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法律コラム


2005年9月 1日|弁護士 松村昌人

支配権維持を目的とする新株発行等

特定の株主が企業の株式を買い集めたり、支配権を強化しようとした場合等に、当該企業の経営陣と特定の株主とが対立することがあります。かかる状態にある当該企業が第三者に対して新株の発行をおこなうと、対立株主の支配比率の低下を伴う場合には、新株発行が支配権維持目的であるとして差止を受けることがあります。裁判例では、新株発行等に伴う論点(手続違背、有利発行、支配権維持)のうち、支配権維持目的の扱いに関するものが従前から蓄積されていますので、以下、現在の状況迄を概観してみます。

第1、支配権維持目的ルール

商法280条の10では、「会社ガ法令若ハ定款ニ違反シ又ハ著シク不公正ナル方法ニ依リテ株式ヲ発行シ之ニ因リ株主ガ不利益ヲ受クル虞アル場合ニ於テハ其ノ株主ハ会社ニ対シ其ノ発行ヲ止ムベキコトヲ請求スルコトヲ得」としています。よって、法令違反・定款違反が発生しないように準備をおこなっても、「著シク不公正ナル方法」による株式発行と評価された場合には、新株発行が差し止められることになります。
この点、裁判例では、支配権の維持、獲得が新株発行の主たる目的である場合には、「著シク不公正ナル方法」に該当し得るものの、経営判断を尊重する見地から、資金調達という現実の必要性がある場合には、結論として、新株発行差止を認めていませんでした。具体例としては、新潟地判昭和42年2月23日判時493号53頁、大阪地堺支判昭和48年11 月29日判時731号85頁、東京地決昭和52年8月30日金商533号22頁、大阪地決昭和50年10月20日判時806号84頁、大阪地判昭和55年 11月5日判タ444号146頁、東京地判昭和58年7月12日判時1085号140頁、大阪地決昭和62年11月18日判時1290号144頁、東京地決昭和63年12月2日判時1302号146頁があります。逆に、新株発行を差し止めた事例としては、東京地決平成元年7月25日判時1317号28頁(忠実屋事件、いなげや事件)があります。同決定では、授権資本制度のもとで取締役に認められた経営権限の行使として、取締役の判断のもとに第三者割当をすることが許され、その結果、従来の株主の持株比率が低下しても、それをもってただちに不公正発行ということは原則としてできないとしつつも、以下の場合には、新株発行は不公正発行にあたるとの枠組を呈示して、同案件はこれに該当するものとして、結論として、新株発行を差し止めました。

(1)株式会社においてその支配権につき争いがあること、かつ、
(2)従来の株主の持株比率に重大な影響を及ぼすような数の新株が発行され、それが第三者に割り当てられること、かつ、
(3)a:新株発行が特定の株主の持株比率を低下させ現経営者の支配権を維持することを主要な目的としてされたものである場合、または、
b:新株発行の主要な目的が上記aの場合とはいえない場合であっても、新株発行により特定の株主の持株比率が著しく低下させることを認識しつつ新株発行がされた場合で新株発行を正当化させるだけの合理的な理由がない場合

同決定については、新株発行が特定の株主の持株比率を低下させ現経営者の支配権を維持することを主要な目的としてされたものでない場合であっても、一定の場合には不公正発行に該当するという点で(上記(3)b)、不公正発行に該当する範囲が従前裁判例に比べ広いと指摘されていました(判時1317号28頁評釈)。もっとも、その後も、支配権維持目的が主要目的であるか否かによって判断をおこなう枠組自体は維持されてきました。例えば、東京地決平成元年9月5日判時1323号48頁(宮入バルブ製作所事件)では、要旨、「当該新株発行の主要な目的が特定の株主の持株比率を低下させ現経営者の支配権を維持することにあるとまでは断定できず、むしろ、本件新株発行の主要目的は資金調達のためのものといわざるを得ない」として、新株発行差止仮処分申立てを却下しています。また、東京地決平成6年3月28日判時1496号123頁(ニッポン放送事件)では、当時の非公開会社に関する判断ですが、持株比率の低下によって会社の支配権が移動しないこと、新株発行に必要性が認められること等を理由として、新株発行差止仮処分申立てを却下しています。東京地決平成10年6月 11日資料版商事法務173号192頁(ネミック・ラムダ事件。資金調達が現実的に必要ないとして、新株発行を差し止めた事例)を経た近時でも、東京高決平成16年8月4日金融商事判例1201号4頁(ベルシステム24事件)が、現経営陣の支配権維持目的が新株発行の唯一の動機ではなく、会社の発展や業績の向上という正当な意図に優越するものでないとして、新株発行差止仮処分申立てを却下した原決定を維持しています。大阪地決平成16年9月27日金融商事判例1204号6頁(ダイソー事件)でも、支配権をめぐる争いがないことから、新株の発行が現経営者の支配権を確保するためにされたとはいえないとして、新株発行差止仮処分申立てを却下しています。

第2、例外的に新株発行等が許容される類型

東京高決平成17年3月23日(ニッポン放送事件)でも、経営支配権の維持・確保を主要な目的とする新株予約権発行は原則として許されないものとして、新株発行差止を認めた原決定を維持しました。ただし、同決定は、判断枠組としては、株式の敵対的買収者に以下のような事情が認められる場合には、例外的に、新株予約権の発行を行うことが許されると明示しました。

(1)真に会社経営に参加する意思がないにもかかわらず、ただ株価をつり上げて高値で株式を会社関係者に引き取らせる目的で株式の買収を行っている場合(いわゆるグリーンメイラーである場合)
(2)会社経営を一時的に支配して当該会社の事業経営上必要な知的財産権、ノウハウ、企業秘密情報、主要取引先や顧客等を当該買収者やそのグループ会社等に移譲させるなど、いわゆる焦土化経営を行う目的で株式の買収を行っている場合
(3)会社経営を支配した後に、当該会社の資産を当該買収者やそのグループ会社等の債務の担保や弁済原資として流用する予定で株式の買収を行っている場合
(4)会社経営を一時的に支配して当該会社の事業に当面関係していない不動産、有価証券など高額資産等を売却等処分させ、その処分利益をもって一時的な高配当をさせるかあるいは一時的高配当による株価の急上昇の機会を狙って株式の高価売り抜けをする目的で株式買収を行っている場合

同事件では、上記例外の場合にあたるとは判断されていません。また、例外条件が適切であるか否かについては賛否があるでしょう。しかしながら、具体的な事例を列挙した点で参考になる点は多く、今後の同様の紛争において、一定の実務指針を呈示するものとなるでしょう。

(2005年4月執筆)

松村昌人
 第二東京弁護士会 倒産法制検討委員会委員(1999年4月〜)
 法律扶助協会相談登録弁護士(1999年10月〜)
 第二東京弁護士会 広報委員会委員(2000年4月〜)
 日弁連法務研究財団事務局員(2001年4月〜)
   
主要著書
 『民事再生法書式集[新版]』
  <共著>(二弁倒産法制検討委員会,信山社 2001)
 『ビジネスマンのための インターネット法律事典』
  <部分執筆> (日経BP社 2001年)
 『インターネット事件と犯罪をめぐる法律』
  <部分執筆>(オーム社 2000)
 『詳解民事再生法の実務』
  <部分執筆>(第一法規出版 2000)
 『法律業務のためのパソコン徹底活用BOOK』
  <部分執筆>(トール 1999)
 『債権管理回収モデル文例書式集』
  <部分執筆>(新日本法規出版 1996)    等

このコンテンツは「法律情報メールマガジンLIMM」より提供されております。
e-hoki.com LIMMにおける掲載時点(2005年4月22日掲載分)での執筆物であるため、その後の法改正等により、情報が古くなっている場合も、あり得ます。

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