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営業秘密を使った退職後の競業行為についての裁判例

テーマ:解雇・退職

2012年4月26日

解説者

弁護士 高橋弘泰

 今回は、近時に出た東京地方裁判所の判決を題材に、以前コラムで解説した営業秘密についての考え方や従業員の競業行為の考え方についての具体例を紹介します。


【事案の概要】

 事案の概要(東京地方裁判所平成23年11月8日判決)は、投資用マンション販売等を業とするX社(原告)の営業社員(被告2名)が、営業秘密である顧客情報を取得し、退社した後に設立したY社で、この顧客情報を使用してX社の顧客に連絡し、X社の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知するなどしたとして、損害賠償を求めたというものです。


【主な争点】

 本件の争点のうち主なものは、(1)X社の顧客情報は、営業社員の携帯電話や記憶に残っていたものも含め、営業秘密に該当するか、(2)営業社員がその顧客情報を取得したのが「不正の手段」によるものか、仮に不正の手段によるものでない場合、退職後に図利加害目的で顧客情報を使用してX社の顧客に連絡し営業活動を行ったといえるか、という点でした。


【携帯電話に残ったデータや記憶も営業秘密か】

 裁判所は、(1)について、営業社員の携帯電話や記憶に残っていたものもX社の営業秘密に該当するとしました。その判断にあたっては、(ア)顧客情報の帰属先、(イ)秘密管理性、(ウ)有用性・非公知性のそれぞれの点について検討されています。


 (ア)顧客情報の帰属先については、X社から投資用マンションを購入した顧客の個人情報は、X社の従業員が業務上取得した情報であるから、これを従業員が自己の所有する携帯電話や記憶に残したか否かにかかわらず、勤務先に当然に帰属するとしました。


 (イ)秘密管理性については、(a)顧客情報が電子データとして一元管理されていたこと、(b)入室が制限された施錠付きの部屋に保管され、利用も営業本部所属の社員の一部に限定されていたこと、(c)就業規則で秘密保持義務を規定し、退職時には秘密保持に関する誓約書を提出させたり、ISMS認証やISO/IEC27001認証を取得し、これに基づく研修・試験といった周知・教育のための措置を実施したりしていたことから、顧客情報は秘密として管理されていたということができるとしました。


 これに対し、被告は、関係書類が机上に放置されていたり、写しが上司に配布されたり、上司の指導で休日等における営業のために自宅に持ち帰られたり、手帳等で管理されて成約後も破棄されなかったり、就業規則が周知されていなかったりするなど、ずさんな方法で管理されていたことから、秘密管理性を欠くと主張しましたが、それは営業上の必要性に基づくものであり、営業関係部署に所属する社員以外の者が上記関係書類や手帳等に接し得たともいえないことから、営業秘密性には影響しないとしました。


 (ウ)有用性・非公知性については、顧客情報は投資用マンションを購入した数千名の個人情報であり、一般には知られていないことから、X社の事業活動に有用な営業上の情報であって、公然と知られていないものとしました。


【不正取得と図利加害目的について】

 次に、これらの営業秘密を「不正な手段」により取得したかどうかについては、不正の手段によるものとはいえないとしました。その理由としては、(a)担当者やその補助者として記憶していた顧客の氏名や住所、勤務先又は顧客から教えてもらって携帯電話に登録していた顧客の携帯電話番号を基に連絡したものであり、営業報告書や電子データ等を不正に複写するなどはしていないこと、(b)携帯電話は、被告らの個人所有物であって、自由に管理し得るものであること、が挙げられています。


 しかし、不正な手段で入手したものではなくとも、「図利加害目的」は認められました。具体的には、(a)被告らが、X社の顧客に対し、X社に倒産のおそれがあるという営業上の信用を害する事実を記載した書面を送付したり、電話で告知したりしたこと、(b)X社とY社のサービス内容が類似していること、などの事実から、X社を狙った競業を行う目的を有していたものと推認されました。


【まとめ】

 この事案の特徴は、退職後の営業職員が、在職中に携帯電話に保存されたデータや記憶を使って、会社と競業する意図で営業活動を行ったという点にあります。営業秘密とその不正利用についてはほぼ認められましたが、退職後の競業行為について、退職前に書いた誓約書又は就業規則に違反したことの債務不履行については、一部を認めませんでした。これは、退職した従業員には職業選択の自由があり、競業行為も原則として自由であるという考え方が背後にあるからかもしれません。


 この判例は、特に営業秘密についての具体的な判断の参考になると思います。


氏名:高橋弘泰

生年:1970年生

弁護士登録年・弁護士会:
2009年弁護士登録、第二東京弁護士会所属

学歴:
1994年東京大学法学部卒業

得意分野等:
東京都に勤務の後、大宮法科大学院に入学し、法曹を目指す。行政事件、刑事事件など公益的な活動に力を入れる一方、民事分野でも敷居が低く利用しやすいと同時に、内容的には決して妥協しない良質な法的サービスの提供に努めていきたいと思います。

所属事務所:
法律事務所フロンティア・ロー http://frontier-omiya.jp/index.html

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