙しく、写真を撮る時間が確保できないのではないかと心配していた。

「だったら、お母さんが自分で初孫の写真を撮ったらいいじゃないですか。操作は心配ないですよ。初孫の顔を見に行くときに、サトーカメラに寄ってください。理解できるまで、何度でもお教えしますよ」

 それまで、母親はカメラにはほとんど触れたことがなかったが、2年間毎日サトーカメラに通い、カメラを使いこなせるようになった。

 それから、数年が経ったある日、母親は道で佐藤氏に行き会う。遠くから駆け寄り佐藤氏に言った。 「あなたに会えてよかった。初孫が生まれた頃の私は夫に先立たれてさみしかった。でも、カメラのおかげで65歳を過ぎてから、人生でこんなに楽しいときはなかった」

 母親は佐藤氏にありがとうと言った。

佐藤勝人氏

サトーカメラ株式会社 佐藤勝人氏
店は顧客のくつろぎと遊びの場。
ファッションはカジュアルにこだわる

 現在、サトーカメラは小学校へ出向き、写真講座を開いている。私たちの常識では、写真は大人が撮るもの、子どもはお父さんに写真を撮ってもらうものだとしている。サトーカメラが子どもたちにカメラを教えるのは、将来的な顧客を創造することではない。カメラの操作を教えて、写真を撮る楽しさを覚えてもらう。この講座により、今、すでに小学生がサトーカメラの顧客となってカメラを購入している。当初から掲げている「栃木県200万人のほぼ全てが顧客ターゲットになる」、これは不可能ではないとサトーカメラは証明している。

 大手企業のように規模を拡大し、ムダ取りを進め、効率よくたくさんの利益をあげる。これはサトーカメラが目指すものではない。利益はスタッフが生活していく上で困らない程度に、そして会社が存続するのに必要なだけあればいい。利益第一主義に走らない。この経営が結果として、サトーカメラに足を運ぶ多くの「人」と顧客からの「感謝」をもたらしている。

一、 顧客にはカメラを売るな。「お客様の思い出を残す」ことが商売の目的
一、商品を通して、地域の人を幸せにするのが商人の役割
一、エリアは絞るが顧客ターゲットは絞らない。規模の拡大は優先しない
会社概要
会社名サトーカメラ株式会社
代表者代表取締役 佐藤千秋
従業員数150名
資本金5,000万円
所在地栃木県宇都宮市陽東3丁目27−15
電話番号028-613-6686
事業内容 カメラ、ビデオカメラ、デジタルカメラ等の関連商品、及び写真関連商品の販売。カラー写真の生産販売。
 

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