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中堅・中小企業の改革物語 中堅・中小企業が、激動の時代を生き抜く為のヒントをコンサルタントの視点からお伝えします。


第17回 ソフト開発会社T社の物語

グループウェアを活用して会議の時間短縮を目指したT社

今回紹介する企業は、システム受託開発会社T社(活動開始時点では従業員200名程度、後に500名程度まで拡大)でのグループウェアの活用事例です。(グループウェア商品自体の宣伝にならないように、ここではグループウェアの名前は伏せておきます)

T社は親会社(機器メーカ兼システム販売会社)を主たる顧客とし、ソフト・システムの開発を行っている会社です。親会社から仕事がくるため、仕事上の競合はほとんどありませんが、厳しい納期・厳しい価格要求があっても断りにくいという親会社・子会社関係にありがちな悩みはあります。

親会社(顧客)から、「開発の進捗状況を知りたい」と聞かれるたびに、リーダーは資料を準備して報告をしていました。リーダーが開発の状況を把握するために、それぞれのプロジェクトで週例会が開催されていました。複数プロジェクトを掛け持ちしている人は、週に何時間もミーティングに時間がとられていました。「事前に情報共有をしておけば済むような内容の報告は勘弁して欲しい」というのが多くのメンバーの本音でした。

そんな状況で、グループウェアの活用の取り組みが始まりました。「会議で、進捗状況をひとりひとり説明するのはやめよう。日々、各自がグループウェアに開発状況をアップして、リーダーはそれをいつも見るようなワークスタイルになれば、情報報告の会議の時間は大幅に短くできる。フェイスToフェイスの場は、技術的な悩みの解決策の検討に使おう。」と、グループウェアの活用を始めました。

システム活用普及 成功のポイント

グループウェアを活用しようという趣旨には反対する人はいませんでしたが、いざ取り組みが始まっても、なかなかシステムが使われません。多くの人は、「本当に皆やるのかな?」という感じの様子見の姿勢のままでした。一部ですが、「うちの会社、こういうの定着したためしがないから、今回も失敗するよ、きっと。」という人もいました。

そんな中、活動をひっぱるI部長、M課長らは、地道な啓発に努めました。ミーティングの度に、「その情報、事前にグループウェアにアップしておいてくれたら、ここで話をしなくてもいいんだよ。会議の場で初めてそれを聞いても、すぐに判断できないこともあるから、事前に情報共有しようよ。」というような丁寧な投げかけを毎回続けました。

それらは、上司から部下への“命令”ではなく、新しいワークスタイルにしようという“呼びかけ”でした。グループウェアは(に限らずですが)、その人が必要性を実感しない限り継続して使わないものです。命令では一時的に人を動かすことができますが、上司が代わったりしたらすぐに使われなくなってしまいます。I部長・M課長らは、都度都度望ましいワークスタイルを具体論(具体例)で話して、時間をかけて活用する仲間を増やしていきました。部門のメンバー全員があたりまえに使うようになるまで半年ぐらいかかりました。

グループウェアへの情報(スケジュール、開発資料、打合せ議事録等)登録のしかたのルールは、あらかじめ作ったものではなく、使っていく中で自然発生的かつ自律的に決まっていきました。現場実態がよく判っていない人がルールを作ったのではなく、毎日使う人たちでルールが作られ改良が加えられていきました。

おおむね普及した翌年度、その会社にも十数名新入社員が入ってきました。その新人もOJTを通じて少しずつ仕事を覚えていったのですが、OJTの現場には例年とは違う光景がありました。

先輩社員が新人に対して、「君が作ったドキュメントは必ずここにアップすること。他の人が作った資料は必ずここに登録されているから全て目を通すこと。仕様変更やスケジュール変更は必ずここに表示されているので、見落としをしないこと。情報は間違いなく最新のものになっているから、知らないというのは許されないからね。アップしない奴が悪い、毎日見ない奴が悪い というのがうちの常識だから。・・・」と教育していました。(筆者は偶然この現場を目撃したのですが、それはもう絶対のルールだという感じで躾けていました。)

自然発生的につくられたルールが、あるタイミングからは組織の公式ルールとして運用されはじめたのです。以後、新人が入るたびに、このようなルールの躾が行われたこともあり、運用開始から2年も経ったときには、グループウェアで開発状況などを共有化することは完全にワークスタイルとして定着しました。

ある人は、「グループウェアがなかった頃にどのように情報をやりとりしていたのかをもう思い出せない。昔はどんな方法で情報をやりとりしていたんだっけ?」と真顔で言っています。まさにそれを使うのが皆あたりまえになった、活用が定着した状態になったのです。

効率化の測定方法

ここまで紹介したように、T社でのグループウェアの活用の取り組みは成功裡に終わったのですが、後日談がいくつかあります。(実は後日談のほうが面白い話です)

数年後に親会社から移ってきた取締役(管理部門管掌役員)が、グループウェア等のIT投資の額は小さなものではないので、これらの投資は本当に効果を生んでいるのかと疑問を投げかけました。

各人のパソコン等ハード費用も含めればもちろん安くない額の費用発生しているわけで、会社に来て間もない取締役にしてみれば当然の疑問でした。そこで、部門長に「IT投資がどれだけ成果を生んでいるのかを各部門でとりまとめ報告せよ」という指示が下りました。

困ったのは現場です。既にグループウェアは日常業務にはなくてはならないものになっていて、稀にサーバーの調子が悪くなると「仕事にならない」と言って情報システム部門に感情的なクレームが押し寄せるぐらい当たり前のインフラになっていました。今さらグループウェアの投資対効果を示せと言われても、どう測っていいものか現場は悩みました。

「グループウェア導入前の業務と比較して、それぞれの業務が○○%程度効率化できた。」と言っても、どこかウソっぽいし、「その根拠は?」と問われても感覚的なものとしか返事ができません。感覚的な数字を積み上げて報告することにどれほどの意味があるのかと頭を抱えることになりました。

「昔にくらべて、格段に便利になったし、情報の意思疎通のミスによるトラブルもほとんどなくなった。成果は実感できているのに、どう成果を算出すればいいかわからない。帰る時間が早くなったわけでもないし、暇になったわけでもなく、自分達は昔も今も忙しいんだけどね。間違いなく昔よりもいっぱい仕事をしているよ。」というのが現場の実感でした。

そんな議論を重ねる中でその会社は気がつきました。「そうか、昔に比べてどれくらい時間が短縮できたかで計るのではなく、昔やっていなかった仕事を今はこんなにもやっているというような測り方をしてはどうだろうか。」という着眼に至りました。そこで、各人に、同じようなプロジェクトを思い浮かべて、昔はやっていなかったけど今はやっている業務内容を書き上げてもらうことにしました。

実は、ISO関係の業務、バグ管理の業務、新技術の勉強時間、顧客先に出向いての打合せ等、冷静に挙げると、昔に比べて多くの仕事をプロジェクト業務の中で行っていることがわかりました。「減った仕事時間を測定するのは難しいが、増やすことができた仕事量を明らかにすることならできる。」という発想で、各人に増やすことができた仕事を挙げてもらうようにしました。その積上げ(時間値)は相当なもので、大げさでなく20%以上の仕事量の増加にもかかわらず、業務時間は昔とそんなに変わっていないことがわかったのです。

冷静に考えると、もう一つ成果の測り方がありました。それは、「もし、このグループウェア(の各機能)が使えなかったら、どのくらいの時間が余計にかかるのだろうか?」という測り方です。T社ではグループウェアは可動率(availability)が極めて高い“インフラ”でした。

それがもし止まって使えなくなったら、どのくらい困るのかという観点で皆にアンケートを取りました。その結果は火を見るより明らかでした。問題提起した取締役の人も納得(安心レベルではなく、感心レベル)して、以降この会社ではこの類の話題は上がらなくなりました。

もうひとつの後日談ですが、この取り組みの成功後数年して、このT社は、親会社のソフト開発部門の一部および関連企業と合併し新会社になりました(500人規模)。合併した際に、もともとT社でなかった人たちから、「こんな便利にグループウェアを使っていたんだ!」と驚かれたそうです。

決定的に何が違ったかというと、T社出身者とそれ以外会社の出身者の日々の情報共有の基本動作の徹底度合でした。入社以来、グループウェアで情報共有するのがあたりまえと教え込まれてきた経験数年の若手のワークスタイルが大きく違っていたのです。

システム活用の学習能力という組織能力

T社はグループウェア導入で開発現場の仕事はよくなりました。この取り組みを推進したI部長は、「グループウェアの導入経験は、その後の各種ツールの導入において大変役にたちました。丁寧に必要性と操作方法を説明し、よい活用を褒め、使う人間を地道に増やしていけば、システム活用は定着することを、組織として学習できたのです。」と言われています。

T社(合併後は会社名が変わりましたが)では、その後、バグトラッキングシステム、リスク管理システム、・・・いくつかの新しいシステムの導入をしてきましたが、いずれも導入に頓挫することはありませんでした。I部長は、「中小企業だから、こういうアプローチがとれるのかもしれません。親会社だったら、こんな方法はとれないかもしれませんね。」と笑って話をされています。

<本稿は筆者の見解に基づくものです>

筆者

塚松 一也氏

塚松 一也氏

株式会社日本能率協会コンサルティング
経営コンサルティングカンパニー R&D組織革新センター チーフ・コンサルタント

研究開発の現場で、ナレッジマネジメントやプロジェクトマネジメントなど組織のチェンジマネジメント(ワークスタイル変革)のコンサルテーションを展開。正攻法でじっくりと変革することに特徴がある。

出典:NEC運営サイト「N-town」<中堅・中小企業の改革物語>

掲載日:2014年12月22日

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