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日本版ライツプラン

テーマ:企業統制・リスク管理

2005年9月29日

解説者

弁護士 松村昌人

敵対的買収に対する公正な防衛策を検討していた経済産業省の企業価値研究会による「企業価値報告書」が、平成17年5月27日、公表されました。同報告書では、新株予約権を利用した買収防衛策(ライツプラン)を日本で用いる場合の手法を提案しています。


第1.企業価値報告書における防衛策の内容

企業価値報告書(以下、報告書)にある対抗措置事前警告型防衛策の概要は、以下のとおりです。


(1)会社は「買収者が登場した場合には防衛策を講じる」旨を予め開示(事前警告)
(2)買収者の登場
(3)会社が差別条件(買収者は行使不可との条件)を付した新株予約権を全株主に対して無償発行
(4)株主が新株予約権を行使して新株を取得(買収者登場前の時価の半額)


かかる防衛策が適用されると、買収者は新株予約権を行使できず、買収者以外の株主だけが新株を取得するため、買収者の持株割合が低下し、買収が困難となる効果を発生させます。このほか、買収者が登場する前に、新株予約権を発行してしまう信託活用型防衛策やSPC・信託活用型防衛策も紹介されています。


第2.平時導入・有事発動型の防衛策

報告書では、上記防衛策を、平時導入・有事発動型の防衛策と位置付けています。これは、これまでの新株発行による買収防衛案件においては、買収者が出現してから講じる防衛策が問題とされており、かかる有事導入・有事発動型の案件については、既に、支配権維持目的ルールとして裁判例の蓄積が進んでいるためです。東京高決平成17年3月23日(ニッポン放送事件)においても、以下のとおり、平時導入・有事発動型の防衛策がありうるとされています。


「・・・機関権限の分配を前提としても,今後の立法によって,事前の対抗策を可能とする規定を設けることまで否定されるわけではない。また,・・・機関権限の分配も,株主全体の利益保護の観点からの対抗策をすべて否定するものではないから,新たな立法がない場合であっても,事前の対抗策としての新株予約権発行が決定されたときの具体的状況・新株予約権の内容(株主割当か否か,消却条項が付いているか否か)・発行手続(株主総会による承認決議があるか否か)等といった個別事情によって,適法性が肯定される余地もある。」


問題は、上記防衛策を敷衍した具体的防衛策を採用した会社について具体的な紛争が生じた場合に、裁判所が当該具体的防衛策について、新たな立法なくしては許されない範疇のものであると判断するか、あるいは、現行法でも許容される防衛策であると判断するかです。


第3.防衛策導入の法的留意点

現行法枠組からの乖離が大きい防衛策を導入しても、結局、裁判所に否定される可能性が残ります。株主の企業支配を弱める方策は、市場からの信任を低下させる原因ともなるでしょう。この点、報告書でも、株主総会による授権、情報開示の徹底、防衛策の解除条件の客観化、外部者判断の尊重等の種々の留意点や制度導入に伴う緩和策を提案しています。以下の点は、特に制度の導入にあたって慎重な考慮を要する点と思われます。


1.買収者の差別的扱い
株主は、株主としての資格に基づく法律関係については、その有する株式の数に応じて平等な取扱いを受けるものとされています(株主平等の原則)。この点、報告書では、株式の内容について株主間の不平等を認める種類株式制度の存在、新株予約権の発行に条件を付すことが認められていることから、上記の差別的新株予約権導入は株主平等の原則に反しないとしますが、同じ株主でありながら、買収者か否かによって新株予約権の行使の可否が左右されることからすると異論もありうるところです。また、企業防衛との観点からは、買収防衛策の導入時点で既に基準を超える割合を保有している支配株主に新株予約権を付与するか否かという点も問題となるでしょう。仮に、既存の支配株主に新株予約権付与しなければ支配株主の支配比率が低下することになりますし、逆に、付与することとすれば買収者と当該支配株主間の平等が問題となるからです。


2.敵対的買収の要件
防衛策発動の対象となる買収形態として、報告書は、以下の例を挙げています。


a)グリーンメール...株式を買い占め、その株式を会社側に対して高値で買い取るよう要求する類型
b)二段階買収.........最初の買収条件を株式の売主に有利に、二段階目の買付条件を不利に設定する等して、株主に売り急がせる類型
c)代替案喪失型......現経営陣に代替的な提案を考えるだけの十分な時間的余裕を与えない買収類型
d)株主誤信型.........企業価値を損なう買収提案であるが、株主が誤信して買収に応じてしまう場合


この点、a)グリーンメール類型は上記東京高決でも指摘のあるところですが、b)やc)については指摘がありません。また、d)企業価値毀損の誤信については、上記東京高決では、その前提となる企業価値の判断について、要旨、企業価値の比較検討は経営判断の法理にかんがみ司法手続の中で裁判所が判断するのに適しないと判示していることとの整合性も問題となるでしょう。


3.防衛策の消却
報告書では、防衛策の過剰性を緩和するための方策として、防衛策の消却条項(例:買収者が株式を買い占める前までは、取締役会で消却ができるとする条項)を設けることを提案しています。そして、その消却については、米国のような2回の株主総会での委任状獲得合戦ではなく、株主の意思の反映を早期におこなうため、1回の株主総会で可能とするよう提言しています。これは、買収者に対して、市場買付によって株式を取得する方法ではなく、委任状の取付によって支配権を取得する方法を促すものと言えますが、買収者が具体的にいない段階で防衛策の消却を議論する実益がどの程度あるのかという問題があるほか、買収が表面化した段階で、実際には、他の株主に新株予約権の発行がなされたり(対抗措置事前警告型)、新株予約権が交付されてしまう(信託活用型防衛策)ことが考えられます。このため、制度の実際の導入にあたっては、実務的に調整を要する点が多く残っているように思われます。


(2005年5月執筆)


松村昌人
 第二東京弁護士会 倒産法制検討委員会委員(1999年4月〜)
 法律扶助協会相談登録弁護士(1999年10月〜)
 第二東京弁護士会 広報委員会委員(2000年4月〜)
 日弁連法務研究財団事務局員(2001年4月〜)
   
主要著書
 『民事再生法書式集[新版]』
  <共著>(二弁倒産法制検討委員会,信山社 2001)
 『ビジネスマンのための インターネット法律事典』
  <部分執筆> (日経BP社 2001年)
 『インターネット事件と犯罪をめぐる法律』
  <部分執筆>(オーム社 2000)
 『詳解民事再生法の実務』
  <部分執筆>(第一法規出版 2000)
 『法律業務のためのパソコン徹底活用BOOK』
  <部分執筆>(トール 1999)
 『債権管理回収モデル文例書式集』
  <部分執筆>(新日本法規出版 1996)    等

このコンテンツは「法律情報メールマガジンLIMM」より提供されております 。
e-hoki.com LIMMにおける掲載時点(2005年5月31日掲載分)での執筆物であるため、その後の法改正等により、情報が古くなっている場合も、あり得ます。

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