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「会社の秘密を守るには?」

テーマ:企業統制・リスク管理

2006年4月 6日

解説者

弁護士 石井尚子

何百万人もの顧客データが直径わずか10数センチのCD 1 枚に簡単に収まる時代、会社の秘密を守るためには様々な対策が必要です。今回は、会社の従業員が会社のパソコンから顧客名簿を自分のフロッピーに入れて持ち出し、退職後務めていた会社と同じ事業をはじめた場合に、どのような法的手段をとることができるのかを考えてみたいと思います。


顧客情報を盗んだことについて窃盗罪が成立すると思うかもしれませんが、実際に顧客情報を盗んだ従業員を窃盗罪で処罰してもらうのはそう簡単ではありません。刑法の窃盗罪が成立するのは形あるものを盗んだ場合に限られ、単なる情報だけを盗んだ場合には刑法の窃盗罪にはならないと考えられているからです。


会社のフロッピーに顧客情報を入れて持ち出したような場合や会社のコピー機を使ってコピーしたような場合は、会社のフロッピーやコピー用紙を盗んだということを理由に窃盗罪で処罰できますが、会社のパソコンに入っていた顧客データを従業員が自分のフロッピーに移し変えて持ち出したような場合は窃盗にはならないのです。
当然会社の顧客情報を持ち出すような場合は他人に見つからないように誰も見ていないところで持ち出しているはずですから、会社のフロッピーを使って持ち出したのか、自分のフロッピーなのかは本人以外にはわからないといったケースがほとんどでしょう。刑事処罰の場合の立証責任は検察官にありますから、どういう風に持ち出したのかがはっきりしない以上は処罰してもらうことは難しくなります。


今回のように元従業員が営業秘密を不正に取得し利用しているような場合には、不正競争防止法に基づいて差し止めや損害賠償を行うことができます。営業秘密の媒体物が保管されている場所に無断で立ち入ったり、鍵のかかった机を無断で開けて秘密情報を記憶するような窃盗罪にはならない場合でも不正競争防止法の保護は受けることができるからです。


不正競争防止法でも元従業員がどのようにして顧客情報を持ち出したのかは問題となりますが、今回のように元従業員が実際に取引をしたり、あるいは取引をなそうとした顧客が、会社が営業秘密として管理している情報内の顧客と不自然な程度に重複している場合には、元従業員の側から納得のいく説明がなされない限り営業秘密を使用しているものと推認されると考えられています。
もっとも、不正競争防止法で保護される機密事項にあたるためには

(1) 会社内で秘密として管理されていること
(2) その情報が有用であること
(3) 公開されていないこと

の三つの要件を満たすことが必要になります。


ですから、いざというときに不正競争防止法の保護を受けるためには、会社の重要な機密情報については、その情報にアクセスできる人間を制限したり、パスワードをかけたり、書類にはマル秘などと記載するなど、内部の人間から見てもその情報を会社が秘密として扱っていることがわかるような管理をしておくことが大切です。


また、会社にとって重要な秘密事項を扱う従業員に予め「在職中に知りえた会社の機密を漏洩してはならない。」という秘密保持誓約書を書いてもらったり、就業規則に退職後の機密保持規定を入れておくことも効果があります。就業規則は、本来であれば在職中について定めるものでありますが、裁判例では、抽象論ながら退職後について就業規則で規定することも有効とされています。


このような誓約書がある場合にも、後日従業員に対して秘密保持義務に違反したと言うことで損害賠償を請求することが可能になります。


もっとも、退職した従業員の再就職の機会を不当に奪うようなものとならないように、退職後の秘密保持誓約書が有効かどうかは、その人の職種、会社内での地位や、秘密保持が義務づけられる期間、退職金の上乗せ等の対価の有無等の様々な要素から決まることになります。


ただ書類をもらっておくのではなく、その人の職種や立場から会社にとって退職後も秘密保持を課すべき者なのかどうか、会社を守るにはどれくらいの期間を設ければいいのか、退職金の上乗せをするかどうかなどを検討し個々に対応することが必要になるでしょう。


このように受けた損害について後から損害賠償をするためにも会社自体が秘密情報をきちんと管理していることが必要になりますので、一度社内で秘密情報の管理方法を見直してみてはいかがでしょうか。


(2006年3月執筆)


弁護士  石井尚子(いしい なおこ)

  昭和53年1月 東京都生まれ
  平成13年3月 東京大学法学部卒業
  平成14年10月 司法試験合格
  平成15年4月 司法研修所入所(57期)
  平成16年10月 弁護士登録(第二東京弁護士会)
  現在、栄枝総合法律事務所勤務

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