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損害賠償とは何か?(3)

テーマ:契約・取引

2004年6月24日

解説者

弁護士 小川義龍

1、損害賠償の計算方法

さて今回で損害賠償についてお話しするのも最後になる。
前回は、損害が発生してしまってから賠償計算をすると大変な場合があるので、あらかじめ契約で損害賠償額の上限を決めておくのがいいというお話をした。


しかし上限を決めないケースも多いはずだ。スピーディな取引でいちいち契約書を作らないことは多い。そうなると基本合意さえ書面にしないのに、損害賠償の予定など話題にすらしていないというケースは多かろう。取引高が小さければ、或いは、予想されるリスクが小さければ、自ずとそういうことになる。
こんな時に、どうやって損害を認定して、どうやって金額を計算したらいいのだろうか。
実は、この作業は、我々法律家にとっても頭の痛いテーマなのだ。どんな損害でもたやすく賠償額がはじき出されるわけではない。


2、実損の認定はケースバイケース

これまでに繰り返しお話ししているとおり、日本の損害賠償の考え方は、実際に発生した損害(=実損)を賠償するものだ。実損が発生していないのに、被害を被った側が、加害者に対して、迷惑料とか罰金といった意味合いで感情的に損害賠償請求することはできない。


そこで実損とは何かが問題になる。・・・と問題提起しておいて恐縮ではあるが、これはケースバイケースに認定すべき問題で、実は一言で言える解法があるわけではない。
例えば、交通事故などの日常茶飯事に生起する損害賠償事案では、長年の間に積み重なった相場的な実損認定方法がある。それも事故類型毎に相当細かくマニュアル化されているので、実は我々法律家が頭を悩ますケースはさほど多くない。例えば、入院1ヶ月・通院2ヶ月なら慰謝料は約100万円とか、簡単に算出できる計算表がある。
しかし、取引に伴う損害賠償事案では、当該取引高そのものが賠償額になるのかどうか、派生取引があった場合に実損が発生しているのかどうか、例えば、商品を仕入れて転売しようとしていた場合に、その転売益はどうなるのかといった点を考え出すと、ケースバイケースに認定せざるを得ないことになる。この場合の基本基準は、前回お話ししたとおり、当事者の予見可能性(転売の例でいえば、当事者が転売まで視野に入れて取引していたのかどうかなど)がどうだったかを見てゆくことになる。一概には認定できない所以だ。


3、冷静な常識判断せよ

しかし一点だけ言えることは、実損の認定には、冷静に常識判断することが大切ということだ。
損害賠償という難しい言葉を使われると、とかく難しい問題と捉えてしまって加害者側としては被害者に必要以上に迎合してしまうことがある。被害者側もわけもわからずに賠償賠償と叫んでしまう。しかし法律問題とは、つまるところ「常識解決」すればいいわけで、常識的に判断すれば実損が発生していないか、たいした実損は生じていないケースも多い。


例えばこんなケースだ。
あるシステムエンジニア(SE)が、保守契約先の会社に行ってコンピュータのメンテナンスをしていたとしよう。このSEが不注意で、契約先のコンピュータの顧客データを全部壊してしまった。当然、契約先の会社は怒る。なんてことをしてくれたんだ、誠意を見せてもらおうか、という状況になる。
しかし、ここで冷静になって欲しい。
その会社の別のコンピュータには、バックアップされた顧客データが保存されていたとしよう。そうであれば、実損は発生していないというのが常識的だ。保存されたバックアップデータを移し替えればいいだけだから、実損が発生しているとしてもその移し替えの手間だけだ。この移し替えはこっちでやればいいわけだから、結局のところ実損はないことになる。
また仮に、こんなに都合良くバックアップデータが保存されていなかったとしても、慌てずさらに冷静になって欲しい。顧客データが壊れてしまったといっても、所詮ただのデータだ。復旧さえ出来ればいい。例えば不運にも顧客データがバックアップされていなくとも、定期的に紙にプリントアウトされていたらどうだろう。このプリントアウトされた顧客リストをコンピュータに再入力して再データ化すれば復旧できる。そうすると、その復旧の手間が実損ということになる。復旧の手間とは、データ入力作業に要する人件費にすぎない。たいした実損にはならないであろう。


トラブルが生ずると、相手もこちらもパニック状態になって、お互いが大変なことになったと冷静さを欠くことがある。しかし、難しいことは抜きに、このトラブルによってどのような実損が生じたのか、落ち着いて冷静に判断して欲しい。実は、たいした実損が発生していないことに気づけば、無用な軋轢は生じないものだ。


4、とはいえ、専門家による早期検討も重要

これまで3回にわたって損害賠償のお話をしてきた。取引や社会生活のなかで損害賠償すべき場面は誰でも遭遇しうる。だからいざ自分がその渦中に置かれたときに慌てないために手がかりとなる知識だけお話ししてみた。  取引に関しては、事前に損害賠償額を予定しておくという担保が有効であるし(第2回参照)、事後に損害賠償する場面でも冷静な常識判断で実損を検討担保する必要がある(今回)。おわかりになったであろうか。
しかし、損害賠償の認定はケースバイケースになるわけだから、事前事後の担保があったとしても、実際にそのような場面に遭遇したら、早めに専門家のところに相談に訪れるべきだ。自分でなんとかしようと考えないことも、リスクヘッジを考える企業人としては重要だという点を注記して、損害賠償についての連載を終わる。


小川義龍
昭和39年生  東京都出身
東京都千代田区立番町小、同区立麹町中卒
早稲田大学高等学院卒(昭和58年)
早稲田大学法学部卒(昭和62年)
司法試験合格(平成3年)
最高裁判所 司法研修所 46期修了
弁護士登録(東京弁護士会所属)

東京弁護士会
常議員(平成7年度)
広報室 嘱託(平成13年度〜)
広報委員会 副委員長(平成9、10年度)
広告調査委員会 副委員長(平成13年度)
インターネット協議会 副議長(平成9年度)
業務改革委員会 コンピュータ部会長(平成12年度〜)
司法修習委員会、財務委員会、刑事弁護委員会 各委員
法友全期会副代表幹事(平成14年度)
春秋会(法友8部)事務局長(平成15年度)

 東京商工会議所 法律相談員(平成9年度・荒川支部)
 東京弁護士会 クレサラ・商工ローン闇金相談担当(四谷・神田センター)
 財団法人クレジットカウンセリング協会 カウンセラー(平成11年度〜)
 財団法人法律扶助協会新宿支部審査員(平成12年度〜)
 日本弁護士連合会 法務研究財団事務局(情報部会担当)
 早稲田経営学院(Wセミナー)専任講師(刑事訴訟法)
 日本刑事政策研究会(法務省)正会員
 東京弁護士会インターネット法律研究部部会員

著書・講演等
 「法律事務所のためのパソコン導入大作戦」(株式会社トール刊)
 「弁護士のための広告のススメ」(株式会社トール刊)
 「弁護士のためのパソコン導入ガイド」(東京弁護士会法友会刊)
 「パソコン事件簿」(月刊DOS/V Special連載・毎日コミュニケーションズ)
 「最新現代法務全集」第4巻・債権回収(全日法規研究室)
 「困ったときにすぐわかる 内容証明の書き方・出し方」(OS出版)
 「困ったときにすぐわかる インターネットの法律(仮題)」(近刊予定)
 「中小企業のための倒産回避マニュアル(仮題)」(近刊予定)

 「破産と会社更生手続の概要」
   ※厚生労働省 労働研修所での講義(平成14年度より)
 「法律の基礎」 「コンプライアンス」 「借地借家法」 「インターネット法務」
   ※いずれも大手上場企業での定期公演
 「若者の破産」 「非弁提携弁護士被害」その他
   ※フジTV「スーパーニュース」出演

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