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できる店長の仕事術

40年間黒字経営を続ける名物店長の秘密は、棚作りにあり−福島屋

2011年3月8日更新

第4回 40年間黒字経営を続ける名物店長の秘密は、棚作りにあり−福島屋

 東京都・羽村市。都心から離れること40kmのこの場所に全国の小売店、大手デベロッパーなどから注目を集めるスーパーがある。1967年に10坪に満たないよろず屋としてスタートした「福島屋」である。両親から現社長である福島徹氏が店を引き継ぐと、独自の経営手法で堅調に売り上げを伸ばし、40年間、黒字経営を続けている。

 低価格志向とは一線を画した“質”にこだわったPB(プライベートブランド)の開発、旬を逃した商品は店頭に置かないという一見すると商業ベースを無視したように思える手法など、これまで常識と考えられてきた方法を覆し、中小スーパーとしての新機軸を打ち出してきた福島氏が「店作りをする際に根幹を成す」と捉えているのが棚作りである。

 現在では、毎週1回のペースでレイアウトなどについて社員らと会議を重ねるほど、福島屋で重要視されている棚作り。なぜ福島社長がここまで棚作りにこだわるのか。その重要性を福島氏が思い知ったのは、過去のある躓きからだった。

2号店の失敗で棚作りを意識する

 地元市民に愛され、堅調に売り上げを伸ばしていった羽村本店での実績に自信を持った福島社長は、1988年に東京・立川市に2号店をオープンするが、これが大苦戦する。自慢の商品は売れ残り、大量の廃棄ロスを抱える。「何がいけないのか」。夜10時の閉店後に福島社長はひとり、売り場で商品の入れ直しをしながらなぜ売れないのかを考えるが、まったく理由が分からない。閉店から市場に買い付けに行くまでの時間を寝る間を惜しんで思案する日々が半年も続く。すると、棚を見つめていた福島社長に一つの思いが頭を過ぎった。

 この商品はなぜここに置かれているのだろう。この商品を買う人はどんな人なのだろうか。本当にこの配置で良いのだろうか。

 そんな事を考えながら、商品をひとつ手にとって配置を替え、その横にその商品と関連性のあるもの、といった形で棚にある商品を入れ換える。出来上がった棚を見上げると並べられた商品同士に繋がりがでてきたように思えてきた。これまで何となく商品を置いていた棚に文脈(コンテキスト)がでてきたのだ。

「それまでは、これを売りたいといった店側のエゴ丸出しの棚で、買い手目線でなかった。売り手の都合で作られた棚は美しくないし、それがお客様に伝わっていたのかもしれない」と福島氏は当時を振り返る。福島氏が端に並べた商品にまで意義付けをした棚作りをするようになってから、顧客が絵画を見るように棚をじっくりと眺めるようになった。そして商品を手に取り、吟味するようになった。

 時を同じくして、これまでまったく売り上げがたたずにいた立川店で面白いように売り上げが伸び、損益分岐点を越えられるようになった。

買わせるのではなく、選んでもらう

 福島屋では毎週火曜日、時間の合間を縫って「グラフィックアートワーク」と呼ばれる棚作りの会議を行っている。この会議には各棚の担当社員はもちろんパート、アルバイトも集めて、商品を並べた状態の棚の写真をスクリーンに映し出して議論する。なぜその場所にこの商品が置かれているのか、どのような根拠からこの棚が作られているのかをレポートさせ、それを福島氏がチェックする。

食の安全性を独自に三段階で評価

福島屋では、食の安全性を独自に三段階で評価し、シールで色分けしているものの、商品の並び順はあくまで顧客の利便性を考慮したもの。店側の“エゴ”を顧客に押し付けない配慮がされている。

 これらの過程を経て作られた棚は売り上げ点数、動線分析などにより評価されるが、棚作りの際のポイントは顧客へ対する“思いやり”と“優しさ”だという。“思いやり”と“優しさ”のある棚とはどういう棚なのか。

「例えば、健康食品がすばらしい、という考えを押し付けるのは店側のエゴ。こちらはお客様へ情報を提供して、その中から自由に選んでもらう。これがお客様目線に立った“思いやり”と“優しさ”のある棚だと思う」と福島氏は説明する。

 そのため福島屋では、シールで色分けはしていても、棚にはオーガニック製品とそうでない製品が混在して並べられている。

 また、福島屋には主婦の感性を売り場に反映させるため、MPS(ミセス・プロズ・スマイルズ)と呼ばれる地元に住む主婦で構成される部門があり、マーケティングから催事の提案まで幅広い業務を担っているが、棚作りにも彼女たちの意見が積極的に取り入れられているという。

 そもそもMPSのメンバーは、もとは福島屋の顧客であり、棚とはこうあるべきという既成概念にとらわれやすい男性社員の意見に対し、自分ならこの棚にあるものを買うかという買い手視点の意見が多くでてくるという。これに加え、MPSが20代〜60代という幅広い年齢層の主婦を集めているのも重要だと福島氏は語る。

「例えば、我々の世代であれば高くても高品質な商品を買いたいと思うが、若い世代は違う。なかには食の安全性や味よりも、ナショナルブランドのものなどを好むお客様も当然いらっしゃる。お店に来てくださるお客様の価値観は多種多様です。これに対応するには、様々な視点から多くの意見を取り入れたい」

棚は店の顔であり、入り口である

オーガニック製品などが並ぶ雑貨の棚

食品中心のスーパーでありながら、専門店で取り扱うようなオーガニック製品などが並ぶ雑貨の棚。MPSの意見が取り入れられたもので、主婦層を中心に評判を呼ぶ福島屋の名物コーナーに成長した。

 羽村本店で棚作りの基本の形を作成すると、それをもとに、購買層や立地などを考慮しながら、支店ごとに商品の配置を換える。そして新しい商品を仕入れると、また新たに棚のレイアウトを考える。

「スーパーも、近いからとか、昔から馴染みの店だからという惰性で成り立つ時代は終わりました。お客様に満足していただける店舗でい続けるには、常にお客様の要望を汲み取りながら変化していなくてはならないと思っています。ですから当然、棚作りにも終わりはありません」
代表取締役社長 福島徹氏

「棚は作品である」と語る福島屋 代表取締役社長 福島徹氏

 加えて、福島氏はオリジナリティのない棚作りをする他店に対し疑問を呈する。

「店舗の広さ、品数、客層などが異なるにもかかわらず、大手チェーン店やコンビニエンスストアの成功例を鵜呑みしたような、棚の配置の店をたまに見かけますが、役割も性格も違う店を真似する事に効果があるのでしょうか。棚は店のコンセプトが顕著に現れる顔であり、店を知ってもらうための入り口だと思います。自分の店の役割、何を伝えたいかを考えて棚作りをすれば各々、棚には個性が出てくるものだと思います」

 アイディアマンであり、お店と顧客を愛する福島氏の情熱が注ぎ込まれた手段のひとつが棚作りであり、福島屋の好調を支える要素がこれだけというわけでない。しかし、店舗の狭さ、品数の少なさを売り上げが伸びない原因にするのではなく、まずは棚の配置を変えるところから始めてみる。想いのこもった棚のレイアウトに情熱を感じ取った顧客が商品を手に取ってくれるかもしれない。

著者プロフィール

江口陽子(えぐち・ようこ)

経済ジャーナリスト。東京理科大学工学部経営工学科卒業後、大手電機メーカーに入社。情報通信事業部門にて開発プロジェクトを多数経験。退職後、ジャーナリストとして独立し、ビジネス系のウェブサイトを中心に執筆活動を続ける。2008年イー・フラットを設立。