752
[会社法]M&A
- Q652.不動産M&Aについて教えてください。
- 現在、自社ビルの1Fで小さな雑貨店を法人として経営しています。先日、「後継ぎがいないため、自社ビルを譲渡して廃業しようと思っている。だけど、社歴が長い分、株主が多くて大変だ」と友人に相談したところ、不動産M&Aを検討してみたらどうかといわれました。不動産M&Aとはどのようなものか教えてください。
A.不動産M&Aの目的は、会社売買のスキームを利用した不動産売買です。ご友人は自社ビルを売却してから会社を清算するよりも、自社ビルつきで雑貨店会社の株式を売却したほうが、株主の手取り額が大きく、利害関係者(株主)の意見をまとめやすいということを伝えたかったのだと思います。
社歴の長い老舗は、簿価の低い不動産を一等地に所有しているケースが多くあります。そのような会社では廃業や事業承継などに関して、株主の意見がなかなかまとまらず、不動産の処分がスムーズに進まないケースが多々あります。そうすると、社長はずるずると収益性の低いビジネスを継続することになり、結果として株主の財産を毀損してしまうことにもなりかねません。
そこで、廃業や事業承継をスムーズに進めるために不動産を会社清算前に売却するのではなく、会社ごと売却してしまう手法(いわゆる不動産M&A)が用いられます。M&AとはMergers and Acquisitions(合併・買収)の略称で、ここでは不動産取得を目的とした株式譲渡を不動産M&Aと呼んでいます。
【不動産M&Aの背景】
都心や地方都市の一等地には社歴が長く、代々相続してきた老舗ビルや店舗が数多く存在します。一方、近年リートや不動産ファンドなど新たな不動産の買い手が出現しています。
老舗企業では、相続人が収益性の低い事業を相続したくないなどの事業承継問題が多く存在しています。たとえば、(1)株主である社長は収益性の低い事業を廃業したい、(2)株主である社長は事業を継続したいが、ほかの株主は株式の換金をしたがっている、(3)社長は高齢で引退したいが、後継者がいない、などさまざまなケースがあります。
そのようなケースにおいて、利害関係者(株主)の納得感を得て意見をまとめる、という視点から、不動産M&Aに注目することができます。とくに事業の収益性は低いけれど、含み益の大きい資産を抱えている老舗会社の事業承継対策などのソリューションの一つとして、不動産M&Aが考えられます。
【会社清算と不動産M&Aの比較】
1.会社清算
会社を清算する場合、清算所得に対して約40%の法人税などが課税されます。また、会社の清算により、残余財産の分配を株主が受けた場合には、配当所得として最高50%の総合課税が課されます。
清算所得 = 残余財産 −(資本金 + 法定準備金 + 剰余金)
※残余財産は、会社の財産から会社の債務を控除して算出します。
計算を簡単にするため、残余財産≒清算所得=10億円として算出すると、会社清算時の株主の手取り額は以下になります。
会社清算手法による株主の手取り額=10億円×(1−0.4)×(1−0.5)=3億円・・・(1)
2.不動産M&A(株式譲渡)
株主が非上場株式を売却して得られた譲渡益には、申告分離課税方式により20%(所得税15%、住民税5%)の譲渡所得税が課税されます。
譲渡益の金額=譲渡価額−必要経費(取得費+委託手数料)
譲渡益=10億円(必要経費=0円)として算出すると、不動産M&Aによる株主の手取り額は、以下になります。
株式譲渡による株主の手取り額=10億円×(1−0.2)=8億円・・・(2)
上記(1)と(2)を比較すると、(2)の不動産M&Aを活用したほうが、株主の手取り額が5億円多くなるため、多数の利害関係者(株主)を経済合理性の面から説得し、意見調整がしやすくなります。
【ポスト不動産M&A】
不動産M&Aにより、旧株主は(1)廃業が目的の場合、株主は満足のいく額の現金を手にすることができる、(2)事業継続が目的の場合、ほかの株主の意見に関係なく手にした現金で事業継続が図れる、(3)手にした現金を出資して、新たな事業を創業できる、などの実現が図れます。
実務面では、金庫株、会社分割、納税、株主対策や買い手への訴求ポイントなどの高度な知識や手法が必要になりますので、不動産M&Aは専門家へ相談しながら進めましょう。
- 関連情報
- <No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)>(国税庁タックスアンサー)
http://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1463.htm - <Q086.M&Aによる事業承継の方法を教えてください。>(J-Net21)
http://j-net21.smrj.go.jp/well/qa/entry/086.html - 回答者
- 中小企業診断士 石井 浩一
2010年1月14日更新
