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損害賠償とは何か?(2)

テーマ:契約・取引

2004年6月17日

解説者

弁護士 小川義龍

1、損害賠償額の算定

取引に伴って損害賠償を請求したい、或いは、損害賠償を覚悟したという経験は少なからずおありではないだろうか。今回は、前回に引き続いて、損害賠償についてのお話をしてみよう。
およそ約束(=契約)を破って相手が迷惑を被った場合には、法的賠償問題に発展しうる。これを損害賠償と言うが、その基本的な考え方は前回お話しした。そこで今回は、いざ損害賠償を考えなくてはならないとして、いったいどのように損害額を算定したらいいのか、これを考えてみよう。


2、実損は発生しているか?

損害額の算定にとってまず念頭に置くべきことは、実際に損害が具体的に発生しているか、だ。
実害はなかったが、何となく不愉快だから損害賠償請求したいというのは法的には通らない。日本では、実害にかかわらず罰金的な意味合いで請求する懲罰的損害賠償という考え方は、未だ通説的なものではない。あくまでも実損を填補するのが損害賠償の考え方だ。もちろん、精神的に多大な苦痛を被った場合は、それはそれで実損だ。例えば、名誉毀損されたといった場合だ。しかし、例えば商取引で、納品が遅れたような場合、契約違反であることは間違いないし、不愉快であることも間違いない。しかし、その不愉快さそのものに対して慰謝料請求できるかというと、これはできない。慰謝料請求できるのは、一般的に見て誰からも「大変にお気の毒」と憐憫されるくらいの程度のケースから、と覚えておいて欲しい。


3、実損の具体例

例えば、パソコン10台を100万円で購入する契約をしたとしよう。
代金を入金する前に納期が設定してあった。しかし納期が大幅に送れてしまったという場合。この場合はあまり損害賠償の問題は生じない。なぜなら、契約を解除してしまえばいいからだ。つまりパソコンはもういらないからお金も払わないと宣言すればいいわけだ。
ところがこれに加えてそのパソコンは実は期間限定の展示会で利用するものだったとしたらどうか。納期を遵守してもらわなければ展示会で利用できないという関係があった場合に、納期遅れが生じたため、展示会が不成功に終わってしまったという場合だ。この場合は、代金を支払っていなかったとしても、別途損害賠償の問題が生じうる。つまり代金を払わなくていいという程度では実損が填補されないからだ。
いわゆる量販の場合で、購入したパソコンの利用意図が何であるか販売業者には分からないという場合には、展示会不成功の損害賠償責任をおわされることはまれであろう。販売業者にとっては予見可能性がない(前回のコラム参照)。一方、販売業者が買い主の展示会利用目的やそこでのパソコンの必要性を認識していた場合には、展示会の不成功に伴う損害賠償をしなくてはならない場合が出てくる。販売業者に予見可能性があるからだ。


4、天井知らずの実損

このように実損に対して予見可能性がある限り賠償しなくてはならないとすると、実はとんでもない事態が起こりうる。
例えば、銀行のATMシステムの保守契約を結んだとしよう。一寸したメンテナンスであるため年間保守料金は仮に100万円程度とする。この保守作業中、保守技術者の一寸したミスで、全支店のATMが1日ダウンしてしまった。お解りと思うが、銀行の全支店ATMがダウンしたらその損害は1日であっても莫大なものになろう。窓口対応に変えたとしてもATMという機械処理には及ばないから、銀行の手数料収入の機会損失は大きい。保守契約料の100万円とは桁の違う賠償をしなければならなくなるおそれがあるのだ。
そうすると、保守業者としては、たかが100万円の保守料程度を受け取るのに対して、一寸したミスでも何千万円単位の損害賠償をしなければならない危険性と背中合わせで契約を遂行してゆかなくてはならないというリスクを背負ってゆくことになる。恐ろしいことだ。


5、賠償の範囲を押さえる工夫

ATMの事例は、大企業と中小企業の力関係の差といってしまったら、まさにそのとおりだろう。ATMに限らず、世の中の取引は、力関係によって中小企業がほぞをかむ場面が多い。しかしこれをやむを得ないと言って我慢するだけというのでは、経営上のリスクヘッジが不十分だ。力関係が弱い側でも、将来の賠償範囲を押さえる契約上の工夫が出来るのだから。
例えばこんな工夫だ。損害賠償は、なにも損害が発生した後で実損額を計算しなければならないものではない。「損害賠償額の予定」といって、予め契約で約束しておけば、将来莫大な損害が発生した場合でも、予め予定された賠償額を支払うだけで免責されるように手当てできるのだ。
だから、ATMの事例でも、例えば保守契約書に予め「保守側のミスによって損害を生じた場合には、『年間保守料額を上限として』賠償する」といった条項を入れておけばよい。こうすれば、いざという場面でも、年間保守料は結局無かったことになってしまうが、それ以上にもならないというリスク管理ができることになる。
なお、大企業との契約は、えてして先方が不動文字の契約書を提示してきて、中小企業側はこれに手を入れる余地がない場合がある。せっかく損害賠償額の予定を入れてもらおうと思って申し出ても、「弊社の基本契約書は修正できませんので、締結するかしないかでお考え下さい」と強引に持ってゆかれることがある。この場合でも諦めずに交渉を試みたい。例えば、基本契約書は修正できなくても、別途「覚書」といった別紙によって損害賠償額の予定を双方合意すれば、それも契約内容になる。契約とは約束にすぎないから、なにも契約書というタイトルが重要なわけではない。「覚書」だって立派な契約だ。
とりわけ情報関連の仕事では、実損が計算しにくいだけにとんでもない賠償金を背負わされないように、契約担当者は十分リスク管理をして頂きたい。


次回は、損害賠償に関するその他の問題を引き続きお話ししよう。


小川義龍
昭和39年生  東京都出身
東京都千代田区立番町小、同区立麹町中卒
早稲田大学高等学院卒(昭和58年)
早稲田大学法学部卒(昭和62年)
司法試験合格(平成3年)
最高裁判所 司法研修所 46期修了
弁護士登録(東京弁護士会所属)

東京弁護士会
常議員(平成7年度)
広報室 嘱託(平成13年度〜)
広報委員会 副委員長(平成9、10年度)
広告調査委員会 副委員長(平成13年度)
インターネット協議会 副議長(平成9年度)
業務改革委員会 コンピュータ部会長(平成12年度〜)
司法修習委員会、財務委員会、刑事弁護委員会 各委員
法友全期会副代表幹事(平成14年度)
春秋会(法友8部)事務局長(平成15年度)

 東京商工会議所 法律相談員(平成9年度・荒川支部)
 東京弁護士会 クレサラ・商工ローン闇金相談担当(四谷・神田センター)
 財団法人クレジットカウンセリング協会 カウンセラー(平成11年度〜)
 財団法人法律扶助協会新宿支部審査員(平成12年度〜)
 日本弁護士連合会 法務研究財団事務局(情報部会担当)
 早稲田経営学院(Wセミナー)専任講師(刑事訴訟法)
 日本刑事政策研究会(法務省)正会員
 東京弁護士会インターネット法律研究部部会員

著書・講演等
 「法律事務所のためのパソコン導入大作戦」(株式会社トール刊)
 「弁護士のための広告のススメ」(株式会社トール刊)
 「弁護士のためのパソコン導入ガイド」(東京弁護士会法友会刊)
 「パソコン事件簿」(月刊DOS/V Special連載・毎日コミュニケーションズ)
 「最新現代法務全集」第4巻・債権回収(全日法規研究室)
 「困ったときにすぐわかる 内容証明の書き方・出し方」(OS出版)
 「困ったときにすぐわかる インターネットの法律(仮題)」(近刊予定)
 「中小企業のための倒産回避マニュアル(仮題)」(近刊予定)

 「破産と会社更生手続の概要」
   ※厚生労働省 労働研修所での講義(平成14年度より)
 「法律の基礎」 「コンプライアンス」 「借地借家法」 「インターネット法務」
   ※いずれも大手上場企業での定期公演
 「若者の破産」 「非弁提携弁護士被害」その他
   ※フジTV「スーパーニュース」出演

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