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中堅・中小企業の改革物語 中堅・中小企業が、激動の時代を生き抜く為のヒントをコンサルタントの視点からお伝えします。


第9回 繊維製品メーカーY社の物語

世代交代をきっかけに品質保証基盤を改革

今回は、とある中堅企業の品質保証の改革についてご紹介したいと思います。ここに紹介するのは、従業員約80名のある繊維製品メーカーでの改革活動です。Y社はカーペット等リビング用の繊維織物を製造しており、創業以来、オーナー社長が敏腕を振るい業績を伸ばしてきました。しかしながら、日本の繊維製造は中国とのコスト競争の波にもまれ、中堅の企業は淘汰されてきました。Y社もその岐路に立たされた会社の1つでした。

そのような中、Y社に1つの転換期がやってきました。それは世代交代です。創業社長も高齢となり、また社長と共に工場を立上げ会社を引っ張ってきた方々から新しい世代への交代をしなくてはなりませんでした。収益の低迷から脱却を図るには、この世代交代の成否がキーとなると社長は考えました。新体制を築き、新しい事業のコアを作らねばならないと。この改革の中心となったのは、次の社長を担う方でした。

生まれ変わりの軸にしたものは、「品質保証」でした。決して製品クレームが多かったわけではありません。新しい技術も取り入れ、新商品も投入してきました。しかしながら、それは創業してきた世代の「人」に依存したものであって、“組織”としてお客様に安心していただける品質保証体制が築けているかと言えば、大きな弱点でした。これに気づかされたのは、新たな市場、自動車産業への参入を画策した時です。リビングから自動車用カーペットへの参入には、品質保証という大きな壁があったのです。

ISO9001による品質保証改革の成功

品質保証と言えば、ISO9001の品質マネジメントシステムが当然のことながら頭に浮かんできます。世の中ではISO9001が普及しており、認証登録をしているのが当たり前とさえいえる状況です。今までもISO9001認証取得を考えたことはありましたが、その必要性や会社にもたらす効果がいまひとつ消化しきれず、導入に踏み切りませんでした。

何を変えていくのか、これを考え抜いた結果、次のような結論に至りました。

1.自信をもってお客様に見てもらえる「良い品質を生み出せるしくみと管理」を作る。
2.新しい世代が自分たち自身の手でしくみを作りあげることにより、考える組織と人を作る。
3.自動車メーカーに認められ、新たな商品と顧客を勝ち取る。
 ISO9001をベースに、これらを実現する品質マネジメントシステムを作り上げることにしたのです。

営業、開発、製造、品質管理、資材調達、物流、総務の各部門より、次世代のリーダーとして期待するメンバーを集め、プロジェクトを編成し活動を開始しました。Y社の品質マネジメントシステム構築活動において、特に力を入れて活動したのは、次の点でした。

1.各プロセスの弱点を徹底的に議論し洗い出し

まずは、自分達の今の会社の全プロセスに渡って、お客様視点で管理の弱点を議論しました。今まで何気なく行っていた仕事の1つ1つの意義、機能を、「なぜ必要か、何が足りないのか」、「お客様はなんというだろうか」を、自問自答で議論したのです。ISO9001規格ありきで必要な管理を安易に考えない、この出発点はその後の品質マネジメントシステムに大きく影響を及ぼすところです。ここで、プロジェクトメンバーが得たものは、「理論武装」でした。

安心を与えられるということは、「なぜならばこうだからです」という理論武装ができるということで、手段は目的から生み出されるということを理解していきました。もちろん、今まで知らない自動車産業をターゲットにおいていましたので、それを勉強しつつの議論です。私もこの議論を牽引するにあたり、様々な疑問をメンバーに投げかけ、彼らなりの結論を導き出すように仕掛けました。活発な議論ができたと思います。

2.人材育成を中心に据えた活動の展開

しくみを構築していく中では、現場がそれを廻せるだけの理解が備わっているかが重要となります。新たな管理手法やツールを設計・開発から製造、品質管理に渡って導入していきましたが、その意味や目的をきちんと理解して使えるようになるのは一筋縄ではいきません。多くの時間を費やしましたが、“世代交代”の旗印の下、方針がぶれることの無いよう妥協をしてはならない部分でした。しくみの検討結果から、必要な管理ツールを体系化整理し、半日程度の研修を現場ごとに展開しました。

今まで使っていたQC工程表や作業標準書なども、その意味や使い方を改めて理解しました。管理だけではなく、基礎となる原材料や設備など固有技術の領域も網羅するように体系化しました。この活動の結果、しくみとリンクした「教育・訓練体系」を作りあげることができました。知識が備わるだけでなく、自らに対する会社の期待を実感として感じ、日常の会話も変化してきました。「考える組織とひと」への変化です。後にお客様から最も評価されたのは、この教育システムでした。

約1年半のプロジェクト活動の期間を要しましたが、認証取得も行い、同時並行で進めてきた営業活動も実を結び、自動車用カーペットの新たな受注も成功することができました。当初は難しいとされていた自動車産業への参入を成し遂げたのです。そして何より、次世代リーダーの自覚が生まれ、思考が変わり、成長を始めました。Y社がISO9001による品質保証改革に成功した要因は、目指す姿が明確であり活動がぶれなかったこと、ISO9001なのに規格起点で考えなかったこと、そしてこの活動を将来への投資として人材を含め十分なリソースを投入したことにあるかと思います。

現在、ISO9001は多くの企業が導入していますが、その成果については、疑問を感じている企業も少なくありません。形骸化している、審査に傾倒した活動になってしまっている、成果が数値などで見えにくいなどがその理由の多くを占めます。ならば、もう一度原点に返って品質マネジメントシステムを見直す時期がきているのではないでしょうか。

一度作り上げた完成しているかのようなしくみを刷新するのには、大きなパワーを必要とします。思考の視点を変えなくてはならないかもしれません。そのきっかけは、会社自身が自ら作り出さねば始まらないのです。経営環境が次々と変化する中、品質保証は最大且つ不可欠な基盤であります。その変革こそが今後の事業基盤となるものであり、事業成長の鍵を握っていると言っても過言ではありません。「品質の戦略」をどのように考えていくのか、何を仕掛けていくか、皆様もお考えいただければと思います。

<本稿は筆者の見解に基づくものです>

筆者

安孫子 靖生

安孫子 靖生氏

株式会社 日本能率協会コンサルティング
経営コンサルティング事業本部 シニア・コンサルタント

1992年、日本能率協会コンサルティングに入社。品質保証体制の構築、品質改善を中心にコンサルティング活動を展開し、品質を軸にした営業から設計・開発、製造、物流までのプロセス全体を通した業務改革を推進している。ISO9001をはじめ、ISO/TS16949など各種の品質マネジメントシステム構築についても、製造業からサービス業まで多くの業界での支援実績を持ち、効率的且つ効果的な品質マネジメントシステムのあるべき姿を追究している。

出典:NEC運営サイト「N-town」<中堅・中小企業の改革物語>

掲載日:2014年10月20日

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