ここが知りたいREACH規則

ここが知りたいREACH規則

EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介

2018.11.30

廃棄物枠組み指令に基づくECHAによる成形品データベースの検討状況

本コラム(2018年8月31日)で、REACH規則の2次レビューを取りあげました。REACH規則の現状課題に対応するための今後の活動項目の一つとして、『「循環型経済(Circular Economy)活動計画」によって「材料や製品中の高懸念物質を追跡する仕組み」が必要』であるとされました。2018年6月の廃棄物枠組み指令の改正によって、2019年末までに欧州化学品庁(ECHA)に成形品中の認可対象候補リストに収載された物質(CLS)のデータベース(以下、成形品データベース)を構築することが義務付けられました。
 これを受けて、ECHAは成形品データベースの検討を開始しています。今回は、現状の検討状況を紹介します。

1.ECHAによる成形品データベースのシナリオ案の概要

ECHAは成形品データベースの基本的な考え方を示したシナリオ案)を9月20日に公表し、10月9日までの意見募集を実施しました。
 公表されたシナリオ案では、成形品データベースの主要目的として、次の3点があげられています。

  • 成形品中のCLSの代替促進によって有害廃棄物を削減する。
  • 成形品中のCLSを追跡管理できる情報を有することで、当局が成形品のライフサイクル全般で適切な措置を講ずることを可能とする。
  • 廃棄物処理業務の改善に必要な情報を提供する。

そのために必要な成形品データベースの基本的な考え方として、従来のような成形品中の個々のCLSごとに届出を求める「物質アプロ―チ」ではなく、個々の成形品または複合成形品単位での届出を求める「成形品アプローチ」を採用することが示されています。
 例えば、複数のCLSを含有している成形品の場合、前者であれば複数の届出が求められますが、後者であれば複数CLSをまとめて届出する考え方です。ただし、複合成形品の場合には届出としては1つにまとめられますが、提出する情報は複合成形品を構成するCLSを含有する成形品単位で詳述することが求められています。
 次に、届出の義務対象者として、成形品の製造者、成形品または複合成形品の輸入者、成形品を複合成形品に組み込む加工者、流通業者など、成形品を上市するすべての成形品供給者が該当することになっています。シナリオ案では、「鉛筆削り」を例にあげ、鉛筆削りを構成するねじ、刃、筐体、包装材といった個々の成形品の製造・輸入者はもとより、それらを組み合わせて「鉛筆削り」を製造する加工者、完成した「鉛筆削り」の輸入者、鉛筆削りの流通・小売業者のすべてが対象であることが示されています。

このように、ねじや筐体などの個々の成形品からそれらの複合成形品までの成形品のサプライチェーン全体ですべての供給者を対象とすることから、届出された情報のサプライチェーンでの紐づけや川上企業が届出した情報を川下企業が流用できるようにするための仕組みとして、「固有識別子」の導入も提案されています。この固有識別子を含む届出に必要な情報要件としては、REACH規則第33条の情報伝達項目を元に、次の4つの項目があげられています。

  • 企業情報
  • 成形品情報(固有識別子等)
  • CLS情報
  • 安全使用情報

なお、届出された情報はすべて公表することとし、情報を秘匿するための、営業機密情報(CBI)申請などの仕組みは不要であるとされています。

2.産業界などの意見

シナリオ案に対する意見募集の結果、EU域内やノルウェー、米国、日本、カナダ、メキシコの当局や産業界、廃棄物処理業界、NGO団体などから、合計116件の意見が寄せられました。このうち、欧州自動車工業会(ACEA)やDigital Europe、欧州手工業・中小企業連合会(UEAPME)など欧州の主要な12の成形品製造業界は連名で意見を公表)し、循環型経済(Circular Economy)の実現に向けた措置としては、複雑な成形品データベースを構築するよりも、リサイクル技術や分析、試験方法の研究開発を進めることが効果的であると述べています。
 また、シナリオ案に対しても、主に次のような懸念事項をあげ、各業種・業態の状況に応じて柔軟で効果的な施策となるよう再検討するよう求めています。

  • 詳細かつ膨大なデータを提供しても廃棄物処理業者に有効な情報とはなり得ない。
  • 複合成形品での対応が困難である。
  • CBIによる知的所有権の保護はEU企業の競争力にとって非常に重要である。
  • すでに産業界で活用している成形品中の物質に関する既存の情報伝達ツールがあるが、情報要件に対応するためにはさらなる改良・投資が必要となる。
  • EU製造業、特に中小企業の負担が高まる。
  • 補修・修理などによって使用段階で製品含有化学物質情報が変化する場合がある。

なお、これら寄せられた意見の概要などについては、10月22~23日に開催されたワークショップ)で報告されています。

3.今後の予定

意見募集やワークショップの議論を踏まえて、引き続き成形品データベースの要件検討は継続されますが、約1年後の2019年末を目途にデータベースを構築することが予定されているため、あまり検討する時間はありません。現状のシナリオ案と産業界の意見や現在の取組み状況との間の差異をどこまで埋められるか、今後の検討内容を注視する必要があります。

今回の成形品データベースはEU域内の成形品供給者が対象であるため、EU域外の日本企業は直接義務を受けるものではありません。ただし、EU域内の成形品供給者がこれまで以上に成形品中のCLSへの対応に力を入れることが想定されるため、EU域外企業への情報開示要請は今後高まっていくものと想定されます。

また、すでにECHAでは、REACH規則の登録に基づく物質単位の「登録情報データベース」がすでに運用・公表されています。またCLP規則附属書VIIIに基づく危険有害性を有する混合物を対象とした混合物単位の「中毒センター届出データベース」の運用が予定されています。さらに、CLSを含有する成形品を対象とした成形品単位の「成形品データベース」が構築されれば、物質から混合物、成形品までのサプライチェーンを一連の情報がECHAのデータベースで収集・管理されることになります。

REACH規則では、第118条~120条でECHAなどが収集した情報の管理について定めており、混合物の全成分や正確な製造・輸入量、サプライチェーンの当事者情報など、企業活動の利益を損ねる特定情報や企業機密情報を除き、インターネットを通じた一般への情報開示や必要に応じて第三国や国際機関への情報開示が可能となっています。

世界各国でこれまで収集・管理されていなかった情報をEUが先導して把握を進めることで、今後は、EU域外各国の規制動向にも影響を及ぼす可能性も想定されます。

1)成形品データベースのシナリオ案
2)12団体の意見
3)ワークショップ

(井上 晋一)

当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。 法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家に判断によるなど最終的な判断は読者の責任で行ってください。

情報提供:一般法人 東京都中小企業診断士協会

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