ここが知りたいRoHS指令

ここが知りたいRoHS指令

電子・電気部品に関する欧州の環境規制(RoHS指令)について紹介

2018.03.16

フタル酸エステル類の解説 (3)「フタル酸エステルの簡易分析」

RoHS指令への適合を確実なものとするために、フタル酸エステル分析を工程管理に活用することができます。例えば、意図的にフタル酸エステルを含有する部品を使用する生産ラインが隣接する場合、意図的に使用する部品の混入を発見するために有効です。また、製造工程内でのフタル酸エステルの移行を防止するため、製品や部品に接する容器等へのフタル酸エステルの意図的使用が無いことを分析により確認するのが有効です。
 RoHS指令の閾値1000ppm以下であることを示すための分析では、GC-MSを用いますが、フタル酸エステルを可塑剤として用いる場合は数%以上の含有率となり、意図的使用の有無を調べるためならばさらに簡便で非破壊な分析手法があります。
 このような簡易分析手法の候補として、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)とラマン分光法を掲げることが出来ます。
 どちらも試料に光を照射し、光による分子構造の振動を光により観測します。FTIRでは、分子の振動エネルギーに相当する光エネルギーの吸収による、赤外線吸収スペクトルを検出します。ラマン分光法では、入射光(レーザー光)に対して分子の振動エネルギーだけシフトしたラマン散乱を観測します。これらは、蛍光X線分析と同様に非破壊であり、被検査品をラインに戻すことができ、工程検査で有効な分析手法と言えます。さらに、大きな部品や容器の測定手法として、FTIRの全反射測定法(ATR測定)、ファイバーを用いたラマン分光法が期待されます。

FTIR、ラマン分光法に関して知っていただくために、以下に装置の解説をします。

1.フーリエ変換赤外分光光度計 Fourier transform infrared spectrophotometer(FTIR)

FT-IRの装置の構成例を図1に示します。

>FT-IRの装置の構成例

<概要>

物質に赤外線を照射すると、ある波長の光が選択的に吸収をうけます。物質を透過した赤外線の強さを縦軸に波数を横軸にとって記録すると赤外線吸収スペクトルが得られます。この赤外吸収スペクトルは人間の指紋と同じように、その物質固有のものであるから、その物質が何であるかを知るために非常に有効に利用することができます。また、物質を構成している各部の部分構造に関する赤外線吸収は、どの波数領域で起るかがあらかじめ知られているので、赤外線吸収スペクトルから未知物質の化学構造を知る上での情報を得ることができます。また、吸光度と試料の間にはランバート・ベールの法則が適用されるので、濃度既知の標準試料によって作成した検量線を用いて定量分析を行うことができます。
 FTIRの構成例を図1に示します。光源②から出た光は平行光束となりM6によってマイケルソン干渉計に入ります。この光束はビームスプリッタ⑤(BS)により半分は反射されて固定鏡④に向い、半分は透過して移動鏡③にゆき、それぞれ反射され、合成されたのち試料を経て検知器⑥に集光します。BSと移動鏡、固定鏡までの距離にd/2の差があると、移動鏡で反射された光波と固定鏡で反射された光波との間にdの光路差を生じ、そのため合成波は打消し合ったり強め合ったりします。こうして検知器からの出力はdの関数となり、これが干渉曲線を与えます。この信号をフーリエ変換することにより赤外スペクトルを得ることができます。レーザ①からの光束は、干渉計に導かれ、レーザ光による干渉縞から移動鏡の位置の検出を行う一方、BSの中心孔を通して赤外光束の光路をモニタしています

<特徴>

この方式では全波長を同時に測定し、しかもスリットが不要なため光を有効に利用でき、明るさ、感度、走査速度などの点で非常にすぐれています。高速走査の利点を活かしたGCとの接続による分離成分の同定、感度や明るさを生かした微小物質の検出、表面劣化状態や微量不純物の検出、試料を加熱して得られる分子発光スペクトルの測定、赤外光音響スペクトル測定などほとんどすべての物質の赤外スペクトルの測定が可能です。測定されたスペクトルはコンピュータ解析にかけることができます。
 蓄積された多数のスペクトルデータと未知試料とを比較照合する検索法及び部分構造の推定を行う方法があります。
 また、赤外光がプリズム内で全反射する際に生じる、全反射面に密着させた試料への光のもぐり込みを利用した全反射測定法(ATR法)によれば、試料をプリズムに密着させるだけで測定可能です。

<用途>

  • (1)高分子物質:ゴム、紙、プラスチック、繊維、布、接着剤などの分析、添加剤の検出
  • (2)公害関係:大気汚染、水質汚濁物質の分析
  • (3)食品、化粧品:添加剤の分析と劣化の究明
  • (4)半導体物質:シリコン結晶中の酸素、窒素、水素、GaAs中の炭素など不純物の定量
  • (5)医薬品:医薬品の分析とその代謝産物の分析など
  • (6)表面:化学吸着の解析研究など
  • (7)工程、品質管理:高分子共重合体の重合組成の定量など
2.ラマン分光光度計 Raman spectrophtometer

ラマン分光光度計の構成例とラマン分光の試料形態と測定法を図2、3に示します。

>ラマン分光光度計の構成例とラマン分光の試料形態と測定法

<原理>

物質に特定の波長の光を当てるとその当てた光は散乱されます(レイリー散乱光と呼ばれます)。
 また非常に弱いですが、当てた光の波長と異なる光も散乱されています。その弱い散乱光がラマン光(発見者の名に因んで付けられました)と呼ばれるものです。
 ラマン光を強くするために励起光源としてレーザ光を使います。このラマン散乱光は、その物質を構成する分子の振動(伸びたり縮んだり、角度が変化したりします)や回転に基づいてあるきまった波数だけ励起光からずれてあらわれます。その波数値をラマンシフトといいます。したがって励起波長を変えると、当然ラマンスペクトルも並行移動します。ラマンスペクトルがもたらす情報は赤外線吸収スペクトルと非常に類似して、その分子に特有であるため物質の同定ができます。またラマン強度はレーザ光の強度、分子数(濃度)に比例するため定量も可能です。
 測定方法は蛍光測定と類似しています。レーザ光をレンズで絞り(数10mm)、試料に照射し、散乱したラマン光を集光レンズで集め、分光器に導入します。ラマン光は弱く、レイリー散乱光と分離する必要上、分光器は通常二つ以上を使用し、分光された光は光電子増倍管またはマルチチャンネル検出器で検出します(参照:図2)。

<特徴>

レーザラマン分光法の特徴は赤外分光法とよく対比されます。
 第一には、水溶液の測定が容易に行えることが挙げられます。セルはレーザ光を通すものであれば何でもよく(ガラス、プラスチックなど)水のラマンも比較的弱いので水溶液の測定を得意とします。
 第二には、試料の非破壊測定があげられます。レーザ光で燃えたり、分解したりしないものであれば特別に試料を処理することなしに、そのままの状態で測定できます。
 第三には、ごくわずかな試料で測定できます。原理的にはその部分にだけ試料があればスペクトル測定は可能です。液体ではキャピラリーに入れ数μlあれば充分で、固体ではng程度でも可能です。最近はレーザビームを極力絞り(~1mm)、試料を顕微鏡下で観察しながら試料の微小部分を測定できる装置やマッピングシステムも開発されています。(図3)
 第四には、偏光測定が挙げられます。レーザ光が直線偏光しているため、偏光解消度の測定、結晶や高分子の配向を調べるのに利用されます。
 第五には、低波数の測定には赤外分光法では特別な装置が必要ですが、ラマン分光法では1台の装置で極低波数まで測定できます。無機物や結晶の格子振動の測定に有利です。

<用途>

主な用途としては分子の構造決定と未知物質の同定です。生体高分子の二次構造の決定、新物質の構造解析には以前からよく使われています。半導体やカーボン・ダイヤモンド膜の評価についても最近急速にその利用が広がっています。レーザ光を絞ったマイクロアナリシスへの応用、共鳴ラマン効果を使った時間分解測定、電極上で起こっている反応を見る電位変調ラマンなどがあります。

※ 一般社団法人日本分析機器工業会の分析の手引きから引用しました。

((一社)日本分析機器工業会 環境委員会 委員長 河合 英治)

当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。 法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家に判断によるなど最終的な判断は読者の責任で行ってください。

情報提供:一般法人 東京都中小企業診断士協会

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