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法律の怒り

テーマ:企業統制・リスク管理

2006年1月26日

解説者

弁護士 小川義龍

1,法令で禁止されていなければなにをやってもいい?

IT業界の寵児といわれた会社が大変なことになっている。
彼らのやり方を一言で言えば、法令で禁止されていなければ何をやってもいいというスタンスだ。
このスタンスは、ある意味で正しい。
というのも、法令の存在意義は、人々の「行動指針」だからだ。つまり、やって良いことと悪いことが明定されていなければ、人々は行動予測が立たず、社会生活が萎縮してしまうからだ。行動指針を明確化してやろうというのが法令のそもそもの趣旨だ。


2,刑法の抜け穴は不可避なのが宿命

もう少し具体的にお話ししてみよう。
刑法は、殺人罪だとか窃盗罪だとか、犯罪を個別具体的に列挙している。これは言い換えると、ここに列挙されていない限り、いかに不道徳な行いであっても処罰されない。例えば、かつて犯罪とされた姦通罪であるとか皇室不敬罪といったものは、相変わらず不道徳・悪いことと考える人は多いと思うけれども、現代の刑法では条文がないので処罰されない。
かくして世間一般で悪いことと考えられていても、条文がなければ処罰を免れる事態が起こってしまう。法令の抜け穴というやつだ。
例えば一昔前まで、PCへの不正アクセスは処罰できなかった。刑法にこれを処罰するという条文がなかったからだ。しかし不正アクセスが犯罪として処罰されないのはいかにもおかしいと言うことで、処罰できるように法律を改正して抜け穴を埋めた。刑法は、改正を繰り返して抜け穴を埋める作業を永遠に続けてゆく宿命にあるのだ。
ではなぜこんな宿命を受け入れなくてはならないのか? もっと端的に、刑法の末尾に、「『その他』犯罪を犯した者は処罰する」という条文を入れてしまったらどうだろうか? 確かにこうすれば新しい犯罪でもすぐさま処罰できるように見える。『その他』の犯罪は全部この条文で網羅できるわけだから、改正は不要になりそうだ。
しかしこんな条文が入ったら大変だ。たぶん世間の人は引きこもりになってしまって社会経済も成り立たなくなってしまうかもしれない。
大げさではない。冷静に考えてみて欲しい。例えば、人を殺すとか、人のものを盗むとか、そういう誰が考えても瞬時に悪いことだと判断できるのが犯罪の全てであればいいけれども、経済事犯などは必ずしも誰でも瞬時に悪いかどうかが判断できるとは限らない。株価操作が悪いということまではかろうじてわかっても、じゃぁ自分がどんな行動を取ったら悪い株価操作になるのか、瞬時に全て判断できる人など殆どいるまい。さらに言えば、もしかしたら自分が往来を歩く行為そのものも、もしかしたら『その他』の犯罪にあたりうるかもしれない、と戦々恐々としかねない。
結局、「犯罪」とか「悪いこと」といっても、具体的には何もわからないので、法令にやっていいことと悪いこと、つまり基準が明確化されていることが重要なのだ。


3,コンプライアンスとは実質的法令遵守のこと

さて、やっていいことと悪いことを明確に基準化しているのが法令だとすれば、そこに書いていないことは「一応やってもよさそうなこと」とはいえる。
しかし、「何をやってもいい」とは言えないと私は思う。
つまり、法令が具体的な基準を示しているのは、先ほど述べたとおり、本当は『その他』の犯罪は全部入れて抜け穴をふさいでおきたいのにそれができないからだ。それをやってしまっては人々の行動が萎縮してしまうことを畏れているからだ。つまり、抜け穴をふさぐことよりも、人々の行動の自由を守ることの方が大切だと悩み抜いた上でのことなのだ。決して、抜け穴を肯定していない。
だから、法令が定めていない部分、つまり抜け穴を抜け穴とわかってこれを利用する行為は許されない。コンプライアンス(法令遵守)とは、そういうことだ。抜け穴の不利用を含めて、法令を守るというスタンスが、コンプライアンスだ。
ITの寵児は、法令や取り決めごとに反していないから何をやってもいい、コンプライアンスとは形式的法令遵守のことで、抜け穴は塞がれるまで自由に利用していいと考えていたように思う。これはコンプライアンスに対する誤解だと思う。


神の怒りがあるとすれば、法律の怒りに触れたのが今般の事件というべきであろうか。


(2006年1月執筆)


小川憲久
 役職
   (財)ソフトウェア情報センター 特別研究員
   法とコンピュータ学会 理事
   東京工業大学非常勤講師(1998-2002)

このコンテンツは「法律情報メールマガジンLIMM」より提供されております
e-hoki.com LIMMにおける掲載時点(2005年11月11日掲載分)での執筆物であるため、その後の法改正等により、情報が古くなっている場合も、あり得ます。

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