ここが知りたいRoHS指令

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電子・電気部品に関する欧州の環境規制(RoHS指令)について紹介

2018.03.09

フタル酸エステル類の解説 (2)「フタル酸エステル類の分析方法」

2月23日掲載コラムに続き、外部有識者の方によるフタル酸類の解説(2)として、今回はフタル酸エステル類の分析方法であるIEC62321-8をご紹介します。

IEC62321-8では、半定量分析としてPy-GC/MS(パイロライザー付きガスクロマトグラフィー質量分析計)法、定量分析としてGC/MS(ガスクロマトグラフィー質量分析計)法、Annex AとしてIAMS(イオン付着質量分析計)法、Annex BとしてLC/MS(液体クロマトグラフィー質量分析計)法が掲載されていますが、ここでは半定量分析のPy-GC/MS法と定量分析のGC/MS法についてご紹介します。

1. 分析方法の使い分けについて

図1はIEC62321-8の中で示されている分析方法の使用例です。半定量分析を行った後、濃度により再度定量分析する流れと、はじめから定量分析を行う流れがあります。

図1. IEC62321-8 分析フロー図

図1. IEC62321-8 分析フロー図

通常ポリマーなどの製品試料を分析する場合、ヘキサンなどの溶媒に抽出した後にGC/MS等の分析機器で測定する必要がありますが、Py-GC/MSは分析試料を固体としてそのまま測定することが出来ます。そのため、短時間で分析することが出来、簡便にフタル酸エステル類の有無を判断することが出来ます。
 使い方としては、工場などで製造された製品をその場でPy-GC/MSで分析し、フタル酸エステル類の有無を上記フローにしたがい判断。基準値付近の試料のみ分析機関に委託しGC/MSでの定量分析を行うことなどが想定されます。

2. Py-GC/MS法について

写真2が半定量分析に用いるPy-GC/MSになります。定量分析にも用いるGC/MSの注入口にパイロライザーと呼ばれる前処理装置をつけた分析装置になります。

写真1. 試料カップ 写真2. Py-GC/MS装置

写真1. 試料カップ               写真2. Py-GC/MS装置

この装置を用いた測定の流れ・原理は試料を試料カップ(写真1)に採取し、試料カップごとパイロライザー上部に設置されたオートサンプラーにセットし測定を開始します。すると、試料カップがパイロライザー内部に落下し、その中で熱せられ試料中から揮発性成分のみ抽出されます。そのガスをGC部で成分ごとに分離し、MS部でフタル酸エステル類のイオンを質量スペクトルとして検出する事で測定を行います。
 この装置のメリットは、試料を直接投入して分析ができるため簡便である事、そのため溶媒を使用せず分析することが可能な事、試料量が少なくても分析が可能な事などが挙げられます。ただし、その分、装置の価格が高い上、ガスの供給が必要などのデメリットもあります。また、他のRoHS規制におけるスクリーニングで用いる蛍光X線分析とは異なり、検出されたピークの見方や判断に習熟が必要なため、工場でのスクリーニングとして使うためには使用者が技術や知識を修得する必要があるなどの注意点があります。

図2. Py-GC/MS法 分析フロー図

図2. Py-GC/MS法 分析フロー図

図2が半定量分析のフロー図になります。分析試料を細切あるいは粉砕した後、試料カップに採取秤量します。その後Py-GC/MSで測定を行います。標準物質としては、市販されているフタル酸エステル類を含有させたフィルムを用いるか、PVCをテトラヒドロフラン(高い溶解性と安定性を持つ溶媒)に溶かした溶液とフタル酸エステル類の標準溶液を混合し、溶媒を揮発させたものを用います。定量は標準物質を1濃度だけ測定し、分析試料と比較する1点検量で行います。

3. GC/MS 法について

定量分析は、試料を溶媒抽出し、その抽出液をGC/MSで測定する事で分析を行います。この方法のメリットは標準物質を4濃度以上測定した検量線を用いて定量している事、内部標準での補正、サロゲート内標準物質による回収率の確認を行っている事により、より正確なことです。デメリットとしては、ソックスレー(溶媒を還流させ固体から効率よく溶媒抽出するための装置)抽出の場合、抽出を6時間行うため分析に時間がかかる事や、溶媒やガラス器具を使うため操作が煩雑な事が挙げられます。

図3. GC/MS法 分析フロー図

図3. GC/MS法 分析フロー図

図3が定量分析のフロー図になります。試料を細切・粉砕した後、円筒ろ紙へ量り取り、回収率確認用のサロゲート内標準物質を添加、ヘキサンで6時間ソックスレー抽出を行います。放冷後、ロータリーエバポレーター(溶媒除去のための濃縮装置)を用いるか、同等の方法で濃縮をし、定容します。ここから1ml分取し、内標準物質を添加します。これを試験溶液としてGC/MSで測定を行います。
 試料が多くの有機化合物・高分子を溶解する溶媒であるテトラヒドロフランに可溶な試料の場合は、ソックスレーでの抽出の代わりに超音波抽出機による抽出を行う事も出来ます。こちらの場合、ソックスレー抽出に比べて短時間で抽出が出来ます。その方法としては、試料を細切、粉砕した後、バイアル(分析用ガラス容器)に量り取ります。テトラヒドロフラン、サロゲート内標準物質を加え、30~60分試料が完全に溶解するまで超音波処理を行い、バイアルと試料の総重量に変化が無いことを確認します。その後、バイアルにアセトニトリルを加えポリマーを沈殿させ、常温になるまで30分間静置します。沈殿をフィルターでろ過し、ろ液から1ml分取し、内標準物質を添加します。これを試験溶液としてGC/MSで測定を行います。
 標準物質はPy-GC/MS法と異なり、検量線測定の際は液体を標準物質として用い、検量線を4濃度以上用いて作成します。また、Py-GC/MS法では標準試料と試料における目的物質のピーク面積を直接比較する絶対検量線法を用いるのに対し、この方法では、標準物質と試料それぞれにおける内標準物質と目的物質のピーク面積比・濃度比を用いる内部標準法を用いて定量します。これにより、GCへの試料の注入における誤差を補正できます。

以上が、IEC62321-8のフタル酸エステル類の分析方法になります。それぞれメリット・デメリットがありますので各事業所の求める分析精度、予算などによって使い分けすると良いと考えます。

(内藤環境管理株式会社環境分析部 五月女 欣央)

追記
 筆者等フタル酸エステル類の移行性に関する有識者会議(私的会議)のメンバーによる無料セミナーが開催されます。
http://www.iri-tokyo.jp/seminar/180328mtep-phthalate.html

当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。 法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家に判断によるなど最終的な判断は読者の責任で行ってください。

情報提供:一般法人 東京都中小企業診断士協会

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