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できる店長の仕事術

組織の成長に合わせた指揮官の指示とは−イズミヤ 阪急西宮ガーデンズ

2011年1月12日更新

第3回 組織の成長に合わせた指揮官の指示とは−イズミヤ 阪急西宮ガーデンズ

 リーダーにとって大切な要素は「生きもの」である組織の成長を促すことだ。ただし、難しいのは成長の段階で、とるべきリーダーシップは異なる点にあり、その時点で最も適した指示、言葉がけができるリーダーが組織を制することができる。今回紹介するイズミヤ西宮ガーデンズ店の今泉好彦氏は、まさにそうした要素をもち、組織を成長させることのできるリーダーである。

 西宮ガーデンズ店は2008年11月にオープンし、以来イズミヤにとっては稼ぎ頭の一つとして、その地位は揺るぎないものになっている。なかでも浴衣やクリスマス用品などといった品目において、他店の追随を許さない圧倒的な売上を誇っているが、この成功の裏には、今泉氏の舵取りのうまさがある。

「部下は私のことを数字にうるさい店長だと感じていると思います」

 店の売上を増やすには、店長が数字にシビアになることは基本である。現在、今泉氏は日々売上高をチェックし、予想と外れたときは徹底的に原因を追及する方針を掲げ、数字をあげるための施策を出すよう、部下に指示している。

 そんな今泉氏だが、西宮ガーデンズ店がオープンした最初の一年間は、部下に対して売上に関する要求は強く出さなかったという。それはなぜか。

あえて差別化に走らない

 2008年、西宮ガーデンズ店の出店はイズミヤにとって、会社の浮沈にかかわる大勝負の決断だった。大型モール出店という新たな形態、1万5000m2というイズミヤ最大級の売り場面積など、従来の店舗にはない試みがあり、社の期待はこれまでになく高まる一方、投資額も大きく、失敗すればイズミヤにとって大打撃を被るリスクの高いプロジェクトという側面も持ちあわせていた。

 そのなか、2007年、オープンの約一年前に今泉氏は店長に抜擢された。

「他店に学べ」

 今泉氏が配属されたばかりの頃、統括部長に指示した言葉はライバル店の観察だった。この当時、生まれたての組織である西宮ガーデンズ店には、大型モールに生き残るための「自社の色、オリジナル」を追求し、売上を上げるための仕掛けができる段階にはなかった。これまでイズミヤが蓄積してきた店頭ディスプレイや品ぞろえ、商品陳列ノウハウは、一般的な総合スーパーに適したものだったからだ。

 阪急百貨店やロフト、Francfrancなど、集客力のある店が立ち並ぶ巨大モールのなかでも埋もれずに集客でき、十分な売上をあげられるような店づくりにするためには、西宮ガーデンズというモール形態の「場」がこれまでの店舗と、顧客層、商圏特性などがいかに異なるか、メンバーの意識を共有しておく必要があった。そこで、まずは近隣のモールに出店している総合スーパーを見に行くように指示したのだ。意識の共有が図れたあと、次に今泉氏は何を指示したか。

組織の成長とともに指示内容を変える

 店に商品を並べる段階になると、今泉氏はイズミヤ、しかも西宮ガーデンズ店ならではの展示にこだわりはじめる。

「もっと大胆に展示してください。ウチの店はモールの中でも一番奥に位置しています。遠くからでも見えるようにしてください」
バリエーション豊富

「総合スーパーでは置かないようなビビットな色をそろえよう」。スタッフのアイデアを活かした品ぞろえが奏功している。

 スタッフは総合スーパーでの展示に慣れている。「大胆さ」に戸惑いを覚えながらも、店長の指示に従った。

 くわえて、このころ、今泉氏がとくに注力したことは職場の雰囲気づくりだ。現在、西宮ガーデンズ店の部門長は積極的にアイデアを提案する。一人ひとりが思いついたことを伝え、楽しみながら全員で店づくりに取り組む雰囲気ができている。西宮ガーデンズ店の業績を支えているのは、このような職場の雰囲気にある。その礎を築いたのがまさに店長今泉氏の働きである。では、今泉氏はどのようにして個々が楽しみながら、自発的に店づくりする職場を構築していったのだろうか。

 翌年の初夏になると、水着やレジャー用品など、季節性の高い商品が売れる時期が到来した。特にこの地域では、夏になると毎週のように花火大会が開催される。それにともない、浴衣が売れるのである。

キャスター

キャスターをつけることで、模様がえがラクになった。これもスタッフのアイデア。

 浴衣のディスプレイも西宮ガーデンズ店ならではのものにしたい。スタッフは、「大胆に」という今泉氏の指示に必死に応え続けていくうちに、徐々に指示を受けるだけでなく、スタッフが自らアイデアを出すようになっていく。オープン後約半年が過ぎ、このとき、間口27m全部を利用した浴衣の展示というアイデアが出された。従来の数メートルの展示と違い、遠くからでも見栄えがし、客の足を店に寄せる威力があるものだった。

 アイデアがスタッフから出るようになると、今泉氏は展示に関する具体的な指示よりも、みんなで楽しむことにウェイトを置くようになる。部門長のアイデアを活かし、スタッフは浴衣を着て店に立つことが決まった。店長自身も自前の浴衣を着て接客する。しかも、浴衣を着るのは正社員のスタッフだけでなくパートタイマーにまで及ぶ。自発的なアイデアによるものは、現場に楽しみをもたらす。それぞれが楽しみながら浴衣を販売している雰囲気は、顧客にも伝わる。そして浴衣の売上は大幅に伸びていき、これがスタッフの自信につながり、より多くのアイデアが生まれる雰囲気ができあがった。

売上を厳しく追うときが来た

 浴衣の販売に合わせて、ラムネをディスプレイしよう。化粧品コーナーでは浴衣に合ったメークをお客様に提案しよう。部門長から、次々にアイデアが出されるようになり、店は活気を帯びた。

 オープン後一年はディスプレイやパートタイマーの教育など、店づくりに関することに専念した今泉氏。ところが、二年目に入り、この頃から売上について指示を出すようになる。

 大きく売上が下がった品があると、原因を突き止めるため、近隣のスーパーの視察に出る。他店の開店記念セール、特売などの有無をチェックし、原因を明確にするのだ。

「いつまでに、どうやって返していこうか?」

 下がった売上を取り戻すための施策について、部下の返事が曖昧なときは、しっかりした答えが見つかるまで、じっくりと話し合う。危機においても、このような丁寧なアクションで、部下とともに売上回復の道すじを作っているのである。

今泉氏

イズミヤ西宮ガーデンズ店
店長 今泉好彦氏

 売上目標を達成しようと必死になるあまり、自分自身で、そのためだけの施策に走る店長も少なくない。しかし、組織は成長を遂げながら能力を高めていく。十分な能力がないときに能力を上回る指示を出しても効果は得られない。

 今、何を伝えるべきか。ときには、部下が成長するまで待って、成長に注力した後に指示を出すことが必要だ。このタイミングを見計らうことが、店長今泉氏の秀でているところである。

 イズミヤ西宮ガーデンズ店は三度目のクリスマスシーズンを迎える。今年も間口27mをフルに活用した大胆な展示が店の入り口を飾っている。

著者プロフィール

江口陽子(えぐち・ようこ)

経済ジャーナリスト。東京理科大学工学部経営工学科卒業後、大手電機メーカーに入社。情報通信事業部門にて開発プロジェクトを多数経験。退職後、ジャーナリストとして独立し、ビジネス系のウェブサイトを中心に執筆活動を続ける。2008年イー・フラットを設立。