ここが知りたいREACH規則

ここが知りたいREACH規則

EUの化学物質関連規則を統合するREACH規則について紹介

2018.02.09

ナノ物質の規制に関する情報の整理

ナノスケール物質は化粧品、塗料やワックスなどの身近な製品にも利用されてきています。ナノシルバーやナノスケール酸化亜鉛などは、既存物質なのか、新規物質として取り扱うのか、バルクとナノスケールで有害性が変わるのかなど、論議を呼んでいます。
 EUでの規制については、2017年2月3日のコラム「REACHにまつわる話(64)-ナノマテリアル登録のガイダンス案について-」、2017年10月17日のコラム「REACHにまつわる話(70)-ナノマテリアルに関する登録情報要求のための附属書改正案について-」に解説がされています。

Chemical Prioritization Process

ナノスケール物質含有の塗料の塗装などの密封工程使用であっても、不良手直しなどの非定常作業や設備メンテナンスがあり、廃棄は、通常の寿命による廃棄もあれば、事故などの異状処理もあります。
 ナノスケール物質の扱いは、サプライチェーンの川中の工程が多く、当然ながら日本法が適用されます。サプライチェーンの上流から川下に向かって、塗装、加工、組立され、消費者による使用がされ、最終的に廃棄されます。
 ビジネスとしてナノスケール物質の扱いを継続していくには、破棄までのサプライチェーン全体を俯瞰し、適用される法規制、ばく露シナリオをまとめる必要性があります。
 消費者向け製品では、製造物安全一般指令(2001/95/EC The General Product Safety Directive:GPSD)1)が適用されます。GPSDにより、安全な商品しか販売してはならないのですが、消費者は思いもかけないような使用方法をとることがあります。想定外の主張が通るように間違った使い方を深く考えたエビデンスが必要となります。
 このコラムでは、その後EUで大きな変化がなく、日米を中心としたナノスケール物質の製造、ビジネスとしての加工工程(複数工程)、消費者使用、廃棄に関する情報の整理をしてみます。

1. 法規制の動向

ナノスケール物質に関連する主要法規制を調査しました。
 国により、ナノフォーム、ナノマテリアル、ナノスケール物質など用語は若干の差異があります。このコラムでは、原文の用語をそのまま採用して記述します。

(1)アメリカTSCA(The Toxic Substances Control Act)の規制
  • TSCAはヒトの健康と環境に対する不合理なリスクから保護する方法でナノスケールの材料を製造し使用するために、EPA(United States Environmental Protection Agency)はTSCAの包括的な規制アプローチを追求しています。
  • 新規および既存のナノマテリアルに関する情報収集ルール
     TSCA 第8条(a)による報告義務をナノ物質に適用することを決定しました。詳細規則はTSCA 40 CFR Part704.20(ナノスケールで製造または加工された化学物質)2)で、解説3)もあります。(CFR:the Code of Federal Regulations 行政法規集)
     最終規則は、特定の化学物質がナノスケールで製造または処理される際の報告および記録保管要件を定めています。具体的には、これらの化学物質を製造または処理する者、またはEPA(U.S. Environmental Protection Agency:米国環境保護庁)に、化学物質を製造する者(輸入を含む)または処理するか、もしくは製造または処理する意思がある者に、特定の情報を電子的に報告することを要求しています。
     報告は、報告者が知っている、または、合理的に確信できるのであれば、特定の化学的同一性、生産量、製造方法および処理方法、ばく露および放出情報、ならびに環境および健康影響に関する既存の情報を含めます。このルールは、特定のナノスケール材料の既存の離散形態についての報告と、それらの新しい形態が製造または加工される前のある種のナノスケール材料の新しい離散形態に対する報告が要求されます。この報告は1回です。
     EPAは次のような考え方を示しています。
     ナノスケールでは、物質の物理的、化学的、電気的および生物学的性質は、マクロまたはバルク形態で異なります。これらの他の特性は、広範な環境、商業、産業および健康上の利益をもたらし、ナノ物質の使用のための新しい用途が毎日発見されています。しかし、ナノマテリアルが環境や人間の健康に危険をもたらす可能性があるという科学的証拠が増えています。EPAは、最終規則が、ナノスケールの物質が環境や人間に害を及ぼす可能性がある、あるいは起こりそうであると結論づけていないことを説明することに注意しています。
     集められた情報が、TSCAに基づくさらなる措置が必要かどうかを判断する際にEPAを支援すると主張しています。

  • 新しいナノスケール物質の製造前通知(Premanufacture Notices PMN)
     TSCA 第5条(PMN)(a)(5)にアーティクルに対するSNUR(Significant New Use Rules重要新規使用規則)があります。
     EPA長官が、SNURに基づく規則のなかで、その規則の対象となるアーティクルまたはアーティクルのカテゴリにより、化学物質のばく露に対する合理的な可能性による正当化できる届出を認定した場合、長官は、SNUR指定権限に基づくアーティクルまたはアーティクルのカテゴリの一部として化学物質の輸入または加工に対して本条に基づく届出を要求することができます。(改正TSCAの強化部分)
     また、SNUR対象外(第5条1)(A)(ii))であっても、EPA長官が化学物質の輸入または加工に対して本条に基づく届出を要求することができるとしています。
     アーティクルとは、部品(ICやネジなど)、材料(鉄板など)、ユニット(電源、ギヤボックスなど)、製品(パソコン、自動車など)などを含むもので、物質の製造、物質を混合る川上以降のサプライチェーンの川中、川下企業が扱う物です。
     アーティクル(成形品)に塗装などで組み込んだナノスケール物質もSNUR対象4)となり得ることになります。
     ナノスケール物質については、PMNの対象となった化学物質の多層カーボンナノチューブ(MWCNT)(PMN P-08-177)、(PMN P-08-199など)および単層カーボンナノチューブ(SWCNT)(PMN P-08-328など)をTSCA第5条(a)(2)に基づく重要新規使用規則(Significant New Use Rules:SNUR)の対象としています。
     ナノスケール物質はPMN単位で新規物質として運用していますので、TSCAインベントリ収載物質となっても、届出者以外は新規物質となり、同時にSNUR対象にもなります。
     この措置は、これら化学物質のいずれかを商業目的で年間10トン以上製造し、輸入し、または処理し、この活動を開始する前に少なくとも90日前にEPAに通知するために、この最終規則5)により重要な新たな用途として指定された使用を目的とする場合に適用されます。
     例えば、PMN P-08-177(英国のThomas Swan社の多層CNT(商標名“Elicvarb”))は、基材に固定された後、またはプラスチックまたは他のポリマーマトリックス内に封入された状態での使用が同意されており、これ以外はSNUR対象となります。
     要件6)には「従業員に、カーボンナノチューブを通さない手袋と全身衣服を着用させること」「カーボンナノチューブを吸う可能性が高い従業員は、NIOSHフルフェイスマスクを着用しなければならない」などもあります。
     TSCAでナノスケール物質の用途規制をする方向であるので、今後の動きに注目する必要があります。
(2)日本
  •  厚生労働省はナノスケール物質について、「ナノマテリアル製造・取扱い作業現場における当面のばく露防止のための予防的対応について 厚生労働省労働基準局長 平成20年2月7日」7)により、職場の安全、作業者保護の観点で対応しています。
     対応については、「ナノマテリアルに対するばく露防止等のための予防的対応について 厚生労働省労働基準局長 平成21年3月31日」(基発第0331011)8)が出されています。
     労働安全衛生法第28条第3項の規定に基づき厚生労働大臣が定める化学物質に、株式会社物産ナノテク研究所、ナノカーボンテクノロジーズ株式会社又は保土谷化学工業株式会社が製造した、MWNT-7(ナノサイズ(直径で概ね100nm以下)のものに限る。以下同じ。)及びNT-7Kが特定されました。
     労働安全衛生法第28条第3項の規定は「厚生労働大臣は、がんその他の重度の健康障害を労働者に生ずるおそれのある化学物質で厚生労働大臣が定めるものを製造し、又は取り扱う事業者が、当該化学物質による健康障害を防止するための指針を公表する」9)10)ものです。
     社内工程での作業管理は労働安全衛生管理法で作業管理が「ナノマテリアルの労働現場におけるばく露防止等の対策について」11)で要求されます。
     この通達では、「ナノマテリアルの生体への健康影響については調査研究が進められているものの、未だ十分には解明されていないところであるが、予防的アプローチの考え方に基づき、ナノマテリアルに対するばく露防止等の対策を講じることが重要である。」として、「製造・取扱装置の密閉化等」「局所排気装置等の設置」「作業環境中のナノマテリアル等の濃度の把握」「作業規程の作成」「保護具の使用」などを要求しています。
     日本では、労働安全衛生法で労働者保護の観点で規制が始まっています。
2. ナノスケールの定義

ナノスケールの定義は、国により若干の差異があります。

(1)TSCA(アメリカ)
  • 規則(40 CFR Part704)で、「報告対象の化学物質」(reportable chemical substance)を以下のとおり定義しています。
    • 25℃において大気圧下で固体であり、一次粒子又は凝集体が1~100nmのサイズ範囲にあり、かつ、そのサイズゆえに固有かつ新規の特性を示す、という状態に製造又は加工される化学物質
    • これには、1~100nmのサイズ範囲にある一次粒子又は凝集体を痕跡量しか有しない化学物質を含めない(そのような化学物質は、そのサイズゆえに固有かつ新規の特性を示すことはない)。
(2)日本
  •  前記局長通知(基発第0331011)では、次の定義をしています。
     ナノマテリアルは、元素等を原材料として製造された固体状の材料であって、大きさを示す3次元のうち少なくとも一つの次元が100nmよりも小さいナノ粒子(nano-objects)及びナノ構造体(nanostructured material)(内部にナノスケールの構造を持つ物体、ナノ粒子の凝集したものを含む)である。
     国際標準化機構(ISO)は、用語“ナノ物質”を、“任意の外形寸法がナノスケール、又は内部構造又は表面構造がナノスケールであるような物質”として、用語“ナノスケール”は約1nmから100nmのサイズ範囲として定義している。

ナノスケール物質は、1つの次元が1nmから100nmであることが共通定義です。

3. リスク

リスクはハザードとばく露から見積もられます。ナノスケール物質のハザードの特定は化学品のGHS分類と同じようにはいかなく、物質、化学状態(酸化物、原子、化合物)、形状などで、有害性は確定していないのが現状です。
 検討関連文献をご紹介します。
 OECDは、「工業ナノ材料の試験に関するスポンサーシッププログラム」の一環として、ナノ材料に関する試験結果概要(Summary of the Dossier)を「工業ナノ材料安全性シリーズ」文書として最近公開しました。この工業ナノ材料試験結果概要では、物理化学特性と材料の特徴付け、環境中運命、毒性と生態毒性、環境毒性、哺乳類に対する毒性、材料安全性といった点に関する各ナノ材料の安全性情報がまとめられています。

  • 「多層カーボンナノチューブ(MWCNT)試験結果概要」(No.68-2016年5月30日)12)
  • 「単層カーボンナノチューブ(SWCNT)試験結果概要」(No.70-2016年7月7日)13)

ばく露に関する調査検討は、日本でも同時並行で行われ多くの報告書が公開されています。検討中と言えます。

  • ナノ材料に係る諸外国の規制動向114)
  • 平成26年度化学物質安全対策(ナノ材料等に関する国内外の安全情報及び規制動向に関する調査)報告書15)
  • ヒトに対する有害性が明らかでない化学物質に対する労働者ばく露の予防的対策に関する検討会(ナノマテリアルについて)報告書16) 厚生労働省
  • ナノ物質の管理に関する検討会17)
  • 第1章 国内におけるナノマテリアル使用実態調査18)

身近な工業用のナノスケール物質の用途は、塗料への添加です。「第3回 リスク評価ワーキンググループ報告書」19)に塗料に関する評価が示されています。
 報告書のリスク評価の一つとして、は、塗料にナノマテリアル(ZnO)を3%~6%含有させたポリウレタン塗料などについて、塗装摩耗試験(摩耗によって引き起こされるナノ粒子の塗装表面から気中への放出)を行っています。
 結論は、ナノ粒子は塗料の摩耗粒子に埋もれていて、ナノ粒子が遊離していないことが示されています。
 塗装の主要用途が自動車であれば、塗装面にオーバーコートがされる場合が多く、建築塗装などとは異なり、放出の可能性はより少ないとする報告もあります。

ナノスケール物質ハザードは確定していない部分が多いのですが、ばく露が少なければリスクは低くなります。現状では、人体へのばく露を顧客使用及び作業ばく露の両面で最少化することが求められています。

日米の状況をご説明しましたが、主要国について経済産業省から「ナノ材料の海外規制動向及び安全性情報に関する調査」(平成26年3月 平成25年度経済産業省 委託調査報告書 JFEテクノリサーチ株式会社)20)解説があり参考になります。

(松浦 徹也)

1)http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2002:011:0004:0017:en:PDF
2)https://www.regulations.gov/document?D=EPA-HQ-OPPT-2010-0572-0137
3)https://www.ecfr.gov/cgi-bin/text-idx?SID=4fd3ce6edc1ac02416d53985b4ca0177&mc=true&node=pt40.33.704&rgn=div5
4)https://www.federalregister.gov/documents/2010/09/17/2010-23321/multi-walled-carbon-nanotubes-and-single-walled-carbon-nanotubes-significant-new-use-rules
5)https://www.gpo.gov/fdsys/pkg/FR-2013-05-09/pdf/2013-11061.pdf
6)https://www.law.cornell.edu/cfr/text/40/721.10156
7)https://www.jniosh.go.jp/publication/doc/houkoku/nano/files/Notification_0207004.pdf
8)https://www.jniosh.go.jp/publication/doc/houkoku/nano/files/Notification_0331013.pdf
9)https://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-57/hor1-57-13-1-0.htm
10)https://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-50/hor1-50-8-1-0.htm
11)https://www.jaish.gr.jp/horei/hor1-50/hor1-50-8-1-2.html
12)http://www.oecd.org/officialdocuments/publicdisplaydocumentpdf/?cote=env/jm/mono(2016)20&doclanguage=en
13)http://www.oecd.org/officialdocuments/publicdisplaydocumentpdf/?cote=env/jm/mono(2016)22&doclanguage=en
14)http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/other/nanom/nano2017.March.pdf
15)http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2015fy/000382.pdf
16)http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/11/dl/s1126-6a.pdf
17)http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/seisan/nanomaterial_kanri/pdf/003_01_03.pdf
18)http://www.nihs.go.jp/mhlw/chemical/nano/nanopdf/H21houkoku/honbun/1.pdf
19)http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/files/nanomaterial/120328_riskWG3.pdf
20)http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2014fy/E003802.pdf

当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。 法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家に判断によるなど最終的な判断は読者の責任で行ってください。

情報提供:一般法人 東京都中小企業診断士協会

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