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メンタルヘルスと法的責任(2)

テーマ:メンタルヘルス

2012年2月 2日

解説者

弁護士 高橋弘泰

 今回は、前回に引き続き、メンタルヘルス(心の健康)の問題に起因する従業員の精神障害や自殺などについて、具体的な裁判例を紹介しながら、企業が法的に賠償責任を負うのはどういう場合かについて説明します。


【責任が肯定された裁判例】

 福岡高裁平成19年10月25日判決の事案は、うつ病で自殺した従業員について会社の安全配慮義務違反が争われた事案です。この事案では、結果の予見可能性(自殺することが予見できたか否か)が争点になりました。この点につき判決は、社員の労働時間が自殺の3か月前から明らかに過重なものに至っており、特に2か月前からは連続して時間外労働が1か月100時間を超えていることや、リーダーへの昇格などの状況の中、十分な支援体制が取られず心理的負担も大きかったことから、このような勤務状態が社員の健康状態の悪化を招くことは容易に認識できたとしています。


 この判決では、上司などが社員の具体的な心身の変調を認識して、これに対応することが困難であったとしても、上記のような客観的な勤務状態から結果を予見することができたのだから、会社に過重な時間外労働の是正をする義務があったとされています。


 東京高裁平成21年7月28日判決の事案も、うつ病により労働者が自殺したケースです。この事件の特殊性として、形式的には業務請負であったがその実態は労働者派遣事業であったと認定されています。判決では、長時間労働のように客観的に明らかに過重な業務が行われていたとはいえないとしても、過重な業務への従事の点についての認識あるいは認識可能性があれば、労働者の心身の健康が損なわれることについて予見することができ、また、過重な業務が行われることを回避すれば、労働者の心身の健康が損なわれることを回避することができたということができる、と述べられています。この判決は、長時間労働といったいわば量的な業務の多さに対して、就労形態の違法性や本来業務ではない業務への従事といった、業務の質的な過重性を問題にしている点に特徴があります。労働者への安全配慮義務に関し、企業のコンプライアンス(遵法性)という側面も考慮されているといえます。


【責任が否定された裁判例】

 大阪高裁平成18年11月24日判決の事案は、鉄道会社の運転士であった社員が自殺したことにつき、この自殺は会社にレポート作成作業を中心とする日勤教育を受けさせられたためにうつ状態に陥ったことによるものであるとして、会社の安全配慮義務違反が争われた事案です。判決は、日勤教育と自殺との間に相当因果関係があるというためには、自殺についての予見可能性を要するとした上で、日勤教育担当者らが、「(社員が)死という極端な選択をするまでの受取り方をするという心理展開の予測可能性はなかったというほかない」として、予見可能性を否定しました。


 東京高裁平成20年7月1日判決の事案は、大学卒業後、システムエンジニアとして4月に入社した労働者が、体調不良のために9月に辞職届を提出し、退職予定日であった月末の数日前に飛び降り自殺をしたという事案です。判決は、システムエンジニアとしての研修が不十分ないし不適切あるいは過重なものであったとはいえず、またその業務が客観的にみて過重なものであったともいえないと認定し、業務遂行とうつ病の間の相当因果関係を否定しました。また予見可能性も否定しています。


【研修などにも工夫が必要か】

 本件や鉄道会社の日勤教育の事例では、研修内容や業務内容からうつ病や自殺との因果関係が否定されましたが、前回のコラムで紹介した事件について最高裁の示した「労働者の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでないといえるか」という判断基準で考えれば、異なる結論になった可能性も否定できません。


 メンタルヘルスケアが法律で義務化される流れからすると、今後は、会社としては、性格上心理的な負担を感じやすい社員の指導につき、精神医学に基づく手法を研修に導入するなどの工夫が必要かもしれません。



氏名:高橋弘泰

生年:1970年生

弁護士登録年・弁護士会:
2009年弁護士登録、第二東京弁護士会所属

学歴:
1994年東京大学法学部卒業

得意分野等:
東京都に勤務の後、大宮法科大学院に入学し、法曹を目指す。行政事件、刑事事件など公益的な活動に力を入れる一方、民事分野でも敷居が低く利用しやすいと同時に、内容的には決して妥協しない良質な法的サービスの提供に努めていきたいと思います。

所属事務所:
法律事務所フロンティア・ロー http://frontier-omiya.jp/index.html

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