本文とサイドメニューへジャンプするためのナビゲーションスキップです。

スタートアップガイド

J-Net21 中小企業ビジネス支援サイト

  • J-Net21とは
  • スタートアップガイド
中小機構
  • メルマガ登録
  • RSS一覧
  • お問い合わせ

HOME > 経営をよくする > 中堅・中小企業の改革物語

中堅・中小企業の改革物語 中堅・中小企業が、激動の時代を生き抜く為のヒントをコンサルタントの視点からお伝えします。


第19回 製造業J社のグローバル人事への取り組み

本日は産業用機械の中堅メーカーであるJ社のグローバル人事制度改革の取り組みをご紹介します。

J社は近年事業のグローバル化が進み、アメリカ、ヨーロッパといった先進国だけでなく、中国やタイ、インドなどのアジアを中心とする新興国でも、製品開発・製造・販売の各拠点を数多く展開するようになりました。

代表的な顧客である自動車メーカーの製造拠点のグローバル化に合わせて自社のグローバル化を進めざるを得なかったという事情は、他の自動車部品メーカーと似ていますが、J社は「仕方なく」ではなく「自社の強み」としてグローバル化を積極的に展開してきた点が特徴と言えるでしょう。

最近の5年間で海外売上比率が20%以上高まり、直近では50%を超えるまでになっています。そして、今後5年間の中期経営計画では80%にまで海外売上比率を高めるというビジョンを描き、様々な経営資源のグローバル対応を進める計画を推進しています。

この計画の中で最も難しい要素が“人”でした。当初は他の一般的な会社と同様に、J社でも日本で雇用する日本人社員を海外拠点にコア人材として駐在させるケースが中心でしたが、海外売上比率上昇に伴って増えた海外拠点は20カ国・50拠点を超えるに至り、最近は経営トップ層・ミドルマネージャー層を中心に現地人材を置くケースも多くなってきました。

事業のグローバル化によって顕在化した問題

ここまでの事業の変化によって顕在化した問題は次の様なものでした。

(1)日本人駐在員候補者の枯渇

多くの会社で伺うように、J社でも海外事業の中核は日本人が担ってきましたが、海外に派遣する日本人が不足するようになり、人材の供給面が成長のボトルネックとして重大な問題になってきました。

現地化が進んではきたものの、日本人の持つ技術やノウハウはまだまだ海外に移転し切れておらず、しばらくは日本人の海外派遣を拡大していく必要がありました。

(2)現地ローカル人材のキャリア計画の不明確さ

現地で雇用した外国人であるローカル人材が増え、時間が経つにつれて、彼らのキャリアをどのように積み上げていくべきかが明確になっていませんでした。そのため、J社グループの中でどのようなキャリアを積んで成長していくことができるのかというビジョンを持てないローカル人材が離職するケースが次第に増えていきました。

J社の日本本社ではあまり気にかけてこなかったローカル人材のキャリアプランですが、今後のグローバル企業としての成長を実現するためには、真正面から取り組まなければならない課題となっていました。

(3)日本本社や海外拠点との人事交流を妨げる人事制度

海外拠点のローカル人材が増えてきて、グローバルでの事業展開が拡大するにつれ、日本人だけでなくローカル人材の中にもパフォーマンスの高い、事業の核となる人材が増えてきました。それに伴い、ローカル人材を別の拠点で活用したいというJ社経営層のニーズが大きくなってきました。

一般的に、ローカルの外国人社員は海外どころか、自国内であっても転居を伴う異動を受け入れるケースが少なく、無理強いすれば辞めてしまうリスクが高いものです。そのため、これまでは採用した現法内での活用だけを考えていましたが、発揮するパフォーマンスが高まるにつれ、日本本体を含めた海外への配置も検討が必要になってきました。

ところが、J社の人事制度は海外現法間で全く共通性がなく、日本本体で使っていた評価シートをそのまま利用している所がいくつかある程度でした。そして、共通の人事制度がないことによる次の様な問題が認識されるようになりました。

  • 同じレベルのポジションであっても現法が異なると全く異なる賃金水準となっており、別の現法に動かすと外国人社員間での賃金格差が顕在化して不満につながる恐れがある。
  • 評価基準が異なるため、海外現法間での外国人社員の能力レベルなどを比較しにくく、どこにどんなレベルの人材がいるかを把握しにくい。
  • 以上のような問題から、複数の拠点にまたがるグローバルなキャリアを積んだ人材を育てたくても、外国人社員を対象には行いにくい。

J社経営陣は、このような人材面の問題を重要視し、特に問題意識の高い社長自らが指揮を執って、グローバル人事制度構築のプロジェクトを推進することになりました。プロジェクトは、結果として2年にわたる大きな取り組みとなりました。

役員が定期的に参画する体制を敷くことで、意思決定が滞ることはありませんでしたが、人事制度についての理解レベルにはかなりのバラツキがあったため、J社の現状の人事制度の仕組みや運用実態などについてじっくり理解を共有することから始めました。

また、海外現法のトップである外国人経営陣を中心に、何回かのグローバル経営会議などの場を通じて改革の方針を説明することで、不安・不満を煽らないように進めていくことができました。

構築された人事制度は、次の様なものとなりました。

  • 管理職層を対象としたグローバル共通のジョブ・グレード体系
  • 各国の賃金相場を踏まえつつ、グローバル共通のジョブ・グレード別レンジ(上限・下限の幅)を持つ賃金制度
  • ジョブ・グレード別のグローバル共通コンピテンシー評価制度
  • 業績(結果)面とプロセス面双方の目標達成度に基づく成果評価制度
  • 標準的なキャリアモデルをベースに運用するキャリア開発制度とコア人材育成体系

ジョブ・グレードについて

これらのうち、特に諸制度の核となるジョブ・グレードと、設定が難しい賃金制度について、どのような考え方で制度化されたかを説明します。

ジョブ・グレードとは、ジョブ・サイズとも呼ばれる“仕事の価値”を基準とした等級制度です。日本で多くの企業が採用している職能等級(または職能資格)は“職務遂行能力”を基準とする等級制度で、どのような仕事をしているかではなく、どのような能力を持っているかによって等級が決まります。

そして、等級に応じて賃金水準も定まるのが一般です。このため、能力が高ければ仕事のレベルが低くても高い賃金が支払われることになり、人件費が過大になってしまうケースがよく見られます。

J社の経営陣には賃金が過大であるという認識はありませんでしたが、グローバルで共通の制度にする上では、日系以外の企業の大半が採用しているジョブ・グレードの方が多くの人の納得を得やすいと考え、異論が出ることもあまりないまま日本国内の関係者の合意を得ることができました。

特に、経営陣は、月の半分を海外出張しているような状況で、海外現法の外国人経営陣の理解を得ることが難しいということを肌で感じており、海外でスタンダードになっている制度とすることで納得してもらいやすくなると判断しました。

海外現法の様々なポジション(職位)をジョブ・サイズに応じた5つの階層に大きく括り、日本のJ社本体のポジションも含めて共通のジョブ・グレードを定めることになりました。結果として、ジョブ・グレードの考え方と5階層のグレード化には、外国人経営陣の理解が比較的スムーズに進み、まずはグローバル人事制度の中核の一つが方針として定まりました。

なお、日本本体の管理職については、グローバルで活躍する人材をジョブ・グレードに移行することとし、少数のその他の人材は従来の日本本体の制度にとどまることにしましたが、ジョブ・グレードよりも低いレベルの等級・賃金に抑えられることにし、グローバル人事制度の方に魅力を持たせて、日本本体の社員全体がグローバルでの活躍を志向するようになることを狙いました。

賃金制度について

次にやっかいなのが、賃金制度です。ジョブ・グレードに応じた賃金は、結果的に各国の相場に応じた年収ベースでレンジを定めることになりました。

日本を含めたグローバル共通のレンジを広め(ジョブ・グレードにより異なりますが、日本円で概ね100万円~200万円以上)にとることで、原則としてグローバル共通の年収レンジとなり、当初から構想していたグローバル共通の賃金水準設定に近いものとなりました。

ただし、まず世間相場をどのように測るかで様々な議論がありました。各地域の相場は無料で公開されているものもあれば、データ提供サービス会社から購入するデータもあります。公開データの場合は、コストがかかりませんが、各国・地域ごとに収集する場合の手間や、データの算定基準が異なっている場合には比較が難しいといった問題があり、敬遠されました。

購入データの場合はコストが毎年のようにかかる点に多少の問題はありましたが、比較的低価格で購入できる主要国別の日系企業のデータなどを活用することに落ち着きました。

他にも、人材斡旋会社からデータを入手できるのでは、といった議論もありましたが、人材斡旋会社という特性から多少高めのデータになる可能性も予想される、といった意見もあり、採用されませんでした。

ジョブ・グレードに応じたレンジの設定根拠を明確に示せなければ、特に海外現法の外国人経営陣の理解を得にくいため、できるだけ客観的な根拠を示せることを重視してデータを選定することになりました。

次に、レンジをはみ出すケース、特に上限をはみ出す社員の扱いが問題になりました。既に雇用している外国人社員について、レンジ上限まで徐々にでも減額していく措置はとれない、という結論に至りました。

適正なレンジにゆくゆくは収斂させていくことが望ましく、減額措置が必要ではないかという意見もありましたが、退職してしまうリスクや訴訟に至るリスクが日本人相手よりも大きいと判断し、最後は社長の判断で減額措置はとらないこととなりました。

議論の過程で、最後は社員個々人を取り上げながら、制度としての問題を検証していきましたが、「この人は辞めてしまうかもしれない」という覚悟も持ちながら意思決定することになりました。

以上は年収の水準設定の話ですが、毎年の支給額改定の仕組みについても説明しておきます。まず、日本的な毎年の昇給の仕組みはありません。J社本体では典型的な定期昇給の仕組みを持っていましたが、グローバル人事制度では定期昇給という概念はなくしました。

管理職ポジションを対象とした制度であることから、年収水準が非管理職よりも相対的に高く、ジョブ・グレードに応じた基準額は一定にすることとし、定期昇給でモチベーションを持続させる考え方にはしませんでした。

そして、各現地法人の業績と個々人の人事評価(成果評価に若干のコンピテンシー評価を加味)によってボーナス相当部分を変動させる、いわゆる「洗い替え」のようなものにし、主に成果によって高い賃金を獲得してほしいというメッセージ性を持たせたシンプルな仕組みとしました。

以上の基本的な年収の決定の仕組みはグローバル共通のものとしましたが、その他の手当類や福利厚生施策は、国による労働法制や慣習などの違いもあるため、各現地法人のローカルルールとして引き続き個別に設定することとしています。

中には導入後に、日本本体のコントロールが強まるように見えることに強く反対して辞めた外国人もいましたが、全体としてはコンセンサスを得て運用を続けています。

今後の大きな課題

以上の他にも、日本人と外国人をともに対象とした人材育成施策を構築し、グローバルで活躍を志向し、必要な能力を持つ人材を増やしていくことを狙う総合的な制度改革を行い、導入から2年ほどを経て狙いとした効果は徐々に上がってきていると評価しています。

今後の大きな課題として、国をまたいで別の海外現法に移る外国人社員を増やしていくことがありますが、無理に行えば人材流出リスクが高まるため、慎重に進めていく方針です。

先にも述べましたが、これら一連の改革が大枠でうまく進んでいるのは、日本本体の人事部門のエキスパートが適切に推進をコントロールしているのはもちろん、社長をはじめとした経営陣が常に意思統一を図ってリーダーシップを発揮していることが非常に大きいと言えます。

様々な改革でも同じことが言われますが、多様な人材を対象とするグローバルの取り組みでは特に重要な点であることを最後に指摘しておきたいと思います。

<本稿は筆者の見解に基づくものです>

筆者

斎藤 正宏氏

斎藤 正宏氏

株式会社日本能率協会コンサルティング
HRM革新センター長 チーフコンサルタント

機械系メーカーでの人事実務を経て人材マネジメントを専門とするコンサルティングに従事。人事制度改革を中心に、人材育成体制の構築や評価者訓練、労務管理研修など、人材マネジメントに関する総合的な支援を行っている。近年は、中国・上海やタイを中心としたアジアでの日系現地法人の人事制度改革支援など、グローバルな活動が増えている。

出典:NEC運営サイト「N-town」<中堅・中小企業の改革物語>

掲載日:2015年1月13日

前の記事次の記事


このページの先頭へ