ここが知りたいRoHS指令

ここが知りたいRoHS指令

電子・電気部品に関する欧州の環境規制(RoHS指令)について紹介

Q
EU2018年11月30日更新
Q.552 フタル酸エステル類の移行について教えてください。倉庫でフタル酸を含有していないダンボール箱で製品を保管していますが、季節によっては50℃前後になります。どのような条件でどの程度の時間、フタル酸エステル類が含まれる物質と接触していると1,000ppmを超えると考えられるでしょうか。

RoHS(II)指令では2019年7月22日からフタル酸エステル類4物質DEHP(CAS No 117-81-7)、BBP(CAS No 85-68-7)、DBP(CAS No 84-74-2)、DIBP(CAS No 84-69-5)について、それぞれ1,000ppm以上の含有が制限されます。

この影響で、フタル酸エステル類の移行が問題となっていますが、移行メカニズムは次のように考えられます。
 フタル酸エステルを含有する製品の材料内部では熱的な分子運動(ブラウン運動)により、材料内にフタル酸エステルが拡散し、一部が表面に滲出します。表面に滲出したうちの一部は空気中に、気体もしくは塵に付着する形で拡散し、ほかの材料に沈着する(移行)ことになります。

フタル酸エステルの移行量は材料自体の接触のタイプ、接触時間、温度、可塑剤濃度の差、可塑剤の濃度レベル、分子量および分子構造により変化します。フタル酸エステルの移行量は温度が高く、接触時間が長いほど、高くなる傾向にあります。

フタル酸エステルの移行に関しては、さまざまな試験データが発表されています。
 東京都衛生研究所発行の研究論文「エアロゾル研究 VOL.16.No.4 材料表面に密着させた吸着材へのフタル酸エステルの移行」1)では、温度、接触時間と移行量との間に正の相関があるデータが記載されています。

Environmental Science & Technology誌の論文「密閉空間におけるポリ塩化ビニル床材のDEHPの拡散に及ぼす温度の影響」2)では、23℃の拡散濃度を1とした場合、35℃、47℃、55℃、61℃はそれぞれ11倍、42倍、101倍、220倍に増加するに至る試験データが記載されています。

フタル酸エステル類の移行量に関しては、地方独立行政法人東京都立産業技術研究センターMTEP、地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所や一般社団法人東京環境経営研究所などの有識者により試験が行われました。
 試験は、DEHPを約30%含有したPVCマット上に、DEHPを含有していないPVC消しゴムを自重で85日間接触させて、移行量をラマン分光装置で測定しました。この測定結果は、2018年5月11日のコラム「フタル酸エステル類移行量測定中間報告」で公開しています。
 測定結果は、ラマン分光装置の検出下限(約1%)以下であることを確認していますが、法基準の0.1%以下であることは確認できていません。

9月のJASIS展で、広域首都圏輸出製品技術支援センター(MTEP)の萩原利哉氏がパイロライザGC-MSにより、上記試料の測定結果で、0.2%程度の移行を確認したことを発表3)しています。
 移行は密着し、PVC同士、軟質であると移行しやいとも発表しています。

フタル酸エステル類の移行量の測定標準として、ISO177-2016(Plastics- Determination of migration of plasticizers)があります。
 ISO177-2016の試験条件は、温度70℃(85℃、50℃も追加できる)、期間1日、2日、5日、10日、15日、30日で、フタル酸エステル類を含有した試料を吸着シート(astandard rubber/polyethylene/polyvinyl acetate)をはさみ、5kgの圧力をかけます。フタル酸エステル類を含有した試料の重量変化から移行量を決めています。
 ISO177-2016の試験条件は、温度、期間、圧力および吸着材がパラメータになっています。
 段ボールなど非PVC材料への移行に関する試験データは現在確認できていません。
 塩化ビニルは非結晶性でプラス、マイナスといった電気的に偏りがある塩素原子を構成元素としているため、DEHPのような極性部分とそうでない非極性部分をもつ物質を強く引きつけ、可塑剤をはじめとするそのほかの添加剤と混和性が高い性質があります。

一方、段ボールの主成分であるセルロースは強固な結晶構造をもち、セルロース同士は水素原子を介して強く結合して電気的偏りがないため、PVCほど混和性は高くありません。
 このような状況やISO177-2016の試験条件を考えると、真夏の高温時で長時間接触していた場合でも、RoHS(II)指令の規制値以上の移行が発生する可能性は高くないと考えられます。

1)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jar/16/4/16_4_305/_pdf
2)https://pubs.acs.org/doi/10.1021/es2035625
3)https://drive.google.com/file/d/1hQVwKsz_P4m9Zsuf0FJzWh6WnVobv2la/view
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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。 法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家に判断によるなど最終的な判断は読者の責任で行ってください。

情報提供:一般法人 東京都中小企業診断士協会

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