知れば納得!すぐに使える! 小売・流通業の新常識

連載記事

できる店長の仕事術

9ヵ月連続増収、静岡パルコのビジネスにおける「視力」

2010年10月20日更新

第1回 9ヵ月連続増収、静岡パルコのビジネスにおける「視力」

 駅近くの立地、豊富な品ぞろえ、広大な床面積。どんなに好条件を重ねても、モノが売れずに悪戦苦闘している店を目にすることは少なくない。モノが売れない今の時代、手を尽くしても、「売れないものは売れない」のである。そうしたなか、8月の売上が前年同月比11.1%増、9ヵ月連続で増収を達成した店がある。

 株式会社パルコ静岡店(静岡パルコ)である。流通業にとって厳しい環境が続くなか、連続増収の達成はパルコ全店のなかでも貴重な存在だ。静岡パルコの好業績の要因はどこにあるのか。店長を務める鳥海康夫氏に着目した。

売上増に効果をもたらすには

静岡パルコ

静岡パルコ。2007年3月、西武デパートの跡地にオープン

 好調をもたらした要因には、「母の日」のキャンペーンや集客イベント、改装など、きめ細かな仕掛けの成功があげられる。なかでも、鳥海氏は母の日のキャンペーンを盛り上げるため、各店舗の売上コンテストを開催し、奏功した。

 パルコでは、売上などの営業成績が各テナント間で公開されており、前日の売上がライバル店に勝ったかどうかがすぐに捉えられる仕組みとなっている。売上コンテストはこの仕組みをベースに、店舗間の競争を促すことで、キャンペーンの活性化を図ったのだ。同時に、鳥海氏は効果が上がらない店に対して、カウンセリングや、うまくいっている店の商品の見せ方、接客ノウハウを伝授するといった支援策も打ち出し、底上げを図った。

mothers_day_2010

母の日を盛り上げるために、期間限定のフラワーショップも企画

 ただし、バーゲンやイベント、季節物のキャンペーンといった、催しによる集客は静岡パルコだけでなく、百貨店や大型の総合スーパーマーケットでもこまめに講じている。それなのに、なぜ静岡パルコは増収を続けているのか。他店とどこに違いがあるのだろうか。

 鳥海氏の仕事に着目すると、鳥海氏は2つのビジネスに関する優れた「視力」を有し、これらをバランスよく使い分けていることがわかる。ここでいう2つの「ビジネス視力」とは、潮目をとらえ流れを読む「流動的視力」、そして鳥のように高いところから全体を俯瞰する「広域的視力」をいい、どれもが静岡パルコの好業績に欠かせないものである。

時代の流れをとらえる「流動的視力」

 静岡パルコ6階には登山・アウトドア用品で全国展開しているチェーン店「好日山荘」という店がある。従来、登山用品は静岡パルコのような店では売れないといわれていた。なぜなら、登山愛好家は、地元にある山好きの店主が経営する店に集まり、店主や仲間同士で情報交換しながら商品を選ぶからだ。

 時代の変化とともに、近年、廃業する登山用品店が増えてきた。とはいえ、静岡には登山愛好家が変わらず一定数存在する。鳥海氏は「好日山荘」のようなチェーン店でも、パルコの中で商売が成り立つのではないか。そう読んで入店を決めた。結果、読みは当たり好評を博した。時代の流れを読み、的確なテナントをそろえ集客する。これを実現させるには、鳥海氏の「流動的視力」は欠かせない。

自店だけ儲かっても長続きしない

鳥海氏

株式会社パルコ 静岡店
店長 鳥海 康夫氏(とりうみ・やすお)

 売上増を長続きさせる秘訣はどこにあるのか。鳥海氏は自身の店だけが儲かることだけを考えるのではなく、街全体に視点を置くことが大切だと言う。ここに活かされているのが、街全体を俯瞰する「広域的視力」だ。

「売上を伸ばそうと手を打てば、たしかに一時的に売上はあがります。ただし、商売は将来にわたって続いていきます。よい数字を出すことだけを考えていては長続きしません」(鳥海氏)

 商売がうまくいくには、自分の力だけではどうにもならないことがある。どんなに、シャカリキになって働いても、一人の力は限られており、思うように売上は伸びない。鳥海氏は街全体を見渡し、その中で自身の役割はどこにあるのか。それを見極めて、自身の役割に合った事項を進めているのである。

 静岡駅前周辺には、静岡パルコのほか、駅ビル、百貨店(松坂屋と伊勢丹)、専門店(丸井)が並び、さらには800もの小規模な商店がある。もちろん、競争は互いを成長させる原動力になり必要なものである。そのうえで、地域で人を呼ぶことが大切だと鳥海氏は言う。

 それには、街のなかで自分の店ができることは何かを考え、役割に適したものを取り入れる。鳥海氏はどんなに儲かると言われても、百貨店に入るような高級ブランドは、基本的にパルコには適さないと判断する。むしろ、静岡の百貨店にはないが、東京で流行っている、尖鋭なブランドが求められている、と自店の役割を見出した。そして、サマンサタバサのような、ここ十数年で頭角を現した新興企業を取り入れ続けた。

 また、静岡パルコには、「フランフラン」というインテリア雑貨の全国展開している大手チェーン店がある。マグカップを置いているが、100円ショップなどでは手に入らないデザイン性の高いものを扱っている。これをおしゃれなテーブルとランチョンマットとともにディスプレイし、顧客に、コーヒーとともに洗練された雰囲気を味わうイメージを伝えることもある。

 このように、単に商品を売るだけでなく、顧客のライフスタイルを提案するような売り方が静岡パルコならではのものだと鳥海氏は考える。この見極めは、街全体を見渡せる「広域的視力」がないと、ついつい目先の売上をあげる方向のみに進んでしまうものだ。

 どんなに静岡パルコが頑張っても、静岡の市街地が衰退してしまえば、静岡パルコの繁栄はない。街全体のバランス、店に入るテナント、店に置く商品とその見せ方、接客を含めた店の雰囲気、そして集客のためのイベントや催し。これらすべてがうまく調和が取れたときに、店の売上が伸びていく。これが好調を持続させるポイントだ。

 「広域的視力」「流動的視力」のどちらということではない。この2つを絶妙なバランスで両立させる鳥海氏の姿勢によって、静岡パルコは好調を持続している。

著者プロフィール

江口陽子(えぐち・ようこ)

経済ジャーナリスト。東京理科大学工学部経営工学科卒業後、大手電機メーカーに入社。情報通信事業部門にて開発プロジェクトを多数経験。退職後、ジャーナリストとして独立し、ビジネス系のウェブサイトを中心に執筆活動を続ける。2008年イー・フラットを設立。