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できる店長の仕事術

協力するチームづくりに必要な店長の言葉-ドン・キホーテ 中目黒本店

2010年11月11日更新

第2回 協力するチームづくりに必要な店長の言葉-ドン・キホーテ 中目黒本店

売上増に効果をもたらすには

 近年、リーダーに求められる資質として、部下をコントロールすること以上に、その主体性を重視し、個々が持つ能力を最大限に引き出すことが重要視され始めている。たしかに、権限の委譲や適度な競争を促すことは、個々のモチベーションを高め、職場の活性化につながる要因となる。ただし、あまり個人の頑張りが行き過ぎると、今度は店舗全体のカラーを損なわれ、まとまりのない組織になってしまうことが少なくない。

 個々のモチベーションを高めながら、個人の行動を上手く全体に取り込むことが両立すれば、「協力するチーム」が実現する。しかし、それを両立させるさじ加減が難しいことは、言わずもがなである。そのなか、20期連続増収・営業増益を達成したドン・キホーテは、この二つを両立している数少ない企業の一つだ。

中目黒本店の店長を務める服部氏にその秘訣についてうかがった。

 ドン・キホーテは徹底した権限委譲と実力主義により、モチベーション向上を実現していることはよく知られている。ドン・キホーテの店舗では、商品を「家電・AV・自転車」「食品・飲料」「時計・ブランド品」など、7つのカテゴリー分け、各カテゴリーの売場責任者が中心になって売場をつくりあげる。

 責任者は「ドン・キホーテ」という器のなかで、経営を任されている店主のようなもので、いい意味でそれぞれの責任者はライバルとして競い合う。そのため、担当カテゴリーの売上を増やすため、自分の売り場を店内のいい場所に、広く取りたいという願望が自然な流れとして生じる。そこで全員を取りまとめる店長の役割が重要になってくる。

カテゴリー間のシナジーを高めるには

店舗外観

中目黒本店。都内で最大級の売り場面積。本社オフィスの一階と二階にあり、ドン・キホーテの「顔」として君臨する。

「それぞれが競い合うことは必要だが、ときには協力したほうが賢いときもある」

 このような考えのもと、服部氏は中目黒本店に、家電、化粧品、スポーツを融合し、一つのコーナーを立ち上げた。「女性コーナー」と呼ばれるものである。そこにはくるくるドライヤーと隣接して、シェイプアップグッズが置かれ、その隣にはおもむろに化粧品コーナーが設けられている。本来、これらは別々のカテゴリーに属し、別の売り場で売られている商品だ。「女性コーナー」として一つにまとめることで、ヘアドライヤーを買いに来た顧客が、ついでにつけまつ毛も購入するといった相乗効果が生まれるようになった。顧客志向のもとに、売り場責任者同士の協力を生み出そうという狙いである。

 ただし、「女性コーナー」は当初からすんなりできあがったわけではない。従来の配置でうまくいっているとき、売り場責任者は新たなコーナーを設けることに消極的になるものだ。とくに、実力主義のドン・キホーテでは、責任者は日々、背水の陣で仕事している。そのなかで、「みんなで協力して、新たな取り組みをしましょう」と言ってもなかなか積極的な動きにはつながらない。こうしたなか、服部氏は次のような問いを繰り返した。

「お客さまにとって、どのような売り場が買い物しやすいと思う? 考えてみて」
店内

左手は「家庭雑貨」、中央奥のドライヤーは「家電」、右手は混在。多種のカテゴリーが一カ所に。

 もちろん、服部氏の心のなかには答えができている。だが、それを部下に押し付けることはせずに、自分で考えさせるのである。スピードを求めて上意下達で店長が強権を発動すれば、部下のモチベーションは下がってしまう。それが遠回りだとわかっていても、服部氏が部下への問いを繰り返すのは何よりその点を重要視しているからだ。

 しかし、部下に主体性を促すような問いかけを心がけたとしても、狙い通りに部下を動かす言葉を導きだすことは難しい。では、服部氏はなぜそうした言葉を発することができるのか。もちろん、服部氏の人柄もある。だが、それだけではない。服部氏が説得力のある言葉を獲得するため、仕事の過程で何を経験したのか。

マネジャーの視点とスペシャリストの視点の融合

 ドン・キホーテのキャリアパスは「スペシャリスト」と「マネジャー」の二つに分かれる。「スペシャリスト」は先の7つのカテゴリーについての知識を深め、売り場をつくりあげる役割を果たす。他方の「マネジャー」は店長として、個々の売り場責任者の取りまとめ、売上、経常利益を向上させるために働く。

 服部氏は今でこそ店長の職に就いているが、入社時は「時計・ブランド品」のスペシャリストとして配属された。入社二年目で基幹店舗である新宿店のブランド品コーナーの責任者、翌年は関西エリアのブロック長として22店舗を任され、その後、東京中央エリアの責任者と、スペシャリストとしての出世街道を進んでいった。にもかかわらず、2009年3月、服部氏は「時計・ブランド品」の責任者の地位を自ら降りる決断を下す。自身の適性を考えた末の決断だった。

 関西、関東のエリア責任者を経験した者が、店長という、わずか1店舗の責任者として再スタートを切るのである。「マネジャー」コースは、うまくいけば将来は社長になれる。が、下手すると店長で終わるどころか、店員に降格することもある。

服部氏

営業本部 東京中央支社 統括店長兼中目黒本店店長 服部将允(はっとり・まさたか)氏

「腹をくくりました。そして、次の人事までの3カ月半で、店長の上である統括店長になるのだと、期限付きの目標を自分に課しました」

 毎晩、服部氏は仕事する夢を見るほど、寝ている間も、がむしゃらに働いた。早く結果を出さなければならないという焦りもあった。そして、瞬く間に3カ月半が経過する。

「統括支店長に任命する」

 数字を残したことと、懸命に取り組んだ姿勢が評価された。

両者の視点が融合し誕生する言葉

 ブランド品のスペシャリストとしての経験もある服部氏は、自身の経験から売り場責任者の強い思い入れが心にしみるように理解できる。また、スペシャリストは思い入れが強い分、視点が偏りがちになってしまうことも理解できた。「女性コーナー」立ち上げに際し、服部氏はそれぞれに丁寧に声をかけ、責任者の気持ちを理解しながらも、客観的に顧客の思いを取り入れること、チームとして働くことの大切さを伝える。売り場責任者にしてみれば、服部氏が自分たちの思いを理解した上で語っていることがわかると、服部氏の言葉へ聞く耳を持てるようになる。

 今の時代、企業は効率を求めて役割ごとに分担を決める。企業が成長するほど、個々の専門化が進み、他の分野への理解が薄まってしまう。そのなかで、部下の協力を促し、チームを形成するには、服部氏のようにマネジャーとしての視点と、スペシャリストの視点を両方兼ね備えておくと言葉に重みが出る。ただし、なかなかスペシャリストの地位を捨てて、一から出直す勇気は持ちにくい。ドン・キホーテという柔軟で、敗者復活の道が用意されている企業のなかでも珍しいことだ。まして、一般の会社では、社内転職すらできないところが多く、多様な視点を得ることは難しいように思える。

 だが、不可能ではない。マネジャーがスペシャリストと常日頃からコミュニケーションを頻繁にとり、相手を深く理解しようと努めれば、マネジャーがスペシャリストの視点を擬似的に取り入れることは可能である。

 バラバラになりがちなスペシャリストが協力しあうには、リーダーは服部氏のように多様な経験を有することで、説得力のある言葉を獲得できる。ただ、そうでなくともマネジャーはスペシャリストとのコミュニケーションを図ることで、擬似的に理解を深めていくことができる。店長は「管理」の専門家であるが、「協力」の実現に効果ある言葉を獲得するには、自分が経験していない部門の視点を得ることが重要なのである。これをドン・キホーテの服部氏は自らの経験で示している。

著者プロフィール

江口陽子(えぐち・ようこ)

経済ジャーナリスト。東京理科大学工学部経営工学科卒業後、大手電機メーカーに入社。情報通信事業部門にて開発プロジェクトを多数経験。退職後、ジャーナリストとして独立し、ビジネス系のウェブサイトを中心に執筆活動を続ける。2008年イー・フラットを設立。