本文とサイドメニューへジャンプするためのナビゲーションスキップです。

トップページ  >  経営をよくする  >  法律コラム

特集一覧 中小企業に役立つ記事や施策をトピックスごとにまとめています。

退職する従業員の競業避止義務

テーマ:解雇・退職

2006年8月17日

解説者

弁護士 人見勝行

終身雇用制度が過去のものとなり、現在では、第2新卒と呼ばれる若年層の他、働き盛りの年齢層に属する多くの従業員が転職をするようになりました。もとより、退職した従業員が全くの異業種に再就職する場合もあるかもしれませんが、一般的には、過去の経験を活かせる同業他社への就職を考えるものと思われます。
しかしながら、自社で得たノウハウなど、全ての知識をそのまま競業他社で活用されることは、多大な損失を招くことにもなりかねません。特に、客先が従業員の転職に伴って転職先に移転する傾向の業界においては、企業において深刻な問題となります。そこで、会社に損失が生じることを避けるために、少なくとも、損失を最小限に抑えるための方策を、事前に講じる必要があります。
具体的には、雇用契約を締結するに際して、誓約書を取得することが考えられます。例えば、「私は、御社との間の契約が終了した後2年間は、東京都内において、御社と競業する事業を自ら営まないこと、第三者をして御社と競業する事業を営ませないこと、及び、御社と競業する事業を営む第三者の従業員、請負人その他の使用人とならない旨を誓約致します。」などという記載のある会社宛の書面に、署名押印してもらうというものです。
注意が必要である点は、従業員の職業選択の自由( 憲法 第22条1項)を不当に侵害するものであってはならないということです。例えば、期間を無制限にするものや、範囲を日本国内に限定しないものは、従業員の職業選択の自由を侵害し、公序良俗に違反するものとして、無効となる可能性が高いのです。同様に、会社の営む事業の範囲が広い場合には、競業する事業という表現では広範に過ぎるため、例えば、従業員が現実に担当していた職種の範囲に限定するなど、具体的に業種を摘示することが必要です。
さらに、期間、範囲と業種が限定されている場合でも、常に誓約の内容が有効となるものではありません。この点について、平成7年10月16日東京地方裁判所決定、判例時報1556号83頁は、「差止請求をするに当たっては、実体上の要件として当該競業行為により使用者が営業上の利益を現に侵害され、又は侵害される具体的なおそれがあることを要し、右の要件を備えているときに限り、競業行為の差止めを請求することができるものと解するのが相当である。」と判示しています。
また、代償措置が講じられているかについても、検討の余地があります。すなわち、従業員の職業選択の自由を制約する以上、相応の利益を従業員に対して付与する必要があるのです。但し、代償措置が講じられていない場合でも、給与の金額が同業者の水準に比して高いなどの事情がある場合には、必ずしも誓約書が無効となるものではありません(平成16年9月22日東京地方裁判所決定、判例時報1887号149頁参照)。
そして、誓約書が有効であれば、競業した元従業員に対しては、競業行為の差止めを求める仮処分ないし本訴の手続を申し立てることが考えられます。問題は、損害賠償の請求を提起することができるかという点ですが、損害の立証は困難を極めるため、現実的には難しいものと考えられます。但し、従業員が退職する際に競業避止に合意し、そのときに併せて損害賠償金額の予定を定めた場合には、同金額の請求をすることも可能となります。
  加えて、従業員が会社の営業秘密を持ち出したような場合には、不正競争防止法に基づいて営業秘密の使用の差止めを求めることもできます。但し、営業秘密と認められるためには、事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること、公然と知られていないことに加えて、営業秘密として管理されていることが必要となりますので、日頃から、情報に対するアクセスを限定したり、「社外秘」等の記載をするなどの方策を採る必要があります。
何れに致しましても、従業員が会社の顧客名簿等を持ち出して競業他社に転職してから対応を考案することは遅きに失するため、事前の対策を講じておきたいものです。


このコンテンツは「法律情報メールマガジンLIMM」より提供されております。
e-hoki.com LIMMにおける掲載時点(2006年3月14日掲載分)での執筆物であるため、その後の法改正等により、情報が古くなっている場合も、あり得ます。


同テーマの記事を見る 3つのコンテンツから検索ができます!

このページの先頭へ

このページの先頭へ