ここが知りたいRoHS指令

ここが知りたいRoHS指令

電子・電気部品に関する欧州の環境規制(RoHS指令)について紹介

2018.03.23

フタル酸エステル類の規制関連のFAQ

2017年初秋頃からフタル酸エステル類の規制に関する質問が多く寄せられ始めました。ご質問は共通的な部分があるのですが、当サイトの目的である法的解釈を超える部分があり、回答を留保しておりました。このため、規制対象であるフタル酸エステル類の解説、分析方法について、有識者から特別寄稿をいただき掲載しております。また、移行に関しては、移行量の測定を有識者の指導の下に継続しており、中間的な結果も出たところです。
 フタル酸エステル類の規制に関する対応について、明確な回答には躊躇する部分があるのですが、有識者の特別寄稿内容などから、現時点での解釈をまとめてみたいと思います。
 回答を留保している共通的なご質問は次の5つです。

Q1. ユーザー様からは1年前倒しの2018年7月までにフタル酸エステル類の情報提供を求められておりますが、他方ICや電線などのメーカー様からは「分析体制が整っていない」「分析の規格が定まっていない」などの理由で調査拒否が続いており対応に苦慮しております。
実際のところ、フタル酸エステル類の規制は進んでいるのでしょうか?
また、どうしてもメーカー様が調査を拒否され続ける場合、最終的には弊社側で分析を行わなければならないのでしょうか?

Q2. 弊社では、フタル酸エステル類をRoHS指令の禁止物質として、どのように管理するか検討しております。フタル酸は、他の6物質と異なり接触による汚染が発生する可能性がありますが、XRF等のこれまで使用していた装置では検出できず、汚染の有無が確認できません。
製造工程にフタル酸エステル類を入れないための管理方法を構築するにあたり参考となる業界文書・標準、規格、指針等があれば教えてください。

Q3. RoHS(II)指令にて追加となるフタル酸エステル4物質は、含有資材に接触することによる移行性が叫ばれていますが、金属(ステンレス・銅合金、めっき皮膜等)やセラミック基板にも移行する可能性はあるのでしょうか?
当社は、金属製品やセラミック基板を主に製造していますが、樹脂等はともかく、金属やセラミック基板に移行するイメージが湧かず、製造工程中で使用する資材の管理をどの程度まで踏み込むべきか悩んでいます。移行可能性が極めて低いのであれば、一部製造している樹脂製品にターゲットを絞って管理予定です。

Q4. RoHS(II)指令に関連して、業界団体(電気電子4団体)のレポート~EU RoHS指令制限対象フタル酸エステルに関する注意点~によると、『対象フタル酸エステル類には、移行性がある等、従来の制限物質以上に移行/混入/汚染等の非意図的含有が起こり易いことが知られている。従って、製造や保管などの状況によっては、従来の制限物質管理以上に、製造工程等への留意も必要となる可能性がある』とあります。仮に、『非意図的含有』を考えた場合、工場内からどのような方法・頻度でサンプル採取をすることで閾値1,000ppmの含有無しと言えますか?

Q5. J-Net21<ここが知りたいREACH規則>の2017.10.27付けREACH規則附属書XVIIの改正に関する動きこのページの中に下記文面があります。
「なお、4種のフタル酸エステル類については、2019年7月からRoHS指令の制限対象になり、本制限よりも厳しい(均質材料あたり0.1wt%)の含有制限が課されているため、本制限の適用は除外されています。」
この「本制限の適用は除外され」とは、どういう意味でしょうか?

論点1:川上から含有・非含有情報が入手できない(Q1)
 フタル酸エステル類の分析方法はIEC62321-8(2017)によります。この概要は2018年3月9日のコラムに解説されています。
 簡易分析方法は2018年3月16日のコラムに解説されています。
 公設試でも分析を受け入れていますが、費用は様々です。IEC62321-8のGC-MSでは、前処理を入れて数万円、簡易分析のFT-IRは1万円程度が多いようです。
 GC-MS分析は費用がかかること、FT-IRやラマン分光法はフタル酸エステル類の分析方法として一般化していないなどで、分析することが広まっていないと思えます。
 川上から含有・非含有情報が入手できない事例は、フタル酸エステル類に限らず多くあります。日本国内では海外法規制より顧客とのビジネス契約が優先されます。この契約で分析データの添付条項があれば、添付しなくてはなりません。
 フタル酸エステル類などの特定有害物質の非含有保証の要求の場合は、様々な対応が考えられます。RoHS(II)指令では、含有リスクを整合規格のEN50581で管理することを求めています。EN50581による管理はこのサイトで幾度も解説していますが、次のQ&Aなどが参考になります。
「Q.442:当社が納入する部品(フェーズ)について、電気・電子製品を製造する顧客からHBCDD、DEHP、DBP、BBPの非含有保証および分析データの提供を求められましたが、非含有保証および分析データの提供は法的な義務なのでしょうか?」
「Q.503:RoHS指令に対する順法確認方法として、『制限対象物質の含有可能性』と『サプライヤーの信用格付け』のマトリックスが紹介されていますが、これはどのような考え方なのでしょうか?」

論点2:フタル酸エステ類の混入(移行)管理(Q2、Q4)
 工程内で非意図的にフタル酸エステル類の混入を防ぐ管理は、非意図的ですので難しい点が多々あります。
 工程あるいは工場内からフタル酸エステル類をすべて除去することで非意図的混入を防止できるとして、顧客から工程あるいは工場内からフタル酸エステル類の除去、作業場、治工具の洗浄が要求されている例も聞いています。
 2018年2月23日コラムで解説されていますが、フタル酸エステル類は様々な用途で利用されており、フタル酸エステル類の除去は容易ではありません。
 日本企業のグリーン調達基準でも「意図的使用禁止」「使用禁止」などがあります。長いサプライチェーンを考えると、「意図的使用」でないことの適合説明をどのようにするかが企業の課題になります。
 参考になる例として、食品接触材料に関する規則(Regulation 10/20111) plastic materials and articles intended to come into contact with food 通称:PIM)があります。
 PIMでは、附属書Iのユニオンリストに収載された物質しか意図的に利用できなく(第5条)、この適合宣言(Declaration of compliance:DoC)を附属書IVにより作成しなくてはなりません(第15条)。
 PIMでも「非意図的添加物質」の含有が問題になっています。用語の定義では、「非意図的添加物質(non-intentionally added substance NIAS)とは、物質中の不純物、生産プロセスで生成された反応中間体、分解物、反応生成物」としています。また、サプライチェーンの中で、上流からの物質に追加、樹脂フィルムを多層化することやコーティングや印刷することもあります。サプライチェーンの中での追加、合成などでの追加物質は、ユニオンリストに収載されていない物質も当然あり得ますので、PIMでの最終製品には、「意図的添加物質」と「非意図的物質」が含有されていることになり、「非意図的物質」の安全性も要求されます。
 「意図的添加物質」の含有証明はできるのですが、「非意図的物質」については「意図的に入れていない」ことの証明は難しいものがあります。
 PIMでは、GMP(good manufacturing practice for materials and articles intended to come into contact with food)2)による管理を要求しています。
 用語の定義で次となっています。

(a)「優れた生産慣行(GMP)」とは、材料および物品が、それらに適用される規則および危険にさらされないことによって意図された使用に適した品質基準に適合することを確実にするために、食品の組成物の許容できない変化、またはその官能特性の低下を引き起こさないこと;
 (b)「品質保証システム」とは、材料および物品が、それらに適用される規則およびそれらの意図するために必要な品質基準への適合を確実にするために必要な品質であることを保証する目的で行われる;

第6条 品質管理システム
 1. 事業者は、効果的な品質管理体制を確立し、維持しなければならない。
 2. 品質管理システムには、GMPの実施と達成のモニタリングと、GMP達成の失敗を是正するための措置の特定が含まれなければならない。そのような是正措置は、遅滞なく実施され、検査のために管轄当局に利用可能にされなければならない。

第7条 ドキュメンテーション
 1. 事業者は、完成した材料または物品のコンプライアンスおよび安全性に関連する仕様、製造方法および処理に関して、紙または電子形式で適切な文書を作成し、維持しなければならない。
 2. 事業者は、完成した材料または物品のコンプライアンスおよび安全性に関連して実施された様々な製造作業と、品質管理システムの結果に関する記録に関して、紙または電子形式で適切な文書を作成し、維持しなければならない。
 3. 文書は、要求に応じて、事業者が管轄当局に提供しなければならない。

素材選択、設計、調達、生産、出荷などサプライチェーンを含めた工程を管理状態にする文書化された仕組みを構築、運用することになります。
 具体的には、自社のISO9001などのマネジメントシステムにGMPで要求される事項を組む込むことになります。この仕組みがCAS(Compliance Assurance System)になり、2018年1月12日のコラムなどで解説をしています。
 仕組み(CAS)で非意図的混入を保証することになりますが、ISO9001で品質を保証することと同じ意味合いになります。この仕組みで、非意図的混入のリスクを考慮しながら、「ものつくり」全般の標準書、監査計画や測定の必要性を決めていきます。
 仕組みは徐々にスパイラルアップでより良い仕組みに仕立て上げていきます。

論点3:移行の可能性(Q2、Q3、Q4)
 電気電子4団体のレポートで、フタル酸エステル類を含有した製品と接触した製品にフタル酸エステル類が移行するとの解説がされました。移行は、塩ビ(塩化ビニル樹脂)手袋中のフタル酸エステル類が市販弁当に移行する問題があったことや電気電子製品に含有しているフタル酸エステル類の移行に関する論文が公開されており、川中企業での対応が問題となってきました。
 これらの文献は、2017年11月2日のコラムで紹介しています。
 塩ビの可塑剤であるフタル酸エステル類の移行は文献で示されています。移行量はゼロではないものの法規制のレベルまで移行するかが論点になります。また、移行は表面になりますが、濃度の分母は何処になるのかも論点になります。
 文献による移行量は、密閉された状態で測定されています。顧客から要求されているような塩ビマットを敷いた作業台に短期間製品を置いた場合の移行とは、状況が異なります。
 EUでもフタル酸エステルの移行に関する調査報告書があります。論点4で解説する「REACH規則制限案採択意見」の附属書(156ページ)3)に、DEHPの含有濃度と移行量に関する実験データがあります。

>DEHPの含有濃度と移行量に関する実験データ

Mildは塩ビマットに製品を置いたような状態です。この報告書では、濃度と移行量の関係は確立できないとの結論をだしています。原因は、接触のタイプ、接触時間、温度、可塑剤濃度の差、可塑剤の濃度レベル、分子量および分子構造に依存するとしています。
 このような状況を踏まえて、有識者のご指導で、DEHPを30%余含有している塩ビマット上に、フタル酸エステルフリーの塩ビ消しゴム、アクリル製の文房具の定規及びポリエチレン樹脂板を置いて、移行量をFT-IR、ラマン分光で測定をしております。
 途中経過ですが、7日後にラマン分光で移行量を測定しましたが、検出下限以下でした。短期間であれば移行量は極めて少ないと推測できますが、1ヶ月程度経過後の移行量を測定する予定です。
 今後、東京都立産業技術研究センターや神奈川県立産業技術総合研究所などでのセミナーなどで、測定結果をご説明し、当サイトでも解説をします。

論点4:REACH規則との関係(Q5)
 REACH規則の制限(附属書XVII)に「Bis(2-ethylhexyl) phthalate(DEHP)、Benzyl butyl phthalate(BBP)、Dibutyl phthalate(DBP)、Diisobutyl phthalate(DIBP)」の4種のフタル酸エステルの使用制限を追加する解説を2017年10月27日のコラムとして掲載しました。
 コラムでご紹介している制限案の附属書4)に背景、理由が記載されています。
 附属書では、「4種のフタル酸エステルは合計0.1%以下にすること」が必要で「基準値が明確でない、または、0.1%以上の基準値を設定しているEU法」は、制限を適用するとしています。
 4種のフタル酸エステルは、REACH規則の認可対象物質で、日没日を過ぎていますので、認可製品以外は含有していません。EU域外製品は認可を得ないで組み込みができますので、REACH規則第58条6項、第69条2項、3項で輸入品に関する制限措置が取ることができる仕組みになっています。この手順で4種のフタル酸エステルが制限案になったものです。
 ただ、RoHS(II)指令は、2019年7月22日から4種のフタル酸エステルの含有を制限しますので、REACH規則ではなく、RoHS(II)指令で制限されます。

なお、サプライヤーにフタル酸エステル類の移行を防止するために、対応を要求するときに、下請法(下請代金支払遅延等防止法 昭和三十一年法律第百二十号)を考慮する必要がある場合があります。下請法のFAQ5)に下記があります。

(見積書提出後の変更)
 Q38. 作業内容を下請事業者に提示し見積りを出してもらい、それを基に単価を決定したいと思うが,見積書が提出された後に、作業内容が当初の予定を大幅に上回ることとなった場合に、見積書を取り直さずに発注すると買いたたきに該当するか。

A38. 下請事業者に見積書を提出させた段階より作業内容が増えたにもかかわらず、下請代金の額の見直しをせず、当初の見積単価で発注すれば、下請代金の決定に当たり下請事業者と十分な協議が行われたとはいえず、買いたたきとして本法第4条第1項第5号の規定に違反するおそれがある。したがって、下請事業者から申出のあるなしにかかわらず、最終的な作業内容を反映した再見積りを取り単価の見直しを行う必要がある。

(松浦 徹也)

1)http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=CONSLEG:2011R0010:20111230:EN:PDF
2)http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=celex:32006R2023
3)https://echa.europa.eu/documents/10162/ee2b9c90-2a1b-8742-26ec-951b0946c9ad
4)https://echa.europa.eu/documents/10162/522e2fdf-d48d-bca2-6ac1-ebcffab2287b
5)http://www.jftc.go.jp/shitauke/sitauke_qa.html

当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。 法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家に判断によるなど最終的な判断は読者の責任で行ってください。

情報提供:一般法人 東京都中小企業診断士協会

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